流通系カード会社首位のクレディセゾンの株価が2019年5月15日の決算発表以降、乱高下している。6月第1週には証券会社のリポートをきっかけに急落し、8年9か月ぶりの安値をつけたと思えば、規模の大きい株主還元策が好感されて急回復した。

ただ、クレジットなど金融サービス事業の競争環境は厳しさを増しており、成長鈍化への懸念は根強く、上値の重い展開が続きそうだ。

企業間競争の激しさが背景に

クレディセゾンの株価は5月末の時点で、投資家にとっては株価の伸張を期待しにくい地合いにあった。5月15日に発表した2019年3月期連結決算(国際会計基準)と2020年3月期の業績予想が失望売りを呼ぶ中で、反転浮上できずに日々が過ぎていたためだ。

決算の内容を振り返っておこう。2019年3月期から会計基準を変更しているので若干複雑になるが、2019年3月期を参考開示の日本基準で見ると、経常利益は前期比4.5%減の541億円、純利益は11.3%減の340億円となり、会社計画よりやや上ぶれしたとはいえ減益だった。会社側は「前期にあった有価証券売却益の反動と共同基幹システムへの移行にかかる一時費用を計上したことが影響した」としている。また、2020年3月期については、事業利益(日本基準の経常利益に近い)が18.6%減の425億円、純利益が5.0%減の290億円と予想した。

この業績予想によって「期待外れでネガティブな印象」(SMBC日興証券)などの反応が広がり、市場で失望売りを誘うことになった。2020年3月期の見通しについて会社側は「先進的テクノロジーの活用や異業種参入によって新たな金融サービスが次々と創出されるなど、企業間競争がより一層激しさを増す」などと説明している。決算発表は5月15日の取引時間中の14時にあり、直後から株価は急落し、終値は前日比9.0%(121円)安の1230円だった。

「LINEペイなど新興勢との競争が激化している」

週明け月曜日、6月3日の急落を呼んだのは前週末のみずほ証券のレポート。投資判断を3段階の最上位から一気に最下位の「アンダーパフォーム」に格下げし、目標株価を1820円から1000円まで引き下げた。10月の消費税率引き上げ時に政府がとるポイント還元策などによってキャッシュレス化を巡る消費者獲得争いが見込まれる中、「LINEペイなど新興勢との競争が激化している」ことなどを指摘するレポートだった。

3日の株価は一時、前日終値比9.1%(107円)安の1063円まで売り込まれ、8年9か月ぶりの安値となった。当日高値(1119円)が前日安値(1167円)を下回る「窓を開ける」節目のチャート図となった。終値は7.3%(85円)安の1085円だった。

株価はその後、戻りが鈍く低迷が続く展開だったが、週末金曜日となる7日の取引時間中の13時に会社が発表した自社株買いを市場が好感し、株価が大きく上昇した。自社株買いは投資家にとって1株当たりの配当金の増加などを期待できるためだ。自社株を除く発行済み株式数の6.7%に当たる1100万株、金額100億円を上限に自社株買いをするとの内容で、市場は今度は「大規模な株主還元策としてポジティブサプライズ」と受け止めた。7日の発表後に株価はぐんぐん上昇し、一時前日終値比11.3%(132円)高の1304円をつけ、終値は4.6%(54円)高の1226円。少なくともみずほ証券のレポート公表後の下落分は取り戻した格好だ。とはいえその後も株価は1200円台前半で浮き沈みしている。

19年ぶりの社長交代は好材料

クレディセゾンは2019年3月、19年ぶりに社長が交代し、山下昌宏氏(61)が専務から社長に昇格した。セゾングループ創業者の故・堤清二氏の薫陶を受けた西武百貨店出身の林野宏氏(76)が社長を辞して代表権のある会長に就任し、最高経営責任者(CEO)を兼任している。林野氏は「永久不滅ポイント」の発行や東南アジアなどの海外展開を進めたほか、全従業員の過半にあたる2200人の非正規社員をすべて正社員にするなど思い切った施策で注目を集めた経営者。株式市場では、8月に77歳になる林野氏からの「事業承継」がリスクと見られてきただけに、後継のメドが立ったことは好感されている。

とはいえ、会社側も認める通り、新規参入者の相次ぐ金融サービス市場の競争環境は厳しい。体力のあるうちにどれだけ有効な対策を打ち出せるかを市場が注視していると言えそうだ。