名古屋戦の敗北は、ともすればシーズンを左右する分岐点となりかねなかった。宮本監督はどうチームに語りかけ、立て直しを図ったのだろうか?
「さすがにみんなショックな様子でしたけど、自分としては勝点3を獲れるなんてまだラッキーやくらいに思ってたんで、悲観はしてなかった。経験のある選手も若い選手もいたけど、『これ以上にしんどい経験を俺はしてるし、みんなだってそうやろ? 間違いないのは逃げたらアカンってこと。もう無理やとか、自分たちのサッカーに自信を失うのは良くない』と話しましたね。2点を取れてる良さを活かして、なぜ3失点目を許してしまったのかをコーチングスタッフとしっかり分析する。次に繋げることができたと思います」
補佐する山口智コーチと松代直樹GKコーチは、現役時代からの僚友でありほぼ同世代。勝手知ったる間柄で、昨年も1年間、U-23チームで信頼を深めた。宮本は「J3では戦力的に不均衡ななかでも結果を出そうと、一緒になっていろいろ対策を考えた。ユース選手をスタメンで7人使わざるを得ない試合もありましたから」と明かし、「そうしたなかで得た経験は間違いなくいま、活きていると思う。サトシと松代さんとはサッカー観が似ているから、やっぱり問題と感じる部分が合致する」と言う。
夏のスマッシュヒットとなったのが、ふたりの新戦力の加入だ。J2のレノファ山口で10得点を挙げていた小野瀬康介を獲得し、手薄だった右サイドを補強。さらにヴィッセル神戸の熟練FW、渡邉千真をも完全移籍で釣り上げた。宮本と強化サイドのファインプレーであり、反撃へのひとつの原動力となった。
「結果が出ないなかでも、先に点は取れていた。こういう形で点は取れるチームなんやと。ただ後半の15分過ぎにパワーが落ちてきたときに、ピッチに入って推進力を上げる選手がいなかったりとか、いろいろ見えた時期でもありました。そのなかで、小野瀬と千真を獲れたのは効果的だったと思います」
両選手とも、宮本がみずからチェックして獲得を強く求めた。
「J2の試合を春先からずっと観察していて、小野瀬についてはずっと気になっていました。良い選手やなと。ガンバには仕掛けられる選手が少ない。右サイドのところで、ウィジョやアデと一緒に速い攻撃を完成させる選手が欲しかったんです。千真も必要としていたタイプのフォワードでした。ウィジョがアジア大会でいなくなるなかで、誰を獲るべきか。いろんな候補者があるところで、前でボールをしっかり収められて、ヤットやシュウ(倉田秋)が前向きにプレーできる選手が最適やろうと。それが実現すれば時間が作れて、サイドバックが高い位置を取れる。押し込んだ状態を作れる。ふたりともすごく欲しい人材でした」
小野瀬は「(監督は)僕をJ1に連れてきてくれた恩人です。入団前に直接電話をもらって、僕のどこに期待をしていて、どんな役割を求めているのかを細かく説明してくれた。もっと期待に応えなきゃダメですね」と語る。
5月に右足の手術を受けた今野泰幸の復帰も、特大の朗報だった。名ボランチの帰還を受けて、宮本は川崎フロンターレ戦でマイナーチェンジを施す。システムを4-4-2から3-4-2-1に変更。これがひとつのショック療法となるのだ。
「どうしても4バックは終盤にやられる傾向にあった。弦太(三浦)を右に出したりもしましたけど、もう9月に入るし、守備から入って相手の特徴を消しながら試合を作るほうに、戦い方を変えていってもいいのかなと。コンちゃんが復帰してくるタイミングでもありましたし、ガラっとやり方を変えてね。小野瀬が入ってきてカウンターが打てるようになった、千真が前線で献身的な守備をしてくれているなとか、いろんなことを考えた結果です。あとは4-4-2でブロックを作る相手を、フロンターレが得意にしているという印象もあったんで」
得点はともにセットプレーによるものだったとはいえ、思い描いたプラン通りにゲームを進め、J1王者を2-0で撃破した。ここから、怒涛の連勝がスタートするのだ。
<後編につづく>
取材・文●川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)
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