アメリカの将来を背負うであろう、コロンビア大学の学生たちにキャッシュレスサービスの利用状況や人気の就職先など、率直な意見を聞いた(写真:LeoPatrizi/iStock)

1981〜1996年の間に生まれた、ミレニアル世代と呼ばれる若者たち。人口が多く、デジタルネイティブといった特徴を持つ彼らはいったい今、何を考えているのか?

そこで今回、コロンビア大学の学生を中心としたミレニアル世代の若者たちと座談会を行い、アメリカの若者の変わりゆく価値観や実態について議論を行った。

彼らはアメリカのトップクラスに位置する大学の学生らであり、かつ、ニューヨークという超リベラルな土地に住んでいる。つまり、ある意味で偏った層の若者たちだ。しかし同時に、彼らがアメリカの未来の知識階層になり、影響力を持っていくだろうことも事実だ。

彼らの政治への見方について聞いた前々回記事、SNSの利用実態などについて前回記事に続き、今回記事ではキャッシュレス決算やネットショッピング事情などについて聞いた。

いちばん使っているキャッシュレスサービスは?

原田:日本は先進国の中で最もキャッシュレス化が遅れている国の1つだと言われています。いまだに東京でも、現金しか受け付けない焼き鳥屋さんとか、カード決済をしたときの手数料を10%くらいとるお店なんかもあり、クレジットカードでさえ使い難い状況も多々あります。キャッシュレスが早く進んだ国の若者である皆さんは今、現金は持っているの?

アンナ:20ドルは持っているわ。使えないお店も少ないけど、あることはあるから。でも、日本に旅行に行く前は現金を一切持っていなかったんだけど、日本で現金が必要なことが多く、日本に行ってから現金を少し持つ習慣に変わったわ。

原田:キャッシュレス化が進んでいない日本で、大変遅れた習慣を染み付けてしまってごめんなさい……。

テイラー:まったく持っていないわ。

エレン:海外旅行に行くときくらいしか持たないかなあ。

キャリス:10ドルくらい。クレジットカードが使えない場所もごくたまにあるから。

原田:皆がいちばんよく使うキャッシュレスサービスは何ですか?

一同:デビットカード。

アンナ:大学生のクレジットカードの限度額は500ドルなことが多いの。だから、大学生は銀行口座と直結しているデビットカードを使っている人が多いわ。で、社会人になったらクレジットカードを使うようになる人が一般的。クレジットカードならポイントが付くし。

原田:中国の大都市部では、街のたばこ屋でもスマホのQRコードで何でも買えてしまうけど、アメリカではQRコードはどうかな?

一同:そこはアメリカは遅れています。

原田:中国より先にカードなどでキャッシュレス化が進んでしまった国では、QRコードの普及はひょっとすると難しいのかもしれないね。日本は欧米型のクレジットカード・デビットカード派か、中国型のQRコード派か、どちらのキャッシュレス化になっていくんだろうね。

ところで、日本ではまだ割り勘アプリが普及していないんだけど、銀行口座と直結していて、割り勘や個人間での支払いができるVenmo(ベンモー)という送金アプリが、数年前にロスの若者たちに調査したときにかなり使われるようになっていましたが、ニューヨークの若者の皆さんは使っていますか?


Venmoの送金アプリの使い方を教えてくれる学生たち(写真:筆者撮影)

一同:皆、使っています。

テイラー:友達に借りたお金を返すときに。

ヨータム:僕はバイトでベビーシッターをしているけど、その代金をこのアプリでもらいます。

テイラー:友達とタクシーに乗って、タクシー代を割り勘するとき。あとは、ルームシェアしている友達と電気代を割るときに。

原田:やっぱり、若者の間で割り勘をするシーンって本当はたくさんあるはずだよね? 日本でもいくつか割り勘アプリがあるんだけど、あまり普及していない。QRコード決済でも割り勘はできるんだけど、そもそもQR決済自体がまだまだ普及していない。

そもそも日本は割り勘文化だから、ファミレスなども、現金でもカードでもお客が割り勘で会計するのを嫌がらなかったりするから、この手のアプリが普及しないのかもしれない。

誰がどこでお金を使ったのかわかるのが楽しい

キャリス:自分で使ったモノを大学内で他人に売るときに使っている人も多いです。いちばん多い学生のこのアプリの使用法は、ルームシェアの共益費を互いに支払うときではないでしょうか。

テイラー:Venmoが2014年に行った地下鉄のCMはかなり印象的でした。いかにもミレニアル世代を狙っていて、「このアジア人のミレ二アル世代のLucasという若い男性が使っているから、貴方も使おう!」といった感じのものでした。

キャリス:Venmoの特徴の1つは、SNSのように皆とつながるところだと思います。つながっているから、つながった人たちが、どこでお金を使ったかなどが見られることができ、それが超楽しいです。

原田:えー! 友達がどこでいくら払ったかわかるんだ?

キャリス:いえ、使った金額まではわからないです。どこで、までです。

原田:日本の若者たちは、インスタのストーリーなどで周りの友達が何をしているのか大変気にして見るようになってきているけど、アメリカの若者も周りの友達の動向が気になるようになってきているんだね。

SNS世代である世界中のミレニアル世代をマーケティングでつかむツボの1つは、SNSでつながっている友達の動向をいかに気にさせるか、ということかもしれないね。Zenly(ゼンリー)という相手の位置情報がわかるアプリもはやっているし。

SNS以前の僕が若者だった時代には、もちろん、友達の今の状況の情報を得るツールなんてなかったし、僕個人の特徴も大きいのかもしれないけど、好きな女の子が何しているかは知りたかったけど、周りのどうでもいい友達が何をしているかなんて、まったく気にしたことなかったけどなあ。当時、こうしたツールがあったら、僕も周りを気にするようになっていたんだろうか。

エレン:私はプライベート設定にしているので、Venmoで私がどこで買ったかは非公開にしています。私はあまり人に見られたいと思いません。

原田:若者の間でも「気になる派」と「気にならない派」、あるいは、「見せたい派」と「見せたくない派」に分かれてきているのかもしれないね。

なぜAmazonで洋服や食品は買わないのか?

ちなみに、話題を変えますが、皆さんはAmazonを買い物に使っているよね?

一同:頻繁に使っています。

テイラー:日用品はAmazonでしか買わない学生も多いと思う。

原田:今回、ニューヨークに来て驚いたんだけど、マンハッタンなどの中心部からどんどんおもちゃ屋がつぶれているみたいだね。高額の家賃で、単価の低いおもちゃ屋は割りが合わないのだろうし、子どものおもちゃはネットで買うのが定番、となってきているようだね。逆に、皆がAmazonで買わないモノは何なの?

テイラー:みんな、洋服と食品はAmazonで買いません。

原田:洋服はやっぱり実際に試したいし、とくに生鮮食品なんかはやっぱりリアル店舗がいい、ということなんだろうか……。

確かにニューヨークではお店はあくまでショールームと位置づけ、洋服を店舗で試して、気に入ったらお店でお金を払い、買った商品を倉庫から自宅に送ってくれるという、ネット発のアパレルショップがかなり増えてきているようだね。

あとは洋服を買うにしても、各ブランドサイトで買い、Amazonで買わない、という面もあるんだろうね。Amazonは日用品を買う場であって、ブランドイメージの高いものを買う場ではない、ということなのかな。

また、上海などでは生鮮野菜をアプリで注文してデリバリーしてもらったりするのもはやってきているけど、アメリカはそういう現状にはなっていないんだね。

社会としてよいことかどうかはわからないけど、中国の大都市部には安い人件費で雇える人が大量に存在するから、大変低価格で多くのモノをデリバリーできる、という面もあるんだろうね。

そうそう、昨日、Amazonが出した実店舗の書店であるAmazon-BooksとAmazonで4つ星の評価がついた商品ばかりが売られているAmazon 4-starに行ってきて感動したのだけど、ニューヨークの若者の皆さんはよく行くのかしら?

やっぱり、あのAmazonでさえ、実際の書店での本のショールームを必要としていることが感じられて、本を書く立場の僕としてはなんだか安心したし、4-starに関しては、純粋にアメリカで何が売れているのかわかって楽しかったです。

テイラー:うーん、私は両店舗とも知らないわ。

数名:聞いたこともないなあ……。

エレン:あんまり良い印象ではないです。ネットで買えるからAmazonの良さがあるわけで、彼らはホールフーズも買収したし、リアルな店舗を出したらAmazonのよさがなくなってしまうように思う。

原田:EC企業が最も欲しいデータが、リアル店舗の購買データなんだよね。だから、ECサイトがリアル店舗に進出する動きが世界で加速していて、このリアルとバーチャルが合体された小売りのことを「ニューリテール」と言ったりするんだけど、まだアメリカでさえ、若者たちにニューリテールの可能性の魅力は伝わっていないんだね。

あと、アメリカである程度普及している決済サービスといえばApple Pay(アップルペイ)があると思いますが、それは使っている?

アラン:Apple Payは使っています。Paypal(ペイパル)は、ECサイトのeBay(イーベイ)などを使う際に、クレジットカード情報を入れたくないときに使います。これにはすでにクレジットカード情報が入ってるから。

キャリス:仕事をしたときに、Paypalで給料を払ってもらいます。

ヨータム:eBayとPaypalはつながっているけど、今はアメリカでECと言えばAmazonに集約されつつあるので、あまりペイパル自体も使わなくなってきていると思います。

アンナ:私はApple Payは使いません。理由は、Appleに私の情報をあげたくないからです。

原田:個人情報の流出問題もあり、アメリカにはアンチフェイスブックの人が増えていると聞くけど、アンチアップルも含め、ニューヨークの高学歴の学生たちは、個人情報に超敏感なんだね。

アメリカの出会い系アプリ事情

企業は個人情報の安全性とそれを企業が得ることによる消費者にとってのメリットをしっかりと説いていかないと、消費者に拒否されてしまう難しい時代になっているかもしれないね。ところで、日本はいわゆる「マッチングアプリ」大国です。たくさんのマッチングアプリが日本では乱立しています。

もともとナンパや恋愛が下手な国民性もあるからかもしれません。アメリカの若者の間ではTinder(ティンダー)やバンブルがはやっていると言われているけど、実際のところ、若者の間でマッチングアプリはどうなっていますか?

エレン:私のボーイフレンドはティンダーで見つけたわ。5年前に。

テイラー:OKキューピットというアプリも有名よ。

キャリス:たまに使うわ。新しい街に引っ越して来たときに、友達を増やすために使ったりするわ。

原田:恋愛だけでなく、友達作りなど、結構カジュアルに使われていそうだね。国民性の違いもあるんだろうけど、日本はどうしてもちょっとうさんくさいイメージが根強いような気がするなあ。

アンナ:新しい人と出会うのが面倒、と思っている学生も結構多いと思います。

原田:日本では「若者の恋愛離れ」なんてことが言われているけれど、アメリカでもそんな傾向が出てきているのかしら。

ヨータム:過去に使ったことはあります。会ってデートをしたこともあります。

原田:スマホゲームはどうだろう?

一同:あまりやらないわ。

アンナ:移動時間の隙間にちょっとやったことはあります。

原田:アメリカの大学生は日本の大学生より勉強で忙しいし、実家を離れて寮に住んでいる人が多いから、学校と寮との移動時間が大変少ない。東京の学生のように電車カルチャーだと毎日、隙間時間がたくさんできるけど、アメリカはそうじゃないもんね。

ところで、今、アメリカの企業の間では、マリファナ成分入りドリンクに注目が集まっています。アメリカでは州によってはマリファナや、医療用マリファナが解禁されている流れもあり、エナジードリンクの次はこのCBD(Cannabidiol)ドリンクだ、という動きもあります。若者たちの間ではこのCBDドリンクはどうなんでしょう?

エレン:確かに今、話題になってるけど、どんなものかよくわからない。CBDの入浴剤を使っている友達もいます。また、加熱式タバコのJUULにもCBD入りのものが売られるようになっています。

原田:アメリカでは有名人がマリファナを吸って捕まることが少ないけど、日本ではマリファナなどのソフトドラッグも、コカインなどのハードドラッグも違いがあまり認識されておらず、芸能人などがどちらをやっても大きな社会的制裁を受けることになります。だから、ハイになる成分が除かれているCBDドリンクであっても、日本ではなかなか是非を議論すること自体が難しいかもしれません。

アメリカの高学歴な学生が就職する企業とは?

ところで、アメリカの学生の間ではどんな就職先が人気があるんだろう?日本の報道では、アメリカで10代で起業して大金持ちになる若者や、NPO団体にこぞって就職する若者など、やや極端で特徴的な若者が取り上げられる傾向が強いので、普通の高学歴の学生がどんなところに就職をしたいと思っているのかが知りたいのだけども?

テイラー:私はもう働いていますが、私が就職活動をしていた2013年頃は大手コンサルと大手金融が大変人気がありました。

アンナ:私たちミレニアル世代の間では、世界を変えることができる仕事が尊敬されます。企業の政治的姿勢も学生から求められます。私たち世代は、高校生のときに学校での銃乱射事件、そしてその後、むちゃくちゃなトランプ政権を見てきているので、この企業の社会的な姿勢が、就職先としての選択ポイントに入っていると思います。

イラーナ:確かにそれも一理あるけど、既存の大手コンサルや銀行もいまだに人気はある。

アンナ:Tech系企業(Google、Facebookなど)もいまだに人気があると思います。

原田:今、日本の学生の間では、大企業志向が急激に高まってきています。平成不況の間は、大企業で採用を抑制していたところも多かったので、日本の学生の間では、不景気の中でも安定している公務員志向が高まっていました。しかしこの数年、景気の上向きもあり、団塊世代の大量退職と少子化があまりに長く続いたことで、人手不足が深刻化した業界も増え、大企業が採用人数を増やしたからです。

世界最高峰のコロンビア大学の学生の間でも、やっぱり、人気と言ったら超有名大手企業なんだね。

ただし、加えて、「企業の姿勢」という視点も入ってきたんだね。日本の大学生で「企業の姿勢」を重視して就職活動している学生は何%いるんでしょうね、大変少ない気がします。日本の大学生は「社風」は重視してそうですが。

話はそれるけど、日本の学生は今、上記の理由で就職が世界的に見て大変楽になってきているんだけど、アメリカの学生は景気がよくなっても、新卒一括採用はないし、世界中の学生がライバルになるし、超有名大手企業に入るのは超難しいもんね。

超格差社会、超競争社会のアメリカに比べると、少子化や景気回復などにより、競争環境が大幅に減っている日本の学生は大変恵まれていますね。問題はそのことに日本の若者があまり気づいていないことなんですけどね。

君たちのような優秀なアメリカの学生さんたちにも、若者の雇用が大変恵まれている日本に来て就職してもらえる日がくるといいなあ。まあ、アメリカの大手企業と比べると、日本の大企業の給料は大変低いので、この点は世界から優秀な人材を呼び込めていない深刻な問題点なんですけどね。

原田の総評:アメリカや日本の未来を示唆

コロンビア大学の学生を中心としたニューヨークの学生たちとの座談会はいかがでしたでしょうか? 1回目は「若者の政治意識」について、2回目は「若者とSNS」、そして3回目は「キャッシュレス社会」について主に議論しました。

ところどころ日本の若者のリアルな状況も入れさせていただいたので、日米の若者の比較論として読んでいただくこともできるのではないかと思います。日本およびアメリカで若年層を対象にマーケティングする企業の皆様には、その比較こそ、マーケティングのポイントの1つとなりうるので、是非、ご参考にしていただきたいと思います。

さて、今回座談会に参加してくれた彼らは、アメリカの中でも超優秀な、そして超リベラルなニューヨークの学生、という意味で超極端なごく一部の若者たちであることは確かです。

しかし同時に、彼らが未来のアメリカの頭脳になっていくであろうこと、そして、アメリカが日本より先に進んでいる面があり、日本に影響を与える国であるという仮定に立ってみると、今の彼らのピュアな意見や価値観が、アメリカの未来、そして日本を含む世界の未来を示唆する点が多分に含まれている可能性があると言えます。

是非、彼らの意見を参考に、今のアメリカのリアルを知り、いいところは取り入れ、悪いところは二の舞を踏まないよう、読者の皆様のお仕事にお役立ていただけると幸いです。

【座談会参加者プロフィール】

ヨータム:コロンビア大学学生。政治学専攻。イスラエル出身。軍隊に6年いた。趣味はイラストレーション。校内雑誌に掲載している。音楽が好き。将来はブランドメッセージのある起業をしたい。

アンナ:コロンビア大学4年生。趣味は旅行とネットフリックス。今後、韓国語を勉強したいと思っている。

アラン:コロンビア大学哲学専攻の4年生。ディベートソサエティに入っていて、日々、たくさんディベートする。ペンシルベニア出身。

アダム:コロンビア大学4年生、政治学専攻。週に20時間は大学の学生リーダーをしている。予算は1million(日本円で約1億1000万円)を運用していて会計担当。将来は政治家になりたい。学生リーダーをしているのは趣味と実益を兼ねている。リーダーになるために5000〜6000の学生寮の部屋を叩いて回って、自分への投票を呼びかけたことがある。少し前に健康の問題からビーガンになったばかり。でも、本当はハンバーガーが大好き。

イラーナ:政治経済専攻。大学の寮で6人で住んでいる。アイビーリーグのフェンシングのチャンピオン。

テイラー:ペンシルベニア大学出身。趣味はフィクションの小説を書くこと。最近、5万語の小説を1カ月で仕上げた。大学機関の事務局幹部育成プログラムを卒業している。いずれ大学の受験課の長になりたい。旦那さんはドイツ人のデータサイエンティストでペンシルベニア大で知り合った。

キャリス:コロンビア大学で歴史専攻の4年生。趣味は映画製作、演技。

エレン:コーネル大学を卒業してコロンビア大学ビジネススクールの研究所で働いている。歴史と政治学を専攻していた。趣味はランニングと旅行。

(協力)荻野僚子:コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所

(調査設定・通訳)シェリーめぐみ:1991年からニューヨーク在住。ジャーナリスト、ラジオ・テレビディレクターとしてアメリカのエンタメ、文化、経済、政治まで幅広く日本に情報発信。オフィシャルブログ 。連載に日刊ゲンダイ連載「ニューヨークからお届けします」。JFN On The Planet シェリーめぐみfrom NY(月〜木:全国36局ネット) など。