著作権の適切な運用やクリエイターの保護は行われて当然ですが、それを隠れ蓑にし金銭が動くとなれば納得がいくものではありません。ところが、「それに極めて似た議論が行われている」と指摘するのは、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さん。石川さんは自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、スマホから補償金を徴収しようとする音楽権利団体の動きを紹介するとともに、その極めて時代遅れな愚行を強く批判しています。

スマホから補償金を徴収しようとする音楽権利団体――私的複製の標的にされた「スマホのスクショ機能」

10月23日、文化庁において、「文化審議会著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会(第4回)」の会合が開催された。「スマホに補償金を載せる」というとんでもない暴論が出ていると聞きつけて、傍聴、取材してきた。

現在、著作権法30条2では、録音や録画に対して、著作権者への補償金の支払いを義務づけている。これを「私的録音・録画補償金制度」という。録音に対しては1993年6月から実施されており、DAT(デジタル・オーディオ・テープレコーダー)やDCC(デジタル・コンパクト・カセット)、MD(ミニ・ディスク、オーディオ用CD-R、オーディオ用CD-RWなどが対象だ。

集まった補償金は日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本レコード協会などに分配されているのだ。

ちなみに、録画に関しては、地上デジタル放送の開始により、コピーに制限をかけることができるようになったため、管理団体が解散し、制度が機能しなくなっている。

私的録音に関しても、DATやMDといった録音機器がほぼ消滅し、CD-Rなどで録音する人も減少していることから、補償金が激減している模様だ。そのため、管理団体としては、新たな資金源を確保しようと「スマホに補償金を載せるべき」という議論を展開しようとしたようだ。

ある委員からは「PCユーザーの21.4%、スマホユーザーの14%が私的複製をしているというデータがある。日本では年間3,000万台のスマホが出荷されている。3,000万台に14%をかけた480万台分の補償金を回収できる可能性がある」という意見が出た。

補償金を回収し、クリエイターに還元するという仕組み自体は間違っていない。むしろ、積極的にクリエイターが保護されるべきだろう。

しかし、この議論を看過できないのは、「補償金をメーカー側に負担させ、ユーザーが意識しない形で広く薄く回収したい」という魂胆が目に見えている点にある。

昨今、音楽はストリーミングで楽しむようになってきており、これであればクリエイターと配信事業者、そしてユーザー間は契約で結ばれ、クリエイターはきっちりと守られるようになる。

議論のなかで、ある委員からは「レンタルCDのコピーが問題であれば、レンタルCDのパッケージに補償金を載せればいいのではないか。そうすれば、ユーザーは自分の好きなクリエイターを応援することができるし、ユーザーは補償金を理解した上で支払うようになる」と至極、まっとうな意見がでた。

しかし、これまで補償金を得てきた団体関係者からは「それはまかりならん」と否定。あくまでメーカーから回収すべきだという立場を崩さなかった。

スマホに補償金を載せるとなれば、音楽をコピーしないユーザーからも補償金を獲るということになる。それではあまりに不公平ではないか。

これまで、補償金を得てきた団体からすれば、新たな資金源を探そうと必死になるのは理解できなくもないが、あまりに暴論過ぎて空いた口が塞がらなかった。

ITのチカラによって、著作権は保護される方向にあるし、ストリーミングの普及により、音楽や映像の楽しみ方は変わりつつある。

例えば、民放番組の見逃し配信サービス「TVer」は、「CMがスキップできない」ということで、実は今後、期待されるサービスと言われている。

YouTubeに違法に配信されてしまっては、テレビ局にとって何のメリットもないが、TVerで広告をつけて配信すれば、ユーザーは早送りできず、しっかりとCMを見るようになるというわけだ。

また、radiko.jpも、地方のプロ野球中継や有名人の番組を聞きたいと、radikoプレミアムで月額350円の課金をする人が多く、ビジネス的に成功している。

もはや「配信で稼ぐ時代」になりつつあるなかで、「補償金を獲ってやろう」という発想は、もはや時代遅れであることに全く気がついていないのだろうか。

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