-上には上がいる。

それが、この東京という街の永遠に変わらない現実だ。

高価なバッグに高級外車など、同じものを持っていても、それを手にする過程には大きな違いがある。

やっとのことで手に入れた念願のものなのか、それとも数万円のものを買うかのごとくポンポンと手にしたものか。

前者と後者は似て非なるもので、そこには明確なコミュニティーの違いがある。

後者は、世帯年収3,000万以上なんて当たり前。東京の中でも頭一つ抜きん出て資産を保有する“ハイエンド・ゾーン”。

この連載では、“ハイエンド・ゾーン”にいる女たちの生態をお届けしよう。




【今週のハイエンド妻】

名前:玲子
年齢:34歳
夫の職業:飲食系会社経営
夫の年収:年収5,000万
結婚前の職業:IT関連会社勤務
出身校:青山学院大学

玲子が待ち合わせの『ザ・ロビーラウンジ』に登場した途端に、周囲は一気に華やいだ。

エルメスの黒の25cmケリーを手に、靴はマノロ・ブラニクのアイコニックなハンギシ。服装は華やかな顔立ちとは裏腹に、とてもシックな濃紺のひざ下丈のワンピース。

“典型的な港区ハイエンド妻だよ”と言われていたが、ワンピースだけ、想像と少しだけ異なった。

「本来はあまりこういう服装は好きではないのですが。息子を受験させようと思っている学校が、親の服装にも厳しいんです・・・」

埼玉県出身の彼女だが、高校までは公立校に通い、大学から青学へ。一時期はアナウンサーも目指していたが、試験で落ちて諦め、IT関連の会社へ就職した。

そして現在の夫・真弘と7年前に出会い、6年前に結婚。5歳になる愛息子と、現在は六本木一丁目のタワーマンションに暮らす・・・と、聞けば聞くほど完璧な人生だが、実は彼女は、真弘に出会う前は洋服にお金を使いすぎて、生活もギリギリだったというから驚きだ。

「20代の頃の私が見たら、ビックリするでしょうね。こんな生活を送れているなんて」

そう微笑む玲子。一体、彼女がどうやってこの生活を手に入れたのか、じっくり話を聞かせてもらうことにした。


東京のトップクラスの生活が叶う、最高値の夫を手に入れた方法とは


ハイエンド妻になりたいならば、その座は虎視眈々と狙え


「当時、やたらと知り合いが多かったお姉さまがいて、その方が主催したお食事会で真弘と出会いました」

いわゆる“手配師”のような年上の女性から、気に入られていた玲子。彼女にうまく媚を売り、良いメンバーが来る食事会に誘ってもらっていたという。

「皆様ね、間違えているんですよ。みんな、食事会で男性をチヤホヤするでしょ?でも抑えるべきところは、中途半端な男性じゃない。良いコネクションを持っている、次のもっと良い会に繋がりそうな女性を抑えるべきなんです」

華奢でか弱そうな雰囲気の玲子だったが、話しているうちにそんな見た目とは裏腹に、実はものすごく緻密に計算している面も見え始めてきた。




玲子が20代の時に勤めていた会社は、可愛い子が多いことで有名である。

「みんな可愛いくてオシャレな子ばかり。ただ会社に行くだけなのに気が抜けた服装は絶対にできない状況でした。しかも元々ミーハーだったので、欲しい靴やカバンもたくさんあって。あの時は、見栄のために毎日が本当に必死でしたね」

また当時から読者モデルもしていた玲子は、とにかく華やかなものに夢中だった。

「雑誌の撮影に呼ばれるために、良いブランド物も必死に買う日々。でも、そんな見た目とは裏腹に家賃はかなり切り詰めており、実は当時の家賃は7万円。それでもたまに払えないピンチに陥るくらい、本当にギリギリだったんです」

しかし、そんなガッツと向上心がある玲子らしく、学生時代からの目標はただ一つ。

リッチで、セレブな生活が送れるような人と結婚することだった。

「父親は大手食品メーカー勤務で、母親は専業主婦。至って普通のサラリーマン家庭でした。そのことに対して何も考えていなかったのですが、大学で青学に入り、みんなキラキラしているし、ずば抜けたお嬢様だけでなく、“そこそこの”お嬢様もたくさんいて」

-自分は、中流家庭出身。

学生時代も、社会人になってからも、そのコンプレックスの呪縛から玲子は逃げ切れなかった。

「私の家柄は“中の中”で、一番どうしようもないポジションなのだと気がつきました。そして圧倒的に、スタートラインから負けていることに気がつかされたんです。みんな、欲しい鞄は親や彼氏に買ってもらっている。でも私はそんな贅沢させてくれるような人は周りにいなくて、自分で頑張るしかなかった」

-絶対に私は、お金持ちと結婚する。

そんな強い意志を持ち始めた玲子は、学生時代から食事会に精を出した。そして『カンテサンス』で開催された食事会で出会ったのが、真弘だった。

そんな今の夫の真弘は、どういった人なのだろうか。

「彼は一代で財を成した、飲食系の経営者です。とにかく華やかな子が好きで、飲みの席でも景気良くポンポンとお酒をあけていた。この人なら、私にもきちんとお金を使ってくれ、理想通りの結婚が望める、とビビッとセンサーは反応しました」

そんな玲子のレーダーは正しく、華やかで美しい見た目の玲子に真弘が入れ込むのは時間の問題だった。


しかし現在悩んでいることが・・思わぬ落とし穴とは


「彼は分かりやすい“成り上り社長”かもしれません。なのでとにかく、彼が一緒に連れて歩きたいと思うような、若くて綺麗な女であることが最重要。そこに、学歴も経歴も関係なかったんです」

真弘は、玲子より一回り上のバツイチだ。前妻との間に子供がいるそうだが、“結婚出来るならばどうでも良いこと”と言い切る。

そして計画的にことを進め、結婚まで漕ぎ着けた玲子。

結婚式は2回行い、ハワイではハレクラニホテル、日本ではパレスホテルで盛大に祝われた。

結婚指輪はハリー・ウィンストン、新婚旅行はヨーロッパ周遊、とまるで絵に描いたようなスタイルだが、真弘と結婚して一番変わったのは、彼女のSNSだ。

「真弘と結婚した途端に生活が一気に華やかになったお陰で、ブログの読者数も、インスタのフォロワー数も一気に増えました」

日々の買い物や生活をInstagramに投稿しているうちに、ハイエンドな生活に憧れる女性たちからフォローされ、いつの間にか有名になっていった。

しかしここへ来て玲子は予想外の問題に直面しているという。

愛息子・海人の受験だ。

「息子の志望校のママ達は、暗黙の了解でSNS禁止。母親が目立てたば目立つほど、不合格になる確率が高いと言われているんです・・・」

現在玲子は泣く泣く、Instagramのアカウントを鍵付きのプライベートアカウントにしているため、新規フォロワーは承認制になっている。




「せっかくこんな素敵な毎日を送れているのに・・・みんなに見せたいし、写真を載せたいなぁと思うことばかりですよ」

ちなみに、海人を入学させようと狙っているのは最難関とも言われる某有名私学一貫校。ママ達の服装に関しても監視の目が光る。

しかし玲子の家庭くらいの収入があればインターも視野に入れることができるはずだが、玲子のコンプレックスは出身家庭に加え、英語があまり堪能ではないところにもあるという。

「インターに入れたら、また惨めな思いをしそうで怖くて・・・。だからインターは除外しました。私達の周囲では、ママ達はきっぱり二つのグループに分かれるんです。慶應・青学・東洋英和などの有名私学校チームと、インターママに」

玲子は前者になる道を選んだ。

「なんとしてでも、息子をその学校に入れたいんです」

彼女自身に最も欠けている、“育ちと学歴”をどうにかして手に入れたいために、自分では手に入れることのできなかったそのタイトルを海人に託している。

幼稚園も受験した海人だが、現在は小学校受験用の学校にも通いつつ、英語も習わせている。日々忙しい海人の送り迎えは、カイエンに乗って玲子が全て行っているそうだ。

「夫は海外出張が多く、子育てにはあまり積極的ではなくて。なので基本的に、全て私が決めています。寂しくないかって?いいんです、海人がいれば」

受験に合格させるため、日々コネクション作りも欠かさない玲子。志望校のOBママに積極的に会い、真弘の周囲はもちろんのこと、積極的に使えるコネと権力はフル活用する覚悟でいる。

今の玲子の願望は、海人の受験を成功させること。

そして早く受験から解放されて、友達とホテルランチをしたり、Instagramをオープンにして、自分プロデュースのアパレルブランドを作ることだそうだ。

玲子が受験に必死になるのは、息子のためはもちろん、“自分のため”でもあるのだろう。華やかに見えるハイエンド妻にも、コンプレックスはある。彼女は、必死で乗り込んだ船の上で、輝くことになおも貪欲であった。

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華やか!インターママ達のクローズドコミュニティーとは?