東北の一部の棚田が、存続の危機を迎えている。岩手県一関市の金山棚田と宮城県丸森町の大張沢尻棚田。高齢化や人口減少で棚田の維持振興に向けた活動が困難になったためだ。地域からは行政の支援に加え、地域のまとめ役の存在を求める声が上がる。(音道洋範)
 

「残したい」が 後継者なし 岩手県一関市

 
 「他に手を挙げる人がいなければ、今回が最後の田植えになる」。岩手県一関市の金山棚田を守る会の小岩章一会長は嘆く。棚田を所有する金山孝喜さん(81)が、高齢を理由にやむなく来年以降の作付けを断念したためだ。後継者は今も見つからない。

 金山棚田は江戸時代後期に開拓され、42アールに100枚近い田が当時の姿をほぼ残したまま並ぶ。5月下旬、守る会の会員や国学院大学の学生ら約60人が参加し、最後になるかもしれない田植えが行われた。田植えに参加した同大学の吉田敏弘教授は「等高線に沿った形で小さな棚田が多数あり、大きな岩を避けるなど当時の苦労がしのばれる。後生に残していきたい棚田だ」と話す。

 保存会は2013年から田植えや稲刈りなどの作業をしてきた。一関市の事業を活用し、展望台や看板を設置した。修学旅行生を受け入れ、農業体験を行うなど地域活性化の舞台ともなっている。

 小岩会長は「棚田は地域の宝でもあり、残したい。だが、人口が少なくなっている中で、他の担い手を見つけるのは難しい」と話す。
 

「手一杯 …」 面積半分に 宮城県丸森町


 

棚田の様子を確かめる大槻さん(宮城県丸森町で)


 宮城県丸森町の大張沢尻棚田は、保全委員会が解散し、地域の住民3人だけでなんとか棚田を維持する。阿武隈川沿いの山あいにある石組みの棚田で、1999年に農水省が認定した「棚田百選」にも選ばれた。かつては仙台市など都市部から小学生らが来訪し、保全委員会を中心に稲刈り体験や、地元食材を使った料理を提供するなどしてにぎわった。

 だが、高齢化などでメンバーが減り、12年に委員会はやむなく解散。棚田を耕作している大槻光一さん(72)は「受け入れの準備や参加者の安全確保などを考えると、地域住民だけで運営していくのは難しい」と指摘する。

 高齢化もあり、認定時は約4ヘクタールだった面積は現在は約2ヘクタールに半減した。丸森町役場農林課の石田真士さんは「中山間地域等直接支払制度を活用した維持管理で手一杯な状況。地域が高齢化する中で棚田を今後どのように維持、振興していくかが課題だ」と話す。

保全活動の輪 広げて 棚田学会顧問の中島峰広・早稲田大学名誉教授の話


 棚田を「貴重な国民的財産」と位置付け、国の責務などを明確化した棚田地域振興法は12日に成立した。法律には「棚田地域振興活動を担うべき人材を育成し、及び確保するために必要な措置を講ずるよう努める」との一文がある。今後は具体的な人材の育成、確保策が求められることとなる。

 棚田には食料生産だけではなく、保水や洪水防止、生物多様性の維持などさまざまな利点がある。だが、高齢化などで全国的に面積は減少傾向となっている。棚田地域の振興には地権者だけではなく、地域住民が主体となり、棚田の活動に取り組んでいく必要がある。活動の輪が広がることで、後継者が見つかる可能性も生まれる。行政側は地域住民の活動や要望を受け止め、それらをサポートする体制づくりが重要だ。