米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、米下院歳出委員会は20日までに公表した2020年度の予算案で、北朝鮮により不当に抑留された自国民の関連費用を、米政府が支出できないよう措置を講じたという。

これは、北朝鮮がスパイ容疑で抑留した米国の大学生、オットー・ワームビアさんを2017年に昏睡状態のまま釈放した際、米政府に200万ドルの医療費支払を要求したことに端を発したものだ。

ワームビアさんは帰国後に間もなく死亡。米ワシントンDCの連邦地方裁判所は昨年12月24日、北朝鮮に渡航後のワームビアさんの歯列が大きくズレていたことを示す写真などを根拠に、死因は拷問によるものと認定した。

(参考記事:北朝鮮が拷問か…死亡の米大学生の歯列変形。米メディアが写真公開

たしかに、ワームビアさんが北朝鮮に行く前と帰国後の写真を比べると、歯列が不自然に大きくズレてるのがわかる。

VOAによると、下院歳出委員会は新しい会計年度の国務支出分の予算最終案にこうした条項を追加。最終案に添付した報告書で、「対北朝鮮支援予算の支出を禁止する条項は、北朝鮮に不法に抑留された米国人に関連するコストを北朝鮮政府に支払ったり、返済したりすることにも適用される」と明記したという。

つまりは「北朝鮮の思い通りにさせてたまるか」という、反撃の一矢である。

北朝鮮はワームビアさんを釈放した際、送還交渉のため同国入りしたジョセフ・ユン国務省北朝鮮政策特別代表(当時)に200万ドルの医療費請求書を手渡した。ユン氏は先月29日のCNNとのインタビューで、北朝鮮側からの請求を受けてレックス・ティラーソン国務長官(同)にこれを報告。ティラーソン長官が速やかにサインするよう指示したと証言しつつ、同長官はドナルド・トランプ大統領から承認を受けていたものと認識していると付け加えた。

言うまでもなく、これには米国世論の反発が巻き起こった。

当たり前である。米国民からすれば、「どうして北朝鮮から拷問された米国人の治療費を、米国が北朝鮮に払わねばならないのか」となるからだ。

そうでなくとも、米国ではワームビアさんの一件により、北朝鮮は無実の米国人に対しても拷問を行う残忍な国家であるという認識が強まっている。

トランプ氏も一時、金正恩党委員長との良好な関係を優先しようとの立場から、ワームビアさんの問題を軽く受け流そうとして反発を受け、泡を食ったことがある。

この問題はこうして、米朝関係にジワジワと影を落としていくだろう。両国が抱えているのは、核問題だけではないのだ。

ちなみに下院歳出委員会は、従来と同じく新しい会計年度においても、北朝鮮関連の予算支出は人権問題の改善のための活動に限定するとしており、特に中国とアジア諸国における脱北者の保護活動などに支出するよう勧告している。これもまた、金正恩氏には厄介な問題だろう。