東京23区ー。

東京都の中心となる23の「特別地方公共団体」の「特別区」のことを、私たちは東京23区と呼ぶ。

23ある中の、どの区に住んでいるかによって、その人の傾向や特徴は如実に表れるもの。

料理研究家として活動する青柳里香(28歳)が、各区の男たちとデートを重ねることで感じた、それぞれの特徴と生態とは・・・?

前回は、渋谷区スタートアップ系男子、絶対王者港区男子や千代田区プリンス、幸福度高めな世田谷区男子を見てきた。今週は?




-久しぶりに来たなぁ。

金曜19時。私は飯田橋駅を降りて、冷え込む街を見渡す。今日のデート場所は、神楽坂だ。

毎回神楽坂に来るたびに背筋が伸び、大人の街へ一歩足を踏み入れたような、心地よい緊張感を味わっているのは私だけだろうか。

Google Mapを見つつ、本日のデート相手・博之から指定された『蒼穹』を目指しながら、一方通行の坂を上る。

この早稲田通りは時間によって方向が変わる“逆転式一方通行”だ。

でもこうなったのは“某有名政治家が、好きな女性の家へ行き来しやすいように方向を決めた”との言われがある。

嘘か真かは分からないが、そんな俗説が未だに根強く残るのは、なんとも神楽坂らしいのかもしれない。

本日のデート相手は、先日食事会で出会った経営者の博之・45歳。

優しくて、この神楽坂のように大人で素敵な男性だったのだが、そこには大きな落とし穴があったのだ・・・


余裕もお金もある。Over40歳との、恋愛の落とし穴とは!?


石畳には全く向かなかいピンヒールで来たことを後悔しつつ、メインストリートから少し奥まった細い道を抜けて店を目指す。

車が入り込めない細い裏路地。夏は打ち水がされ、冬はキンと冷え込む石畳。そんな風情が楽しめるこの街は、東京の中でも好きな場所の一つだった。

そんな雰囲気を楽しみながら店の暖簾をくぐると、グレーのグレンチェックのスーツに、ブラウンのネクタイ姿の博之が既に席についていた。

シックながらもお洒落な装いがよく似合っており、一方の私はこの店や彼に相応しいか、今一度自分の服装を見直す。

「遅くなってすみません!ちょっと道に迷っちゃって」
「全然待ってないよ。この界隈、お店探すの難しいよね」

優しく微笑む博之の笑顔に、私も思わず笑顔になる。大人の男性は、素敵だ。若者にはないゆとりと包容力があるから。

「ここはね、日本酒ペアリングができる店なんだ。日本酒、飲めるかな?」

私は黙ってコクリと頷く。

こうして日本酒を愉しめるようになる度に、大人の階段を上っている気持ちになる。そして何よりも、しっぽりとした“神楽坂デート”には日本酒がよく合う気がする。

「わぁ・・・美味しい」

料理にマッチした日本酒を一口飲むたびに、頬が赤くなっていく。“優雅な大人のデート、良いなぁ...”そう思いながら。




「神楽坂は、来ることある?」

博之の温かい眼差しに、私は小さく首を横に振る。一人だと、中々来る機会のない神楽坂。

こうして誰か素敵な人がいれば喜んで来るのだが、私には依然として敷居が高い。

「まぁこっちの方には中々来ないかぁ。でも意外にカジュアルな店も多いし、良い街なんだよ」

「そうなんですね〜。ところで、どうして神楽坂にお住まいなんですか?」

私の周囲で、神楽坂に住んでいる人の割合は低いが、博之はこの街がとても気に入っているようだ。

「元々港区にも住んでたんだけど、あの辺の落ち着かない雰囲気に嫌気がさして。で、この新宿区に流れ着いたんだ」

-そっか、神楽坂は新宿区になるのか。

博之の言葉に、私は少しハッとなった。“新宿”と言えばどちらかと言うと新宿駅周辺の歌舞伎町などネオン街のイメージが強く、怖い印象がある。

だが神楽坂も新宿区になると聞いた途端に、急に良いイメージになってきた。

「場所によって様々な表情があるからね、この区は。新宿と聞くとあまり良いイメージがないかもしれないけど、都庁もあるし、あと23区内の中でも特に国際色も豊かだしね」

日本酒を飲みながら、博之の話をふむふむ、と聞く私。

ここまで、何も悪い所が見当たらない博之。だが徐々に、気になる点がポロポロと出てきたのだ。


一見完璧な博之。だが、里香には受け止めきれない事実が・・・


「そう言えば里香ちゃん、今は彼氏いないの?」

突然の質問に、私は大きく首を横に振る。

「まぁまだ里香ちゃんは若いから、まだまだ結婚とか考える必要もないもんね」

最近、出会うのは同世代や年下が多く、“若い”と久しぶりに言ってもらえた気がする。年上の男性というのは、なんと優しいのだろうか。

「いえ、適齢期なのでそろそろ真剣に結婚を考えないといけないんですけど、中々・・・」

ごにょごにょと小さな声で呟いていると、博之はまた優しい言葉をかけてくれる。

「そんな、焦らなくても大丈夫だよ。里香ちゃんは可愛いし、引く手数多でしょ」

博之の言葉に甘えつつも、私は話しながらふと彼の髪と目尻のシワに目がいった。たしか彼は45歳と言っていたが、実際はもう少し年上に見える。

「博之さんは、結婚願望とかないんですか?お子さんが欲しいなぁ、とか」

思い切って、博之に素朴な疑問をぶつけてみる。だが予想外の返事を聞いて、私は何と答えて良いのか分からなくなってしまったのだ。

「あぁ、僕はもう前妻との間に子供もいるから、今はないかなぁ」




「あ、お子様がいらっしゃるんですね・・・」

決してバツイチも悪くないし、年齢が上でも問題はない。

だが、こちらが初婚で相手に子供がいるとなると、正直複雑な気持ちにはなる。

もし仮に博之と付き合い、結婚したら、私はその子とどう絡んでいくのだろうか。上手くやっていける?思春期とかになったら、何を言われるんだろう?

そんな不安が大きくなり、決して彼は何も悪くないのについ腰が引けていく。

人の人生は、十人十色。

それぞれの人生には歴史があるし、その歴史は人を語る上で一つも欠けてはならぬ大事なピースだろう。

だが、子持ちの45歳の男性と一歩進んだ関係になることに踏ん切りのつかない自分もいる。

個性として受け入れるべきなのに、私にはこの新宿区のような自由さがなく、個性の強さを受け入れられるほどのパワーと柔軟性が不足しているのかもしれない。

シックな雰囲気の神楽坂も、東京都の政治を司る都庁などのビジネス街も、眠らぬ歓楽街・歌舞伎町も韓国系の店が立ち並ぶ新大久保も、全部新宿区。

何でも受け入れてくれるこの区の寛容さは、もしかしたら都内随一かもしれない。

-私は、まだまだ甘ちゃんだなぁ。

そんな新宿区のダイバーシティな面と自分の小ささを比較しつつ、神楽坂の夜は静かに更けていった。

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【新宿区ダイバーシティ男子まとめ】
・経験値豊富
・特に区に対して思い入れナシ
・新宿区内でも住んでいる場所によってキャラが異なる
・あまり大きな声で“新宿に住んでいる”とは言わない
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