12月7日にオープンしたROLLY’S ROLL ICE CREAM KYOTO渋谷モディ店の様子(筆者撮影)

2017年夏、デコレーションも華やかなロールアイスが登場し、一躍ブームとなった。同年6月、原宿に店舗をオープンし、そのブームの震源地となったのが、ロールアイスクリームファクトリーだ(参考記事:原宿ロールアイス、話題と行列が続く仕掛け)。

しかし同時期、実は関西地区でも、ロールアイスの波が密やかに起こりつつあった。その担い手が、ROLLY’S ROLL ICE CREAM KYOTO(ローリーズロールアイスクリーム京都)だ。同店は、ICE ROLL FACTORY(アイス ロールファクトリー)として、2017年8月に京都にてスタート。2店舗目の京都タワーサンド店オープンのタイミングで、現在の「ローリーズ〜」に名を改め、これまでに京都で2店、名古屋に1店の3店舗を展開している。

なぜ真冬に東京進出?

そしてこのたび、ついに東京に初進出。12月7日に渋谷モディ1階に店舗をオープンした。しかし、腑に落ちない点がある。なぜ真冬という、アイスクリームにとっては厳しい時期に、東京進出という大きな展開を図ったのか。また一般的に、スイーツのブランドを広める上で最も有名なのは原宿。なぜ今回の立地を選んだのだろうか。

実際に店舗に足を運んだところ、ビルの開業時間である11時早々ということもあり、お客はまだ来店していない。どうやら、オープン当初には3時間待ちの行列ができたロールアイスクリームファクトリーとは、だいぶ様子が異なるようだ。

渋谷モディはそもそも、「便利なところにあるから立ち寄る」立地型ではなく、「欲しいものがあるから行く」目的型のビル。それを象徴的に示しているのが5階で、アニメ雑貨のTHEキャラSHOP、独自の編集による音楽・映像・書籍を扱うHMV&BOOKS渋谷など、趣味性の高いフロアづくりが行われている。

というのも、渋谷モディは丸井グループの展開する商業施設であるが、商圏人口の多い立地で展開するマルイに対し、モディは「立地によって臨機応変に展開するブランド」として位置づけられているからだ。

同グループでは2007年以降、「ヤング中心、モノ中心」から、「すべての世代、モノ・コト」へと方針を転換した。さらに2014年からは、仕入れ契約に基づく百貨店型の経営から、不動産契約によるSC(ショッピングセンター)型・定期借家型のビジネスモデルへ移行した。渋谷モディはまさに、その直後の2015年の11月にオープンされている。

このように、渋谷モディで展開するからには、「京都発のロールアイスを食べられるから」という理由でお客が集められる店でなくては厳しい。実際の集客の状況を、店長の山岡悠樹氏に伺った。なお同店は、アミューズメント、飲食事業を展開する第一物産の関連会社であるA.S.Pが運営を担っている。

「平日は、午後3時ぐらいからが忙しいですね。学生はもちろん、修学旅行生、インバウンドも多いです。もっとも、海外の方は買っていただけるというよりは、『これが日本のロールアイス』という感じで、写真を撮影するのを目的に来られる方もいらっしゃいますね」(第一物産A.S.P事業部の山岡悠樹氏)

なるほど、同店はアイスクリームを制作するカウンターが、ビルの入り口や通路に面していて、オープンに制作過程が見えるつくり。お客でなくとも、いくらでも写真が撮れるわけだ。実際の客数は、平日は150〜160人程度、休日はその2倍ぐらい。もっとも、1つのカップを数人で分け合うことも多いようで、販売数は平日70〜80食、休日170〜180食だそうだ。

この寒さのなか、まずまずの売れ行きと考えることもできるが、山岡氏は「関東初進出、人口も多いことを考えると、欲を言うと、もう少し売れてほしい」という。というのも、京都や名古屋の店舗は人通りの多い繁華街や観光スポットにあり、売れ行きもいい。京都タワー内にある店舗では、「修学旅行生が一気に来店し、1時間で30食が出ることもある」(山岡氏)そうだ。

「意外だったのが、東京ならすでにロールアイスはかなり認知度が高まっていると予想していたのですが、わりと『新しいスイーツ』という感覚で食べてくださるところですね。ほかの目的でビルに来た人が、『あ、ロールアイス、ここで売っているんだ』などと、寄ってくださることもあります」(山岡氏)

競合店との違いは?

そして、どうしても比べてしまうのが、ロールアイスクリームファクトリーである。実際、山岡氏によると、同店のアイスと間違って訪れる客も多いようだという。どう違うのか、味わってみた。


京都のお茶屋さんから抹茶を仕入れているという渋谷モディ店限定の「宇治抹茶ワラビ」850円(筆者撮影)

試食したのは渋谷店限定の「宇治抹茶ワラビ」(850円)だ。抹茶味のアイスに、ロールケーキ、ミニ鯛焼き、番傘をトッピングし、外見でも京都をアピール。ロールアイスクリームファクトリーがかなりデコラティブで「キュート!」という方向のかわいらしさなのに対し、こちらはむしろ、シンプルと言える。

スプーンをアイスに入れるには、まずタイ焼きを取り除かなければならない。やっと口に含むと、クリーミーで、抹茶のほろ苦さがほのかに感じられる。ロールアイスクリームファクトリーのほうは空気を多く含み、サッパリしているのに対し、こちらは濃厚。

「生地にはかなりこだわりがあり、開発にはパティシエにも入ってもらいました。見た目だけでなく、味にも感動してもらえると自負しています」(山岡氏)

抹茶も京都のお茶屋さんから仕入れているそうだ。とはいえ、ここまでは尋常な抹茶アイス味。しかし突然「ぷにゅっ」という食感があらわれ、驚いた。わらび餅だ。

わらび餅は、トッピングしてあるのではなく、生地に混ぜ込んであったわけだ。制作過程を見ると、抹茶入りの生地を冷却した天板に広げ、わらび餅を投入。こてで、スピーディーに切り刻んでは混ぜ、なめらかな生地を作っていく。四角いシート状に成形、カットして巻き、カップに詰める。トッピングして完成。

「わらび餅が天板やこてにくっつくので、当店でいちばん難しいメニューなんですよ」(山岡氏)

目標はディズニーランドのような接客

しかし、京都店から経験を積んでいる、店舗でもっとも技術の高い社員が作成してくれたため、5分もかからずに完成した。この技術を目の当たりにできるのも、ロールアイスの楽しみである。

「オペレーションに関しては、回転率を上げるために、天板の温度、作成にかかるタイムなど、徹底的に研究してきました。また、うちの差別化ポイントが接客なんです。作っている間もお客様と会話して、その時間を楽しんでいただくようにしています」(山岡氏)


四角いシート型に成形したアイスを、細長くカットして巻いていく。同店ではアイス制作を進めながらお客と会話を交わす「コミュニケーション」を売りにしている(筆者撮影)

目標はディズニーランドのような接客。スタッフの研修では2週間かけて、ロールアイスの技術のほか会話の教育を行うそうだ。「映える(ばえる)」が口語として流通するぐらい、今は見た目、写真映えに価値がある時代だが、あえて接客に力を入れる理由を聞いてみた。

「写真に撮ってアップするのは簡単ですし、その楽しみは当店の店員がいなくても成立します。でも、コミュニケーションでお客様に『よかった』と思ってもらえるのは難しい分、価値があると考えます。SNSの投稿でも『店員さんが優しかった、会話が楽しかった』と書いてあるほうが、その投稿を見た人の気持ちをつかむと思います。一方で、こうした接客の水準を高めていくのは大手チェーンでは難しい。当社のような規模だからこそできることなのかな、と思っています」(山岡氏)


渋谷モディ店限定の1番人気メニュー「渋谷ブラック」780円(筆者撮影)

同店での1番人気は、これも渋谷店限定の「渋谷ブラック」(780円)。竹炭入りのバニラベースの生地に、オレオクッキーを刻んで混ぜ込んでいる。トッピングはチョコレート生地のロールケーキ、オレオ、ベア型のチョコレートクッキーなど、ブラックで統一。渋谷という立地にふさわしく、クールで個性的なロールアイスだ。

「お恥ずかしい話かもしれないのですが、ロールアイスクリームファクトリーさんがハロウィンに季節限定で黒いアイスを発売されたんです。どこの店の商品か、というのを意識せずに買われた方も多かったのだと思います。でも、それ以来、このブラックが1番売れ筋のアイスになっており、販売数は平日で10食、休日は20食といったところです」(山岡氏)


渋谷モディ店オープン記念メニュー、300食限定の「渋谷レインボー」780円(写真:ROLLY’S ROLL ICE CREAM KYOTO)

見た目のインパクトで言えば、オープン記念の限定メニュー「渋谷レインボー」(780円)が一押しだ。生地は他店でも人気のストロベリーで、レインボーカラーのケーキがトッピングされている。300食限定とのことなので、「食べてみたい」という人は早めに渋谷店を訪れたほうがよさそうだ。

しかし、試食してみての率直な感想は、味はともかく、ロールアイス7本入りのカップをひとりで平らげるのはこの季節厳しいということである。防寒はしていたものの、芯から冷え冷えになり、しまいには歯がガチガチ鳴りはじめてしまった。数人で分け合って食べるという客が多いのももっともだ。店舗ではイートインスペースは設けていないので、歩きながら食べるスタイルが基本ということも考えると、やはり冬の東京展開はかなりの挑戦だったのではないだろうか。店舗戦略的な部分を、A.S.Pの広報担当者に伺った。

来春のFCショーを見越しての冬場オープン

「非常に厳しい季節のオープンであることはわかっていたのですが、東京に進出したいという思いはかねてから強く持っておりました。また渋谷モディ様ともご縁があり、出店を決めました。来春にはフランチャイズ・ショーへの出展とFC(フランチャイズ)展開を計画していますので、そのためにも東京への出店を希望していたところがあります」(A.S.P広報担当者)

このように、2019年3月に東京ビッグサイトで開催されるフランチャイズ・ショーへの出展と、その先のFC展開を見据えた東京進出だったようだ。なお、フランチャイズ・ショーは業界では日本最大規模の展示会で、2018年2月に開催されたフランチャイズ・ショーでは、3日間で3万人を超える来場者が訪れた。

また、過去の記事でもご紹介しているように、アイスクリームの消費量は年々増加し続けており、季節にかかわらずアイスの売れ行きはよい。「珍しい」「流行だから」「ここでしか食べられない」などの付加価値があれば、寒くても売れるという勝算も多少あったのだろう。

今回の東京店進出については、「まだまだ認知度も低く、満足がいくものではない」としながらも、今後に期待をかけているようだ。確かに既存店では、過去4時間待ちの列ができたこともあるそうで、商品力は高いのだろう。主要都市への直営店展開に加えて、今後はFC展開を広げていきたいという同社。合わせて宣伝戦略に力を入れる必要がありそうだ。