ブームから2年が経過した「ポケモンGO」。現在では"地域限定ポケモン"捕獲のため、他国を訪れる旅行客も(筆者撮影)

旅の情報を知りたいときは、パンフレットやネットを覗くのもいいが、やはりいちばん参考になるのは、その土地を訪ねたことがある人の経験談だろう。
丸山ゴンザレス氏などさまざまな土地に足を運ぶ旅人たちが執筆陣に並ぶ『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ 最新版』の中から、今回は「海外で楽しむポケモンGO」について一部抜粋して紹介する。著者は旅ライターのイヌイサトシ氏。

「観光です」。今年で海外旅行歴が20年目の私が、入国審査でうその渡航理由を言ったのは、これが初めてだった。係員は疑いの目を向けることなく、がしゃんと入国印を押し、「よい旅を」と白い歯を見せてパスポートを突き返した。

メキシコシティのベニート・フアレス国際空港に降り立った私は、誰の目から見ても観光客にしか見えないはずだ。しかし、過去5回も訪れているメキシコに正直、観光したいところはおろか、何の用事もない。今回、ここに来た目的はただひとつ。ポケモンGOで中南米地域にしか出現しない「ヘラクロス」を捕まえること。そのためだけに、もともと予定していたアメリカ旅行への出発を少し早め、1日半のメキシコ滞在を無理やりねじ込んだ。

「ポケモンファースト」の旅

30を過ぎた大人が、ポケモンGOのために海外まで行くなんて、大きな声では言えやしない。「たまたま、マイレージの特典航空券が取れたから、しかもANAのビジネス」。ちょっと言い訳っぽくいってみたが、仮に特典航空券の空席がなかったとしても、ヘラクロスを捕まえにメキシコに来ていたのは間違いないことは自分がよくわかっている。ポケモンファーストの旅であることは、ごまかしようがない。特典航空券とはいえ、燃油サーチャージや各種税金はかかる。宿代だって必要なので今回の“リアル課金”は結構な額。やっぱり、大きな声では言えない趣味だ。

2年前にリリースされ、大ヒットになったポケモンGO。位置情報を利用したこのゲームでは、限られた国でしか捕まえることができない地域限定ポケモンがいる。これが、旅行好きで、小学生の頃にポケモン赤・緑をプレーした世代の私に突き刺さった。ポケモンGOがリリースされて以降、私が旅行先を決める基準に地域限定ポケモンが出現するかどうかが加わった。とはいえ、あくまで行きたい旅行先があって、そこでポケモンもするというレベルだ。

しかし、日本国内で捕まえることができるポケモンをほぼ捕まえ、ロンドンでバリヤードを、メルボルンでガルーラを、その帰国便の経由地バンコク・スワンナプーム空港でコータスをゲット。遠征が実を結んでポケモン図鑑が埋まっていくと、「もう全部捕まえに行くしかない」と火がついてしまった。

主な地域限定ポケモン(2018年8月現在)
バリヤード(欧州)
ガルーラ(豪州)
ケンタロス(アメリカ)
ヘラクロス(メキシコなど中南米)
コータス(タイ、マレーシア、インドなど南アジア)
トロピウス(アフリカ、南欧の一部)
ジーランス(ニュージーランド) など



中南米限定のポケモン、ヘラクロス(筆者撮影)

2018年8月時点で実装されている地域限定ポケモンのうち、日本人にとって難易度が高いのは、ヘラクロス(メキシコなど中南米)とトロピウス(アフリカ、南欧の一部)の2匹。

後々、ポケモンの交換機能が追加される(2018年6月から実装)と噂されていたので、余分に捕まえてトレードの弾にもできると考え、狙いをつけた。

最初のターゲットはトロピウス。主にアフリカで出現するのだが、ギリシャなど南欧の一部でも出現するとの情報を海外サイトで発見。ただ、ギリシャはすでに行ったことがあったので、さらに調べてみると以前から行きたいと思っていたキプロスでもトロピウスが出るということがわかり、キプロス行きが決定した。

ポケモンの神様が見ていてくれている

キプロス自体はとてもすばらしい国で、旅そのものは満喫できたのだが、肝心のトロピウスゲット大作戦は不発だった。キプロスはそんなにポケモンGOが盛んではなく、ポケモンが出現するポイントが非常に少なかった。トロピウスはおろか、ポッポやコラッタですらろくに出ないという厳しい環境。キプロス島内の移動にはレンタカーを使っていたので、移動中のポケモン捕獲ができなかったことも苦戦の一因だった。

トロピウスの影が初めて見つかったのは、2日目の夕方。遺跡の見学を終えて、周囲を散歩していたときだった。さっきまでいた遺跡の中にトロピウスが出現。慌てて戻ろうとしたが、遺跡の見学時間はすでに終わっていて、ゲートは閉められていた。ほんの数10メートル向こうなのに、届かない。キプロス滞在は残り1日、一瞬ゲートを乗り越えようかという考えが頭をよぎったが、神聖な遺跡だし、さすがにまずい。ここで諦めたことをキプロスの神様かポケモンの神様が見ていてくれていると信じ、最終日に懸けることにした。

結果、それが正解だった。なんと最終日、帰国するために空港に向かう途中で立ち寄ったスターバックスの前にトロピウスが現れ、ゲットに成功。結局、捕まえたのはこの1匹のみ。しかも、神奈川・横須賀市で行われるイベント限定でトロピウスが日本に上陸するという。これではトレード作戦は使えない。この時点でヘラクロスを捕まえるため、メキシコまで行くことを決意した。

出会って5秒で交換


メキシコでの実際の捕獲画面(筆者撮影)

不発に終わったキプロスと違い、メキシコではヘラクロス7匹でまずまずの収穫。

メキシコはポケモンGOをプレーしている人も多く、レイドバトルのときに集まっていた現地のトレーナーとポケモンの交換も成立。日本の地域限定ポケモン「カモネギ」を出し、珍しい「アンノーン」のXをゲット。地域限定ポケモンを持っていると、知らない人との間でもあっさりトレードが成立することも確かめられた。

日本に帰国したら、見せびらかすようにヘラクロスを相棒にセットし、レイドバトルでも場に出してヘラクロスを持っていることをアピール。するとこちらから持ちかけなくても「交換してもらえます?」とオファーをもらうこともちらほら。


ただ、こちらの狙いはまだ捕まえていないニュージーランド限定のジーランス。こちらもかなり貴重なポケモンだが、何人かに声を掛けたら現地捕獲組がいた。あちらはちょうどヘラクロスを探していたようで、すぐにトレード決定。『出会って5秒で交換』に成功し、その当時に実装済みの全375種類のポケモンをコンプリートした。

同じポケモントレーナーとはいえ、知らない人に声を掛けて交換をお願いするのは勇気がいった。でも、『出会って5秒で交換』がうまくいっていなければ、今頃ニュージーランド行きの旅行を計画していたはず。費用、時間の節約という意味でも、ヘラクロストレード作戦は大成功だった。

今後、新たな地域限定ポケモンが追加されるたびに、次の旅行の計画を立てないといけないのかと思うと少し気が重いが、ここまできたらもう引き返せない。これからもポケモンファーストの旅を継続するしかない。