[画像] 受動握力と指の力を鍛える

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。野球はバットやボールなどさまざまな用具を使ってプレーをしますが、用具を保持する握力や指先の把持力(はじりょく:物をもつ、握る力)は野球のパフォーマンスに大きく影響すると考えられます。今回は握力、指先の把持力がもつ役割とそのトレーニング方法などについてお話をしたいと思います。

握力には2種類ある何かを握って離さない力もまた握力の一つ

 握力というと一般的には物を握る能力であり、握力計を使った測定によってその力を数値化することが可能です。一方スポーツにおいては握った物を離さない力もまた握力ととらえられており、前者を「能動握力」、後者を「受動握力」と呼んで区別することもあります。 受動握力は自分の意志によって物を握る「能動的な」動作ではなく、握った物を外力など別の「受動的な」力が加わることによって物を離してしまわないように抵抗するものです。 野球の動作で考えてみると投球動作ではボールを強く握る(能動握力)というよりも、ボールをより長く持った状態を保ち、ボールに力を伝えることがスピードアップやボールに回転を与えることにつながるため、指先でボールをコントロールする力や遠心力に負けない保持力(受動握力)もまた高めたい力であるといえるでしょう。プレーにおいて大きな力を発揮するためには下半身、体幹の筋力が不可欠ですが、動作の終盤において巧みな動きをコントロールしたり、同じ動作を繰り返すことができる=プレーの再現性を高めたりするところに握力が関係します。

受動握力を鍛えるエクササイズ

 握力を鍛えるエクササイズとしては、ダンベルやバーベルを使って手首を曲げ伸ばしするリストカール、リストエクステンションなど前腕筋群を鍛えるものが一般的ですが、受動握力を鍛える場合は何かにつかまってその状態を保持するエクササイズを選択するようにします。手軽に取り組めるものとしては鉄棒や懸垂などが挙げられます。 懸垂では上腕や背中の筋肉を使って体を持ち上げますが、そこまでの筋力が備わっていなかったり、体重が比較的重い選手などはただぶら下がっているだけでも受動握力のトレーニングになります。また綱を使ったトレーニングでは綱をしっかり握る力と同時に、握った綱を離さない力も鍛えることができるので、綱引きや綱登りといったエクササイズも握力強化として適しています。他競技であれば壁にある突起物をつかんで壁を登るボルダリングなどは、受動握力を鍛えるためによいスポーツであるといえるでしょう。

指先の把持力を鍛えるエクササイズ指の一本一本を丁寧にストレッチし、関節可動域を拡げることも大切

 ボールに力を伝えるためには手指の把持力もまた強化したいものの一つです。特に投手はボールに回転をかけたり、強く押し出したりするときに指先の力がパフォーマンスに貢献します。昔からソフトテニスボールなど柔らかいものを握るスクイズ(しぼる)動作は握力強化として行われていましたが、指先を意識してエクササイズを行うことで、指先の把持力強化にもつながります。また指先についても意識的に行う能動的な力とは別に、つかんだものを離さない力も必要となってきます。たとえばハンドボールなど大きなボールを手のひら全体と指先でつかみ、それを離さないようにする力です。最近は指先の力を強化するために柔らかくて重量のあるソフトウエイトボールといったトレーニング用具などもあり、ボールをつかんで離す動作を繰り返すことで指先の把持力や筋持久力を鍛えることができます。

指先に力を伝えるために

 前腕や指先などの強化をすることと同時に行いたいものが、指先に力をスムーズに伝えられるストレッチです。特に指先に至っては細やかに一つ一つを丁寧にストレッチすることは少ないと思いますが、指の一本一本に付着している筋肉は違ってくるので入浴時間などをつかってストレッチを行うようにしましょう。また指の関節一つ一つの動きについても指の曲げ伸ばしを反対の手を使って他動的に行うと、関節可動域(関節の動く範囲)が拡がりやすくなります。特に投手はこうした指の関節可動域をより良くするとボールにかかる力が大きくなり、特に変化球の回転に変化が見られるケースもあります。ピッチングの前後などにもこうしたストレッチを取り入れて、ボールの軌道などを確認してみるとよいでしょう。

 握力は握る力だけではなく、握ったものを離さない受動握力も必要であり、それをスムーズに伝達するための関節可動域も普段から意識して動かすことが大切です。野球のパフォーマンスに貢献する握力、指の力を理解しておきましょう。

【受動握力と指の力を鍛える】●握力には物を握る能動握力だけではなく、握ったものを離さない受動握力もある●握力や指の力は大きな力を発揮するというよりも、巧みな動作や再現性に貢献する●鉄棒にぶら下がることでも受動握力の強化につながる●指先で何かをつかんで離さない力もまた強化する必要がある●指先からボールに力を伝えるためには関節可動域を拡げておくことも必要

(文=西村 典子)

次回コラム公開は2月15日を予定しております。