一部上場企業のネット広告業の人事部長はこう語る。「65歳まで再雇用するのも大変なのに70歳は想像外の話です。当然人件費は増えます。今の再雇用者は毎年50〜60人程度とそれほど多くありませんが、その下の世代のバブル期入社組が多く、4〜5年後は毎年数百人単位で増えていきます。今は景気が良いですが、会社の体力が5年後も続くかわかりませんし、事業が縮小すると雇用するのも厳しくなります」 それでも国が強制的に70歳まで雇用を促した場合はどうするのか。人事部長は「賃金制度の抜本的な改革が不可欠だろう」と指摘する。また、別の建設関連企業の人事部長もこう語る。

「再雇用の社員に限らず現役世代も含めて今の年功賃金から完全成果主義に転換し、成果に応じて給与が増減する仕組みに変えていく必要があるでしょう。当然、これまで法律があるからしかたなく福祉的に雇ってきた再雇用者社員はお荷物扱いされるでしょうし、場合によっては60歳以降も残すかを早い段階で選別し、残さない人は退職してもらうことも考えないといけないでしょう」

 仮に60歳から70歳まで定年や雇用確保義務が延長されると、そのための人件費を捻出するため現役世代の賃金の削減、あるいは50歳代のリストラが起きる可能性もあるということだ。 東京大学の川口教授も「(企業は現役世代の)賃金カーブを平たん化して定年年齢を65歳まで引き上げ、さらに再雇用などで70歳までの雇用を確保するといった対応をする企業も増えてくるのではないだろうか。(中略)70歳までの雇用確保が求められるとなれば、解雇規制の見直し論議は避けて通れないだろう」(前出)と指摘している。

 現役世代の賃金を抑制して人件費を抑え、有能と認めない社員の解雇を容易にするというものだ。高齢者の雇用促進は若い世代にとっても安閑としていられる状況ではない。現在の勤務先で漫然と仕事をしているのではなく、将来を見据えたキャリアを真剣に考えるべきだろう。