「時給400円でも重大な違法行為で(最低賃金以下で働かせたことを)裁判所が認めたことは意義がある」

【写真】提訴会見するリンさん(仮名)の様子

 9日、原告側の指宿昭一弁護士(暁法律事務所)は3年にわたった技能実習生のセクハラ訴訟水戸地裁判決を受けて、こうコメントした。

 この裁判は技能実習生の中国人女性リンさん(仮名・32)が雇用先である農家の男性親子と監理団体を未払い賃金とセクハラで訴えたもので、判決はセクハラについて認めなかった。

 リンさんは「がっかりです」と話しており、原告側は敗訴部分を不服として控訴する方針。裁判記録には原告の主張するおぞましいセクハラの中身が事細かく記されていた――。

思わず閉口するセクハラ被害の数々

 訴状などによるとリンさんが入国したのは今から5年前の'13年9月13日のこと。茨城県の大葉農家と雇用契約を交わしたリンさんは同年10月16日から大葉摘みの仕事を始めた。(※編集部注《》内は裁判における陳述)

《私が働くことになった永田幸一さん(仮名)のお宅では、私が来日したときに、すでに5人の中国人技能実習生が働いていました》

 そのときの実習生は全員、女性だった。朝8時から午後4時まで大葉を摘み、休憩時間は午前中の15分と昼休みの1時間。午後5時からは摘み取った大葉を10枚ひと束にする作業。この作業はひと束2円で、時給に換算すると300円だったという。

 リンさんの雇用主は幸一さんだが、実際に具体的な指示をして実習生たちに作業させていたのは幸一さんの父親である永田良作さん(仮名・79)だったという。

 良作さんのセクハラはリンさんの技能実習初日から始まる。

《初対面の私に対して“結婚してくれ”と言い、既婚者である私は何と答えていいかわからず非常に戸惑いました》

 言葉によるセクハラは日常的に行われた。

「一緒に寝てくれ」「俺と結婚してくれ」「俺と結婚できなければ、俺の息子と結婚してくれ」「一緒にシャワー浴びたい」

 行為はどんどんエスカレートしていったという。

《私の胸や尻を触ったり、抱きつこうとしてくるようになりました》

自分の股間にバナナを置いて……

 中には常軌を逸しているとしか思えない行動も。

《'14年4月21日、良作さんは、女性技能実習生の前でバナナを食べるとき、バナナを自分の股に置いて振るという猥褻な動作をして、女性技能実習生の反応を見て楽しみました》

《5月28日、良作さんは女性技能実習生と一緒にビニールハウスのビニールを取り換える作業をしていたとき、自身の性器を露出して、笑いながら歩き回りました》

 部屋に入ってくることもしばしばあったという。

《7月20日、女性技能実習生の部屋のベッドと台所の間の通路に座り込み、通りかかった私のスカートを突然下に引っ張りました》

《8月4日、浴室の外に立ち、シャワーを浴びている私に対し、“一緒にシャワー浴びたい”と声をかけました》

《11月4日、私が作業しているとき、後方から私に近づき、振り返った私の胸を口で触り、手で私の尻を触ってきました》

 これらの被害を受けたリンさんは良作さんの姿を見るたびに恐怖を感じ、夜は安心して眠れなくなったという。セクハラはリンさん以外にも及んだ。

《'14年6月10日、良作さんはメロン包装用の網を広げて同僚の女性技能実習生の胸に押し付け、彼女が嫌がるとズボンの外から自分の性器のあたりにメロン包装用の網を掛け、女性技能実習生にみせてきました》

《7月12日、女子寮に入ってきて、懐中電灯で同僚の女性技能実習生の胸に光を当てたり、テーブルの下から彼女のスカートの中に光を当てて中を見て、周囲にも見るように呼び掛けるなどしました》

 度重なるセクハラに耐えかねたとするリンさんは、'14年8月、技能実習生の監理団体に相談。しかし、問題に真摯に向き合ってくれず、同年12月5日にリンさんは勤務地の変更を告げられ、翌'15年の1月17日、監理団体が所有するアパートに無理やり移動させられて以降、仕事ができなくなったという。3月19日、岐阜の労働組合外国人支部に保護された。

 以上がリンさんが裁判で訴えたセクハラの一部始終だ。

食い違う両者の証言

 一方で、良作さんは裁判でセクハラを全面否定。

《昭和38年に結婚してから現在に至るまで同居している妻がいるため“結婚してくれ”と発言することや妻と同居している住居内でセクハラ行為に及ぶことは考えられない》

《被告良作は当時76歳であり、一般的に考えてもセクハラ行為に及ぶとは考え難い年齢にあることに加え、'14年の春ごろから体調を悪くしており、血尿や熱などの症状がでている状況》

 性器を露出した経緯に関しては、

《(病気による)頻尿のためビニールハウス内で隠れて小便をしたことはあったが、誰にも見られないようにしていた》

 真相をうかがうべく茨城県の永田氏宅を訪ねたところ、良作さんの妻とみられる女性が「弁護士に任せているので何も話せない」と取材拒否。

 そこで担当の辻洋一弁護士(先端法法律事務所)に話を聞くと、「みんなから慕われていた。(セクハラは)120パーセントない」と、断言した。

 さらに近所から聞こえてきたのは良作さんの温和な素顔だった。

「ひょうきんで優しいしね、中国人からも“お父さん”と呼ばれて親しまれているように見えたけどね」

 と、リンさんが訴えたセクハラ行為に対して疑問を投げかける。

 一方、リンさんの弁護団の加藤桂子弁護士(増田法律事務所)は、

「普段は常識人かもしれませんが、外国人だから何をしてもいいと思って下に見ている」

 とし、裁判でセクハラが認められなかったことについて、

「失望しました」

 と肩を落とした。

 11月12日、国会内で行われた外国人労働者野党合同ヒアリングの席上で、弁護団の指宿昭一弁護士は、「雇う側の人間が悪人とは私は全然思っていません。奴隷労働などと言われていますが(雇用主は)それぞれ常識を持った普通の人、普通の社長なんです。制度が悪いんです。技能実習制度が普通の人を悪人に変えていくんです」

 外国人労働者拡大に舵を切る前にもっと深い議論が必要なのではないだろうか。