自分を変えるにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2017年1月30日号)では、1日、1年、10年という3つのスケールに応じて、目標の立て方を「プロ」たちに聞いた。第1回は「短期目標」について――。(第1回、全3回)

▼短期目標
仕事の高速化、早起き、整理整頓……今日1日、確実に実行して、自信につなげたい

誓い:1
仕事を効率化したい

■やるべきことの「圧縮」は最後の手

仕事を効率化して、時間に追われる日々から脱出したい。どうすればいいのだろうか。ZUU社長兼CEOの冨田和成さんは、忙しさには3つのステージがあるという。

「まったく忙しくないステージは快適ですが、人や企業が成長するためには、そこから出なければいけません。だからといって自分のキャパシティを完全に超えたステージに陥ると、精神的・肉体的に追い詰められて、極端に生産性が落ちてしまう」(冨田さん)

理想は適度に忙しいステージを保つことだ。そのためにはやるべきことを「捨てる」「入れ替える」「圧縮する」という3つの方法がある。

「圧縮というのは、一定の時間内にできるだけ多くの仕事を詰め込むこと。いわゆる仕事の効率化です。これに着手するのは『捨てる』『入れ替える』を試したあとでいい」(冨田さん)

なぜなら仕事の圧縮は難しく、なかなか効果が出ないからだ。やるべきことを「捨てる」「優先順位の低いものと高いものを入れ替える」ほうが簡単で効果が高い。

それにはまず1週間単位で自分の時間の使い方を振り返ってみるといい。おすすめは生活のログをとるアプリなどで、プライベートも含めた自分の行動と所要時間を測って記録すること。記憶や感覚だけで振り返ると、往々にして実際とはズレているからだ。やらなくていいことを捨てて、優先順位の高い仕事と入れ替えてもまだ時間が足りないなら、「圧縮」に挑戦しよう。

「僕は1日に50通のメールを受信します。そのメールチェックと返信に費やす時間を測ってみると、1週間で5時間近くありました」(冨田さん)

そこで冨田さんは、「件名だけを見て読まなくていいメールと読むべきメールを区別する」「メールを書くときの決まり文句の辞書登録を増やす」などの工夫を実行。結果、5時間かかっていたところを3時間に圧縮した。

「1日15分でも圧縮できれば、365日で延べ91.25時間の節約です」(冨田さん)

「仕事を効率化するには、仕事の量が必要だ」というのはヘッドハンターの武元康明さんだ。

「これはあくまでも私の経験ですが、大量の仕事をいちどきにこなさなければならないような状態に追い込まれない限り、人間は真剣に仕事を効率化しようとは思わないのではないでしょうか」(武元さん)

武元さん自身、自分のキャパシティ以上の仕事量を引き受けた経験があるからこそ、効率的な仕事の進め方を工夫するようになったという。武元さんは当時を振り返る。

「上司に向かって、『こんなにたくさんの仕事を抱えるのは無理です』と嘆いたこともあります。上司は『とりあえずやってみろ』としか言わない。必死にいろいろな方法を考えました。その都度、なんとか乗り越えていくうちに、少しずつ効率的な仕事ができるようになったのです」

自分の能力以上の仕事を引き受けろ、というアドバイスは無責任かもしれない。しかし自分の限界は自分では判断できないと武元さんはいう。

「自分で仕事量を決めていいのなら、無意識に手加減しますから、限界の一歩手前でやめてしまうでしょう。それではいままでの仕事のやり方を変えるきっかけになりません。特に若いときは、ある程度“量”をこなすことが必要なのではないでしょうか」

誓い:2
部下をうまくマネジメントしたい

■部下の内面より、行動に注目しよう

部下を上手にマネジメントするには、どうしたらいいのだろうか。法政大学心理学科教授で行動分析学が専門の島宗理さんは次のようにアドバイスする。

「部下をうまくマネジメントしたいと思っているということは、いまのところそれがうまくいっていないということだと思います。だとしたら、どんなふうにうまくいっていないのかを紙に書き出してみてください」

まず、紙の真ん中に縦線を引く。その線の左側に現在自分が不満に思っている部下の行動をリストアップしていくのだ。たとえば「いわれたことはちゃんとやるが、いわれないことは一切しない」とか、「報告や相談が少ない」などである。「自信過剰だ」とか、「やる気がない」というような部下の内面に関する不満が出てきたら、その具体例を行動として書き出そう。たとえば「仕事のミスを指摘すると不機嫌な顔をする」というように。次にいま書いた行動の代わりにとってほしい行動を右側に書いていく。「熱意を持って仕事に取り組む」とか、「謙虚な態度で接する」というような書き方では抽象的すぎる。「いわれなくても自主的に仕事を探して取り組む」など、具体的に書くこと。

そして部下が左側の行動をとれば注意し、代わりに右側の行動をとるように指導していく。

「結局、管理職の仕事というのは、部下の行動を左側から右側に変えていくこと。これに尽きます」

と島宗さんは断言する。

■「失敗したら、私が責任をとってやる」

ただし注意が必要なのは、線の右側に書いた行動が、「誰にとって望ましい行動なのか」ということである。上司である自分にとって望ましい行動では、独善的になる危険があるし、部下の成長にも結びつかない。あくまでも「お客様」や「会社」にとって望ましい行動であるかどうかに留意したい。

一方、武元さんは、「部下をうまくマネジメントできないのは、お互いの信頼関係が築けていないからだ」と指摘する。

「信頼関係が築けない理由の1つに、上司の側がマネジメントというものを勘違いしている可能性があります。つまり部下の行動を細かく管理するのがマネジメントだと思っている。あれをするな、これをしろと細かく指示を出し、しまいにはGPSで居場所を把握しかねない。これはマネジメントではなく管理です。こんなふうに管理されれば部下は自分が信用されていないと感じる。関係を築くどころではありません」(武元さん)

これを改善するには、「うまくマネジメントしたい」という発想を転換する必要がある。まずは部下に仕事を任せること。「いう通りにやれ」ではなく、「好きなようにやれ。失敗したら私が責任をとってやる」という姿勢をとることだ。

では、もし部下が失敗したらどうすべきか。このときこそ「人を動かす上司」になれるかどうかの境目だと武元さんはいう。

「人を動かすのが上手な人は、“原因論”と“目的論”の2つを使い分けることができます。なぜ失敗したか、原因を追求するのが、“原因論”。失敗をリカバリーして本来の目的に達するよう別の新たな道を考えるのが“目的論”。原因論だけでは部下が萎縮してしまうし、目的論だけではたるんでしまう。両方を使いこなすことです」(武元さん)

誓い:3
気合ゼロで早起きするには

■仕事ができる人は、なぜ早起きなのか

「早起きできない人というのは、早く寝ていない人なんですよ」というのは島宗さんだ。

気合ゼロで早起きしたければ、前の晩に早く寝るしかない。そして早起きを持続したいなら、生活リズムそのものを見直す必要がある。

「人間の体は同じようなパターンを繰り返すと、一定のリズムが生まれてくるようにできています。毎朝早く起きたいなら、毎晩早く寝る必要がある。毎晩早く寝るためには、早く家に帰る必要があるし、夜更かしせずベッドに入るようにしなければならない。もしかすると、そのためには昼間の仕事の仕方や夜の習慣を見直すことになるかもしれません。つまり、起床を改善するために変えるべき行動は起床ではないかもしれないということです」(島宗さん)

無理に早起きしても体を壊すだけだ。

「早起きできるかどうかは、仕事に対して能動的な姿勢を持てるかどうかにかかっています」というのは武元さんだ。

「仕事ができる人は例外なく早起きです。何より仕事に対して能動的でモチベーションが高い。逆に仕事に対して受動的な人は朝が弱い。目が覚めてすぐ『今日も1日小言を言われるのか』と思うようでは、なかなか布団から出られないのも無理はありません」

ちなみに武元さんは、カーテンを開けたまま寝るという工夫もしている。

「夏は4時ごろ、冬は6時半ごろ、太陽の光で目が覚めます。自然のリズムに体を合わせると、気合を入れなくても起きられるものですよ」

誓い:4
通勤時間を有効活用したい

■スマホのゲームも、使いよう

通勤時間が往復2時間なら、1年では約480時間を電車のなかで過ごすことになる。日数に換算すれば丸20日だ。スマホをいじることに費やしていていいのだろうか。

「仕事ができる人を見ると、移動中も必ず何らかの仕事をしたり、読書をしたりしています。40歳を過ぎたら、移動時間も貴重な時間だという意識が必要でしょう」(武元さん)

とはいえ武元さんは、スマホのゲームも否定しない。

「スマホのゲームには、数独など脳トレやリラックスになるものもあります。目的を意識していれば時間を有効に使っているといえるでしょう」

「特に朝は、今日1日にすべきことの確認に使うべきです」というのは冨田さんだ。

冨田さんはTo Doを細分化することの重要性を強調する。たとえば「会社の数字に強くなる」という目標を達成するためのアクションが「簿記の本を読むこと」だとする。しかし「本を読む」というだけでは実行に移しづらい。そこで「今日は何ページから何ページまで読む」というように、タスクを細分化するのだ。

「朝の通勤時間はTo Doをする時間にぴったりです」(冨田さん)

誓い:5
整理整頓をできるようになりたい

■捨てられないなら、段ボール箱へ

年末の大掃除で片付けた机まわり。今年こそはきれいな状態をキープしたい。

ところが武元さんは、「仕事ができることと、机まわりの整理整頓ができているということに、相関関係はまずないと思います」という。

「いろいろな経営者の部屋を見てきましたが、引き出しの隅々まできちんと整理している人もいれば、床の上まで本や書類が山積みになっている人もいます。メーカー系は整理整頓について教育されますから比較的きれいにしている人が多いけれど、基本的に仕事ができることと整理整頓の能力は、関連性がないと思います」(武元さん)

書類が雪崩を起こして隣人に迷惑をかけたりしなければ、整理整頓にこだわる必要はないのかもしれない。

「モノが多すぎるために片付かないなら、思い切って不要なものを捨てる必要がありますね。しかし捨てるものと捨てないものを見極めるのが難しいという人もいるでしょう。そこでおすすめなのが、とりあえず現時点で使わないもの、いらないと思ったものを段ボール箱に片っぱしから放り込んでいくことです」

こうアドバイスするのは島宗さんだ。

「当面の不要品を段ボール箱に放り込んだら、フタにマジックで今日の日付を書いておきます。そしてそれを家なら押し入れ、オフィスなら収納棚などに移す。1年たっても、まったく開けることがなければ捨てましょう」

ポイントは、1度の行動で片付けを終わらせること。次からは使ったものだけ片付けるだけで、片付いた状態をキープできるようにすることだ。

「さらに重要なのは、モノを増やさないということです」

と島宗さんはいう。

「机の引き出しから同じ色のペンが何本も出てくるような人は補充のしすぎです。同じものを同じ場所に収納することで、在庫の数を見える化しましょう。無駄な補充をしてしまう行動を抑制できます」

「週1×1時間」と「週2×30分」、会議はどっちがいい?
冨田和成●ZUU社長

■会議の参加者の温度差は、なぜ出るか

会社の定例ミーティングは週に1回、1時間のケースが多いのではないでしょうか。私の会社では、週に2回、各30分に分けています。この3日に1回開かれる課題解決のための定例会議を当社では「半週ミーティング」と呼びます。

なぜ、延べ時間は同じなのに2回に分けるのか。理由はサイクルが2倍速くなるからです。業務を進めていればさまざまな壁にぶつかります。組織が急成長していれば、半週で計画が変わることはザラです。壁を前にして1週間待つのはもったいない。いち早く解決案を考え、実行に移し、効果を検証するためには半週のサイクルが必要なのです。

会社の会議といっても、目的がアイデア出しなのか、情報共有なのか、課題解決なのか、さまざまな種類があります。それなのに同じ形式でこなそうとすると、参加者に温度差が出るので効率は悪くなります。最初から目的がわかっていれば、それ相応のテンションと集中力で会議が始められるでしょう。

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冨田和成(とみた・かずまさ)
ZUU社長兼CEO
一橋大学卒。野村証券にて営業記録を樹立。2013年ZUUを設立し、金融メディア「ZUU online」運営。著書に『鬼速PDCA』など。
 
武元康明(たけもと・やすあき)
サーチファーム・ジャパン取締役会長
1968年、石川県生まれ。半蔵門パートナーズ社長。約20年のキャリアを持つ世界有数のトップヘッドハンター。
 
島宗 理(しまむね・さとる)
法政大学文学部心理学科教授
千葉大学文学部卒業。慶應義塾大学社会学研究科修了。ウェスタンミシガン大学心理学部博士課程修了(Ph.D.)。
 

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(ライター&エディター 長山 清子 写真=iStock.com)