パーティに欠かせないラテン系ポップアクト、フェミニズムの伝道師たる女性ギタリスト、ヒップホップの新時代を切り拓く革命児まで、次々と登場した新星たちがシーンを賑わした2018年をローリングストーン誌が総括。今年のベスト・アルバム50枚はこれだ!

今年の音楽シーンは例年にも増して新鮮さに満ちていた。スーパースターによる特大ヒットが生まれなかった代わりに、若い才能が然るべき評価と注目を集めた。野心的なラテン・ポップ、極彩色のサザン・ラップ、ジェネレーションZ流インディ・ロック、従来の枠にとらわれない奔放なカントリーまで、様々なスタイルがシーンを豊かに彩った。プリンスの変幻自在のクリエイティビティをアップデートしてみせたジャネール・モネイ、ヒットチャートにパーソナルな要素を持ち込んでみせたアリアナ・グランデやカミラ・カベロ、ポール・マッカートニーやエルヴィス・コステロ、デヴィッド・バーンやジョン・プラインをはじめとする、挑戦的で洞察力に富んだ作品を送り出したベテラン勢、そして唯一無二の個性をさらなる高みに到達させてみせたドレイク等、2018年の音楽シーンは何が起きてもおかしくない現在の状況を体現していた。米ローリングストーン誌のライター、エディター陣が選んだ今年のベスト・アルバム50枚をランク付けする。

50位 CupcakKe『Ephorize』
49位 エスペランサ『12 Little Spells』
48位 ザ・カーターズ『エヴリシング・イズ・ラヴ』
47位 ファーザー・ジョン・ミスティ『ゴッズ・フェイヴァリット・カスタマー』
46位 スリープ『The Sciences』
45位 ロビン『Honey』
44位 ジェフ・トゥイーディ『Warm』
43位 リル・ウェイン『Tha Carter V』
42位 アシュリー・マクブライド『Girl Going Nowhere』
41位 アマンダ・シャイアス『To The Sunset』
40位 パーケイ・コーツ『Wide Awake!』
39位 ナイン・インチ・ネイルズ『バッド・ウィッチ』
38位 エリック・チャーチ『Desperate Man』
37位 ティエラ・ワック『Whack World』
36位 スティーヴン・マルクマス&ザ・ジックス『Sparkle Hard』
35位 エルヴィス・コステロ『ルック・ナウ』
34位 コートニー・バーネット『Tell Me How You Really Feel』
33位 ネコ・ケース『Hell-On』
32位 デヴィッド・バーン『アメリカン・ユートピア』
31位 ロザリア『El Mal Querer』
30位 Free Cake for Every Creature『The Bluest Star』
29位 スーパーチャンク『ホワット・ア・タイム・トゥ・ビー・アライヴ』
28位 フローレンス・アンド・ザ・マシーン『ハイ・アズ・ホープ』
27位 ノーネーム『Room 25』
26位 スネイル・メイル『Lush』

※26位〜50位の画像はこちらをチェック。

25位 レイ・シュリマー『SR3MM』

2018年は長尺のアルバムが歓迎されない傾向があったが、ミシシッピ出身の双子デュオ、レイ・シュリマーは与えられたスペースを誰よりもふんだんに活用してみせた。101分に及ぶサイケデリックなトラップミュージックから感じられるその野心は、サザンラップ界の帝王アウトキャストを彷彿とさせる。ランボルギーニをテーマにした「Powerglide」や、喜びと悲しみが同居する「Hurt to Look」等、Swae LeeとSlim Jxmmiの兄弟は、その名を知らしめた初期のポップ・ラップが宿した若さゆえのエネルギーを保ったまま、広がり続ける音楽的好奇心を作品に反映させてみせた。

24位 カリ・ウチス『Isolation』

コロンビアにルーツを持つポップ界の新星、カリ・ウチスの快活なデビュー作は初期のベックを彷彿とさせる。持ち前のヒップホップ・ソウル的グルーヴ感を存分に発揮した「Your Teeth in My Neck」、ブラジル音楽やレゲトン、ファンク、ドゥーワップ等の要素が溶け合う「Miami」など、あらゆる曲に彼女のカリスマ性がはっきりと滲み出ている。「キムになろうなんて思わない だって私はカニエになれるんだもの / ヤシの木とチャンスに囲まれたこの街なら」その言葉に異論を唱える者は多くないだろう。

23位 USガールズ『In a Poem Unlimited』

メグ・レミーの6枚目のスタジオアルバムは、2018年において最も政治的メッセージ性に富んだ作品のひとつだった。インテリジェントでボーダレスな同作は、性急なサックスやトリッピーなギターリフ等、アシッド・ファンクからレトロなディスコまでの影響を感じさせる。「Rage of Plastics」は、まるでカレン・シルクウッドによるスクリーミング・ジェイ・ホーキンスのカヴァーのようだ。「M.A.H.」では70年代調のディスコビートに合わせ、救いのない結婚生活(とオバマ政権下における幻想)について洞察する。自己発見の喜びを歌ったトリップホップ調の「Rosebud」は『市民ケーン』を思わせ、突然変異のクラブアンセム「Incidental Boogie」では家庭内暴力の被害者の心理を描いてみせる。確固たる意志とヴィジョンを持ったフェミニストたちが立ち上がる現在、もはや現実逃避は許されない。

22位 ジョン・プライン『The Tree of Forgiveness』

自身がファンであることを公言しているディランを除けば、ジョン・プラインはアメリカでも随一のキャリアを誇るシンガーソングライターだ。カントリー/アメリカーナ界の大御所デイヴ・コブがプロデュースを手がけ、オリジナル作としては約10年ぶりとなった今作で、プラインは改めてその才能を見せつけた。愛する者の帰りを待つ切なさを歌った「Summers End」や、現在の社会情勢の風刺ともとれる率直な「Caravan on Fools」等、アルバム全編にわたってその堂々たるテナーボイスが響き渡る。感傷的で諦念に満ちた「When I Get to Heaven」では、死後の世界に思いを馳せている。彼がその地へ行くのはまだまだ先であると信じたい。

21位 ビーチ・ハウス「7」

ウォームでファジーなドリーム・ポップを信条とするバルチモア出身のビーチ・ハウスは、新鮮なアイディアによって自らを生まれ変わらせた。ドラムやシンセを従来よりも大々的にフィーチャーした7枚目のアルバムは、過去に送り出した全アルバムが本作への布石だったと思わせるほどの完成度を誇っている。アルバムにおけるハイライトでありサイケデリックな輝きを放つ先行シングル「Lemon Tree」、無限に続く無重力空間をイメージさせる「Lose Your Smile」や「Pay No Mind」等、その楽曲にはまさに唯一無二の魅力がある。長くキャリアを積んできたバンドは保守的になりがちだが、彼らは勇気と才能をもって自らの殻を破ってみせた。

20位 ザ・ベスズ『Future Me Hates Me』

ニュージーランド出身のザ・ベスズは、60年代のヒッピー文化を思わせるメロディーと90年代のファズギターを融合させてみせる。彼らのデビューアルバムは、ニュー・ポルノグラファーズの『マス・ロマンティック』やザット・ドッグの『リトリート・フロム・ザ・サン』と肩を並べる、インディー・パワーポップの傑作だ。 メインのソングライターを務めるエリザベス・ストークによる歌詞は恋愛観、不安、自己発見といったテーマを扱っているが、そのキャラクターは「私のことをよく知れば、きっとあなたは私のことを嫌いになる」という切ない内容に、本屋の会計待ちの列で思わず口ずさんでしまうようなカジュアルさをもたらしている。オルタナ・ロック界に現れた新星は本作で、この上ないキャリアのスタートを切ってみせた。

19位 ホップ・アロング『Bark Your Head Off Dog』

2015年発表の秀作『Painted Shut』に続く本作で、フィラデルフィア出身の彼らは過去と決別し、名実ともに大きな進化を遂げてみせた。『Bark Your Head Off Dog』では、「How You Got Your Limp」における酔っ払った教授、「One That Suits Me」に登場する狂気にとりつかれた将校、そして「Somewhere a Judge」におけるいい加減な判決まで、奇妙かつヴィヴィッドなキャラクターやシーンが次々と描かれる。 Frances Quinlanが繰り返し口にする「奇妙なやつらが舵を取るという不思議」というフレーズは、今年最も印象的だったもののひとつだ。万華鏡のようなポップから嵐を思わせるフォークまで、複雑な世界観の核となるのは圧倒的な演奏技術だ。聞くたびに新たな発見のある、スルメのように味わい深いアルバムだ。

18位 ヴィンス・ステイプルズ『FM!』

投げやりというよりも直感的という表現がふさわしい『FM!』は、わずか22分間というステイプルズのキャリア史上最短のレコードではあるが、彼は本作で野心に満ちた前作『ビッグ・フィッシュ・セオリー』とは大きく異なる方向性を示してみせた。変化球的なビートを選ぶことでその卓越したラップスキルを証明してみせた前作に対し、『FM!』ではリスナーの体を揺らせることを重視している。よりスタンダードな方向性といえるが、ステイプルズは圧倒的スキルで見事にビートを乗りこなし、ファンの期待に応えてみせた。ギャングの日常をメランコリックかつユーモラスに描くというスタイルはそのままに、彼ならではのジョークが以前にも増して冴え渡っている。

17位 ルーシー・ダッカス『Historian』

リッチモンド出身のシンガーソングライター、ルーシー・ダッカスは今年2枚の秀作を発表した。1枚はボーイジーニアス(ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリッジャーズと共に結成したスーパーグループ)のデビューEP、もう片方は自身の2作目となる本作だ。生々しいヴァースはそのままに、彼女は繊細かつ卓越した技術をもって静と動を行き来する。ストリングスとブラスセクションのゴージャスなアレンジは、ヴォーカルが伝える感情を一層リアルにしている。彼女は声を張り上げることなくメッセージを届けることができるが、「Pillar of Truth」における彼女の「魂の叫び」はリスナーを圧倒する。

16位 サッカー・マミー 『クリーン』

ナッシュビル出身のインディ・クイーン、ソフィー・アリソンによる大胆なムードと音楽性が魅力のデビューアルバムは、本年度最大のスリーパーヒットだった。自身の価値観をはっきりと打ち出していた過去の作品群はBandcampで大きな支持を獲得したが、『クリーン』で彼女はソングライターとして大きく飛躍してみせた。「Your Dog」「Last Girl」等のアップテンポな曲が現実の厳しさを描く一方で、「Still Clean」や「Flaw」、「Blossom (Wasting All My Time)」といったバラード群は、聞き手の感情を激しく揺さぶってみせる。

15位 J.バルヴィン『ヴィブラス』

2015年作「Energía」でレゲトンの未来を切り拓いたJ.バルヴィンは、ボーダレスで壮大な本作『ヴィブラス』でメインストリームの最前線に躍り出た。コロンビア出身のシンガーの大ブレイクが、「デスパシート」で火が点いたラテン・ポップの人気を不動のものにしてみせたことは、科学的実験、そして非欧米圏のアーティストが活躍するプラットフォームの確立という意味でも大きな意味を持っている。まるでカメレオンのように、バルヴィンは自身のカラーをめまぐるしく変化させる。若きプロデューサーSky Rompiendo、そしてレゲトン界の重鎮Marco ”Tainy” Masísと共に、バルヴィンはダンスホールやアフロビート、そしてエレクトロ・ポップを違和感なく融合させてみせた。どうカテゴライズされようと、どこまで上り詰めようと、バルヴィンが自身に課した使命が揺らぐことはない。それは彼にとって初のトップ10シングルとなった「ミ・ヘンテ」ではっきりと明言されている。「俺の音楽はあらゆる人々に向けられている」

14位 ミツキ『ビー・ザ・カウボーイ』

胸に抱えた痛みを生々しく描いた2014年作『Bury Me at Makeout Creek』と2016年作『ピューバティー2』の2作で、ミツキはインディー・アイコンとしての地位を確立してみせた。しかし本作『ビー・ザ・カウボーイ』で、彼女はオルタナロックのカタルシスを放棄し、ディスコやグラムロック、カントリー、そして劇中歌といったスタイルに挑戦してみせた。わずか2分間の傑作「Washing Machine Heart」、「Lonesome Love」、「Me and My Husband」といった楽曲群では、彼女が頭の中で作り上げた架空の人生が描かれる。収録曲の大半のフックがそうであるように、「Nobody」のコーラスではそのタイトルが延々と繰り返される。それはまるで、彼女の音楽が持つ底知れぬ深さを表現しているかのようだ。

13位 ジャネール・モネイ『ダーティ・コンピューター』

ラディカルに形を変え続けるファンクポップという、プリンスが確立したスタイルの継承者たるモネイは、政治的メッセージ性とパーティの開放感を同居させた傑作を完成させてみせた。ベテラン勢(ブライアン・ウィルソン、スティーヴィー・ワンダー等)からコンテンポラリーなアーティスト(ファレル、グライムス等)まで、本作には経験豊富なゲストたちが多数参加しているが、主役はあくまで怒りに満ち、喜びに溢れ、セクシーで、クイアの黒人女性としての誇りとフェミニズムを主張するモネイ自身だ。「ジャンゴ・ジェーン」では恐るべきラップスキルでファンの度肝を抜き、最終曲の「アメリカンズ」では大統領選以来広がり続ける国民間の溝を埋めようと呼びかける。かつてなく分断と対立が目立った2018年において、本作はポップ・ミュージックの真価と可能性を提示してみせた。

12位 ブランディ・カーライル『By The Way, I Forgive You』

自身を「田舎町出身のレズビアン・フォークシンガー」と形容する彼女は、本作『By The Way, I Forgive You』で2005年のデビュー以来育み続けてきたその才能を一気に開花させた。その圧倒的な歌声と、デイヴ・コブとシューター・ジェニングスによる控えめながらも秀逸なプロダクションに支えられた楽曲群は、閉鎖的な社会に対する失望と不満を滲ませている。自分に素直に生きようとアウトサイダーたちの背中を押す「The Joke」は、違いを受け入れようとしない人々を沈黙させる。「Hold Out Your Hand」における「あなたはもう十分すぎるほど我慢した」という歌詞は、世界をより開けた場所にするために戦い続ける人々の魂の叫びだ。

11位 ポール・マッカートニー『エジプト・ステーション』

マッカートニーは『エジプト・ステーション』で、『エボニー・アンド・アイボリー』以来初めて(実に36年ぶりに)チャートのトップの座を獲得した。『ラム』にも通じるエキセントリックなポップソングの数々には、マッカートニーにしか生み出せないマジックがはっきりと宿っている。遊び心に満ちた「ファー・ユー」のようなシングル曲がどこか収まり悪く感じるのは、悲しみをたたえたアコースティック曲「コンフィダンテ」や、ボサノヴァ調の「バック・イン・ブラジル」、ポストパンク風のギタードローン「ドミノズ」といった、空間を活かした楽曲群こそがハイライトである証拠だ。マッカートニーは本作で、76歳にしてその音楽的好奇心が少しも衰えていないことを証明してみせた。

10位 ドレイク『スコーピオン』

ドレイクは今年、ヒップホップ界における不機嫌な皇太子という肩書きを遂に放棄した。「ナイス・フォー・ホワット」「イン・マイ・フィーリングス」「ゴッズ・プラン」といったキャリア史上屈指のシングル群によって、ドレイクは文字通り世界最大のポップスターとなった。ドレイクはこれまでも富と名声が自分を幸せにはしないと歌い続けてきたが、『スコーピオン』は彼のディスコグラフィーにおいて最も長尺かつ洗練されたアルバムだ。2枚組アルバムでありながら捨て曲のない本作だが、そう感じないリスナーは好きなトラックだけを集めたプレイリストを作ればいい。自身の作品がそうやって消費され、それが結果的に多額の収入をもたらすことを、彼は誰よりもよく理解している。

9位 カート・ヴァイル『ボトル・イット・イン』

フィラデルフィア出身、ロングヘアーがトレードマークの吟遊詩人による78分間に及ぶアルバムは、悪夢と夢心地のギタートーンを融合させてみせる。他愛のないむく犬の話(「Loading Zones」)には磨きがかかり、トリッピー感(「Bassackwards」)はさらにディープに、奇妙な内輪ネタ(「Skinny Mini」)は苦笑いを誘う。『ボトル・イット・イン』はヴァイル史上最もルーズでくだけたアルバムであり、ナッシュヴィルの土臭さを漂わせる「Rollin With the Flow」のように、時にはあからさまにおどけてみせる。一方で「One Trick Pony」やタイトル曲には、がんじがらめのソウルと形容すべきウォームなフィーリングが宿っている。Discogsで売りに出されているニール・ヤングの古いCDを除けば、2018年にこういったレコードに出会う機会はまずないだろう。

8位 レディ・ガガ&ブラッドリー・クーパー『アリー/スター誕生 サウンドトラック』

2018年のポップスシーンを一言で形容するとすれば、「狂っていた」に尽きるだろう。「カリフォルニアに眠る黄金のように、私の魂の奥深くに封印されていた」という歌詞が示唆するように、レディ・ガガは70年代のソフトロックというルーツに立ち返ることで、アーティストとしての自身を再発見してみせた。自身で監督もこなしたロックスター役のブラッドリー・クーパーは、エディー・ヴェダー風のジャケットを着こなし、ジェイソン・イズベル作の「メイビー・イッツ・タイム」をエディ・ヴェダー風のダミ声で歌い上げる。ステファニー・ジャーマノッタ(ガガの本名)はキャリアを通してヴィジュアル面でのインパクトを重視してきたが、劇中でDeep Estefanのピアノバラードを歌う彼女の姿は、その最大の武器がモンスター級の歌声であることを改めて証明してみせた。

7位 プッシャ・T『Daytona』

ラップ界屈指の頑固者であり、クオリティに徹底的にこだわることで知られるプッシャ・Tは、何年もかけて完璧なエスパドリーユを1足作り上げるイタリアの靴職人を思わせる。「俺の仕事が遅すぎるとツイートしてるやつら / 泣く子も黙る俺さまのやり方に口を出すな」全7曲21分間の傑作で、彼はそうラップしてみせる。事実、彼と兄のノー・マリスによるユニットであるクリプスが9年前に有終の美を飾るアルバムをリリースして以来、彼ら以上に自らの成功ぶりを堂々と祝福し、敵をコテンパンに叩きのめすことができるラッパーは登場していない(「Infared」では宿敵ドレイクを攻撃している)。機知とユーモアに富み、容赦ないパフォーマンスを聞かせる『Daytona』は、プッシャ・Tのソロとしては文句なしの最高傑作だ。ソウル、ロック、プログレのサンプルを徹底的にチョップしたビートのクオリティは、カニエが今年送り出したレコードの中でも群を抜いている。

6位 トラヴィス・スコット『アストロワールド』

慢心ぶりが目立った2018年の音楽シーンにおいて、『アストロワールド』はその記念碑的アルバムだった。カニエ・ウエストが5枚のアルバムを通じて達成したことを、彼の被後見人は17曲に凝縮させてみせた。大胆かつ繊細でありながら、時に牙をむき出しにするトラヴィス・スコットは、トップクラスのビート、スマートなトランジション、そして豪華ゲストの数々を動員し、故郷であるヒューストンの過去と現在を描く一大絵巻を完成させてみせた。「この壮大なシット、束ね上げたのはこの俺」スコットは「シッコ・モード」でそう宣言してみせる。才能とカネを磁石のごとく引き寄せる稀代の才能が、今年度最高のラップアルバムを作り上げた。

5位 アリアナ・グランデ『スウィートナー』

過去数年間、アリアナ・グランデの人生は波乱続きだった。彼女が経験した悲劇、傷心、そして愛する者の死がもたらした影響は、傑作『スウィートナー』の制作だけでなく、発表後のプロモーションにまでも及んだ。しかし、彼女はファレルとマックス・マーティンの力を借りて完成させた独創的R&Bポップによって、苦く辛い思いを甘美な喜びへと昇華させてみせた。フロア向けの「ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ」や、イモージェン・ヒープが作曲に携わった「グッドナイト・アンド・ゴー」は、キャリア史上最も実験的でありながら、かつてなくストレートに彼女の素顔を映し出している。ファンが彼女にむける思い、それはまさに「サンキュー、ネクスト」だ。

4位 ピストル・アニーズ『Interstate Gospel』

ミランダ・ランバート、アシュリー・モンロー、そしてアンジェリーナ・プレスリーというカントリー界を代表する3人によるスーパーグループの3作目は、収録曲すべてにかつてない深みが備わっている。愛と結婚における暗い一面を描いた「Got My Name Changed Back」や、後悔の念を描いた「Best Years of My Life」「When I Was His Wife」には、3人それぞれの持ち味が見事に反映されている。さらにチャック・リーヴェル(オールマン・ブラザーズ・バンド)、ダン・ダグモア(70年代にリンダ・ロンシュタットを支えた)を擁する鉄壁のバックバンドは、ロックとカントリーの境界線を曖昧にしてみせる。

3位 カミラ・カベロ『カミラ』

今年最高のデビューアルバムに備わった屈強さは、長く続いていくであろう彼女のキャリアの土台となるに違いない。『カミラ』には飾り気のない成熟さ、キャリアを通じて身につけた実力、そして問答無用のキャッチーさが備わっている。特大ヒットとなった「ハバナ」には、単にトレンドを追いかけるだけのポップシンガーにはなるまいとする、彼女のスタンスがはっきりと現れている。ロックやオールドスクールなラテン・ポップ、そして伝統的ソングライティングを融合させた本作からは、若き女性アーティストの素顔がくっきりと浮かび上がる。

2位 ケイシー・マスグレイヴス『ゴールデン・アワー』

本作でメインストリームでのブレイクを果たしたマスグレイヴスは、ロレッタ・リンを思わせるカントリー界の反逆児から、ディスコに夢中のコズミック・ソフトロック・カウガールへと転身してみせた。『ゴールデン・アワー』は実に巧みなやり方で、現代の「カントリー・ミュージック」を縛るルールをことごとく破ってみせた。(予想された通り)メインストリームのカントリー専門ラジオ局からのサポートは得られなかったが、本作はポップチャートでトップ5、カントリーチャートでナンバーワンを記録した。優雅な浮遊感を漂わせる「スロウ・バーン」、トレードマークである小生意気さが光る「ハイ・ホース」、そしてダフト・パンク風のヴォコーダーが印象的な「オー、ホワット・ア・ワールド」まで、本作は野心とバラエティに富んでいながら、聞き手に寄り添うような親密さも備えている。

1位 カーディ・B『インヴェイジョン・オブ・プライバシー』

「私はリッチでビッチ、匂いでわかるでしょ」モダン・クラシックとなったデビューアルバムで、彼女はそう宣言してみせた。特大ヒットとなった「Bodak Yellow」に続くフルアルバムは、笑えるツイートを詰め込んだだけの内容であってもおかしくなかった。しかし彼女は、ダーティ・サウスの血統を示した「Bickenhead」、ゲストに迎えたバッド・バニーとJ・バルヴィンと共にドミニカンとしての誇りを主張する「I Like It」等を収録した本作で、唯一無二の歌声を誇るイノベイターとしての地位を確立してみせた。閉鎖的でどこか暗かった2018年のヒップホップシーンにおいて、彼女が放つネオンカラーのカリスマ性、そして人々のポップへの関心を踏み台にする度胸は極めて新鮮だった。ストリップクラブでキャリアをスタートさせた彼女は、神聖な場所に色気を持ち込み(「宣教師を汗だくに、神に涙を流させる」)、パートナーをたじたじにし(「Be Careful」)、シザをゲストに迎えた最終曲「I Do」では「私たちみたいな筋金入りのビッチ、それは神様からの贈り物」と言い放つ。カーディに神のご加護を。

Witers and Editors : Jon Dolan & Brendan Klinkenberg & Maura Johnston & Simon Vozick-Levinson & Christian Hoard & Christopher R. Weingarten & Charles Holmes & Elias Leight & Suzy Exposito & Rob Sheffield & Jonathan Bernstein & Brittany Spanos & Will Hermes & Kory Grow & Hank Shteamer