慎重だったルノーの態度が変わりはじめた

 ゴーン元会長逮捕の直後、ルノー側の姿勢は慎重だった。ところが、2019年3月頃からルノー側の日産に対する態度が変わりはじめた。

 資本も含めてフランス政府とのつながりが強いルノーとしては「下手な出方をすると、国家の名誉に関わる」という意識が強いはず。そのため、日産に対する内部調査をしっかりと行ったうえで、日産の弱みを洗い出し、それから統合案を一気に提示してきたと見るべきだ。

 あくまでも私見だが、フランス政府としては、そもそもゴーン元会長が「邪魔」だったのではないだろうか。ベルサイユ宮殿での「実質的な誕生パーティ」など、派手な演出を繰り広げるゴーン元会長からの誘いに対応してきたが、「最近、少々度が過ぎるのでは?」という気持ちを、フランス政府高官たち、またマクロン大統領をはじめとする官邸幹部らが抱きはじめていたはずだ。最悪のケースとしては、フランス政府側が収賄などの疑惑を検察側に持たれることも考えられる。

 そうした「負の蓄積」を一気に清算するためにも、日産というゴーン体制を一掃することが先決だったのだと思う。ゴーン元会長は、日産のトップからルノーのトップへ成り上がったのだから。

ゴーン氏騒動はルノーにとって時代に適合するチャンス

 一方、自動車業界の大変革のために、ルノーは日産との経営統合が必然だと考えているのだと思う。

 自動運転、パワートレインの電動化、コネクティビティ、そしてシェアリングエコノミーへの対応で、自動車メーカー各社は人材確保、設備投資などで早期に新規事業を立ち上げることが不可欠となっている。

 そうしたなかで、企業としての生き残りをかけて、グループ全体での人的、または技術的な資産を再検証したうえで、効率的かつ将来性を重視した事業の組み換えが必要だ。

 ルノーアライアンスである、ルノー、日産、三菱のなかで、技術的な資産をもっとも多く所有しているのは、明らかに日産である。それをルノーが、単なるアライアンスの仲間としてではなく、日産に対する主従関係として、技術開発に対する実効力を重視しようと考えた。

 先述のように、ルノーが当初、経営統合について慎重かつ柔軟な姿勢を示していたのは、こうした技術案件について、日産に対するかなり詳細な内部調査を進めていたからに違いない。

 以上のように、ルノーが日産に対して一気に攻め込んできた理由は、自動車業界全体の大変革トレンドのなかで、ゴーン元会長のスキャンダルがルノーにとって大きなチャンスとなったという事実を証明しているのだと思う。