国内での製造、販売が8月に解禁された乳児用液体ミルクだが、国産品の流通には時間がかかりそうだ。開発費用が高いことなどから国内の乳業メーカーは製造に二の足を踏む。災害時に出回ったのはフィンランドなど海外産だ。産地からも「牛乳の消費拡大にはつながりそうにない」(酪農関係者)との声が上がる。一方で、子育て中の女性たちからは「常温で飲める」、「衛生的」といった理由から液体ミルクの国内製造を求める声が続出し、署名が約4万3000人にも上っている。

 署名を集める一般社団法人乳児用液体ミルク研究会代表の末永恵理さん(39)は、液体ミルクを手に、その重要性を強調する。2014年に娘の凛ちゃん(4)を出産した末永さん。「国内で製造・販売をするようになれば、輸送費がかからない分、購入しやすい価格になる。粉ミルクと同様、安心できる国産を求める全国のお母さんは多い」と切望する。

 末永さんは、夜中の頻繁な授乳時や外出時、体調不良の時に液体ミルクがあれば育児の助けになると感じ、同年11月から国内製造を求める署名運動を始めた。国産の粉ミルクは200ミリリットル分で60〜80円だが、液体ミルクは米国産が約230円、フィンランド産が約150円と割高だ。

 外出時や災害時に役立つとして、解禁を望む署名運動は4万人以上に広がり、厚生労働省は製造と販売を認める改正省令を施行した。末永さんは「署名する人からは、災害時にお湯や火がない所でも子どもに衛生的な授乳ができる、と期待する声が大きい」と説明する。

牛乳消費増に 貢献難しく


 液体ミルクは世界では流通するが、日本では食品衛生法の規格基準が整備されていなかったため長年製造できず、消費者の認知度が低かった。

 政府が検討の末、8月に製造・販売を解禁したものの、液体ミルクの解禁が即座に牛乳の消費拡大のチャンスにはつながらないようだ。日本乳業協会は「製造原価が高過ぎるのでメーカーは慎重姿勢」と指摘する。製造には、安全性承認に向けた申請作業や工場の整備も必要で、森永乳業や雪印メグミルクなどの大手メーカーも「現時点で製造の具体的な話は出ていない」と明かす。価格が割高で、利用は災害や外出時などに限定されるため、牛乳消費の需要増には現時点では貢献しないとの見立てだ。

 産地でも、原料が国産になる見通しが立っていないことから「農業振興には結び付かないのでは」(北海道の酪農家)との見方がある。

普及に向けて 使用法発信を


 9月に発生した北海道地震では、東京都がフィンランド産の液体ミルクを被災地に送ったが、日本では日常的に使っていないことを理由に被災自治体が使用をちゅうちょしたケースもある。一方で、16年4月の熊本地震では支援物資として重宝された。

 液体ミルクは広く流通しているわけではないため、米国、フランス、フィンランドなどから個人的にインターネットなどで調達するしかない。順天堂大学大学院医学研究科の清水俊明教授は「災害の多い日本では液体ミルクの重要性が極めて高い。普及のためにはまず、安全性や使用法の発信が必要だ」と指摘する。

<ことば> 乳児用液体ミルク

 乳児用の粉ミルクと同じ、牛乳や生乳から取り出した成分でできている。液体なので湯で溶かす必要がなく、そのまま飲める。災害時の母乳代替品や育児負担の軽減につながるものとして期待される。ペットボトルや紙パックの容器に哺乳瓶の吸い口を取り付けるだけでいい。無菌で容器に充填(じゅうてん)されるので衛生的だ。