もくじ

ー ワンオフカーにハマるひとびと
ー セアト・アローザ・ドラッグカー
ー オートバイエンジン2基を詰めこんだキットカー
ー ニュルブルクリンク用兵器、2代目フォルクスワーゲン・ゴルフ
ー サーキット仕様スコダ・シティゴ
ー 豆スーパーカー、ヴォグゾールVX220
ー 英国中古車サイト「ピストンヘッズ」で見つけたワンオフカー5選

ワンオフカーにハマるひとびと

英国ではありふれたことだが、車庫や作業場もしくは納屋のようなところでも、機械いじり好きあるいは整備士をめざすひとびとは日夜手をよごして作業に励んでいる。
多くはごくふつうにクルマを整備しているのだが、なかにはボディのカスタムや走行メカニズムの改造におよぶこともある。

そしてごくわずかながら、何週間もこもって作業していたかと思えばとんでもない代物を創りあげて再び外界に現れるものまでいたりする。オートバイ用エンジン2基を積んだ軽量な競技車両とか、今どきの高性能セダンよりも速いディーゼルエンジン搭載のスーパーミニといった代物だ。

なぜそうなの(または、そうでないの)?! と聞かずにはいられない並はずれたワンオフカーの世界を、とくとご覧いただきたい。

セアト・アローザ・ドラッグカー

ディーゼルの限界へ ゼロヨンは9.7秒

まずはオーナーのポール・ライナスから手ほどきを受ける。「ギアを2速に入れて、ローンチコントロールをオンにしてエンジン回転を上げて、その右のクラッチリリースでクラッチを繋ぎます。あとはカタパルト発進としかいいようがないですね」

ライナスが操るこのセアト・アローザ・ドラッグカーは、英国のディーゼルエンジンを専門とするチューナー、ダークサイド・ディベロプメンツの製作だ。サンタ・ポッド・レースウェイで記録した0-400m加速は9.7秒。同時に0-97km/hを2.3秒、0-161km/hも4.8秒というにわかに信じがたい記録も達成した。一時は地上最速の前輪駆動ディーゼル車の座に君臨したのだ。

このクルマは、ダークサイド・ディベロプメンツという会社が4気筒ディーゼルエンジンの限界をきわめるためにつくったという。

ありふれた2.0ℓコモンレール・ディーゼルをベースとして、パワーアップのために考えつく限りの手を尽くした。ジョン・ディアのコンバインから拝借したボルグ・ワーナー製ターボなどは4barというとんでもない圧力で空気を送りこむのだが、そのおかげもあって出力とトルクは最高でそれぞれ558psと89.9kg-mを発する。

排気はエンジンからそのままボンネットの上へ引きだされ、ライナスのひと踏みで鼻をつく濃い煙がまるで火山灰のように噴きあがる。

駆動方式はFF ニトロも搭載

これだけのパワーとトルクを受けとめるのが前2輪だけとなると、ドライバーにも高い技術が要求される。ライナスはクラッチのつなぎ方がカギだというが、滑らかにととのったドラッグレースコースではスリックタイヤが強大なトラクションを発生するともいう。

アローザの履くフージャー製ドラッグレース専用タイヤに設定した空気圧はわずか6psi。触ってみてもたしかにブヨブヨだし、マシンがスピードに乗ると遠心力で直径が4cmちかくも広がるそうだ。そうして丈が高くなるいっぽうで幅はせばまるので、マシンの前方投影面積を減らすのにひと役買っているという。

パワーの追求はこれにとどまらず、アローザにはいわゆる「ニトロ」システムがつく。クルマの速度/エンジン回転数/ギア段/ブースト圧などの条件が整ったときにシリンダーに亜酸化窒素を噴射し、より一層の爆発力を得る仕組みだ。

スピードが上がれば上がるほどニトロもますます作動するので、ライナスによると際限なくスピードが上がっていく感じだという。

いったいどれだけ速いのか、ひとつの例がある。この間のわれわれのビデオ撮影で、ドラッグレース場よりもグリップの悪いコンクリート路面にもかかわらず、なんと長期テスト車のBMW M5をうち負かしてしまったのだ。

スペック

■最高出力 558ps 
■最大トルク 89.9kg-m 
■最高速度 261km/h 
■0-97km/h加速 2.3秒 

オートバイエンジン2基を詰めこんだキットカー

エンジンルームは隙間なし

「エンジンルームの上にピーナッツの袋をぶちまけても、1粒も下には落ちないでしょうね」というのは、オーナーのマシュー・ベネット。「居心地だって、とても良いんです」ともいう。

ロータス・セブン型のクルマにバイクのエンジンを積むなんて、それこそ身の毛もよだつ話だ。吹けば飛ぶような車重にピーキーで慣性などないかのような弾け飛ぶパワーで、それこそ狂ったかのような速さで飛んでいくのだ。

その手のクルマにサーキットで乗ってオイルで滑ったときはもう死ぬかと肝を潰したものだが、そんなわたしにとってこちらのマシンがバイクのエンジンを1基どころか2基も積んでいるというのは完全な恐怖以外のなにものでもない。だがベネットにとっては、これは純粋な技術的挑戦なのだそうだ。

「バイクのエンジンをふたつ買ってきて、適当な鋼材を見つくろってシャシーを作り直したんですが、それでもぎちぎちで」と彼はいう。

このクルマの元はMK(エセックスに本拠をおくMKスポーツカーズ社が2000年より製造しているロータス・セブン型のシャシー)だが、エンジンルームはカワサキ・ニンジャZX-10Rの998ccエンジン2基がおさまるように改造されている。

まだまだ飽き足らない

カギとなるのはトランスミッショントンネルにおさまる、2基のエンジンからの動力を同期して元のままのプロペラシャフトから後輪へ伝えるトランスファーだ。これ自体は元々キットカーメーカーのタイガー・レーシングで製作されたもので、ベネットによって日の目を見るまで何年も棚でほこりを被っていたものだ。ベネットも「タイガーがケースを売ってくれたから、すぐさま進められました」と振り返る。

2基のエンジンの最高出力はそれぞれ184psなので、ベネットのマシンは368psということになる。車重たったの500kgとあれば、スルーギア加速はたいていのスーパーカーよりも速い。それでもベネットによれば「まだ実際に走らせて数カ月くらいですからね。いまもこれで卵や牛乳だって買いにいきますよ」とのことだが。

もっとも、まだパワーに飽きたらないベネットはもうこのクルマを売却して次のプロジェクトに進もうとしている。もうお気づきのことと思うが、ベネットはそう簡単にくじける人間ではない。なにしろ、かつてはウォール・オブ・デス(バイクで垂直な壁面を走る曲乗り)の乗り手だったのだから。

では、その構想を聞いてみよう。「つぎはケイターハムSVのシャシーにスズキ・ハヤブサのエンジンのターボ付きをふたつ載せたいですね。ひとつは後輪を動かして、もうひとつは前輪。ひとつあたり400psは問題なく出るとおもいますが、信頼性を犠牲にすれば500psも出るかもしれません。まあ、たぶん500psをめざすと思います。そうすれば500kgで1000psのクルマができますからね。パワーウェイトレシオ世界一はまちがいないでしょう?」

スペック

■最高出力 368ps 
■最大トルク 20.2kg-m 
■最高速度 220km/h 
■0-97km/h加速 3.8秒 

ニュルブルクリンク用兵器、2代目フォルクスワーゲン・ゴルフ

911GT3RS並みの速さ

「この路線でここまでくるとわかっていたら、始めに2代目ゴルフのCLは選ばなかったでしょうね」と語るのは、ナイジェル・ピンダー。2005年にはじめて訪れたニュルブルクリンクの虜になり、サーキット走行用に2代目ゴルフを買った。ある年の復活祭の日、サーキット用に仕上げたそのゴルフでノルドシュライフェ(北コース)を35周走ったが、36周めでクラッシュしてしまい廃車となってしまった。

何週間かたってほぼドンガラの2代目ゴルフを購入し、彼は再びスタートを切った。そしておよそ10年のあいだに、クルマは徐々に進化していった。というより、全くべつの生き物に変異したといったほうがいいかもしれない。

いまやエンジンはターボで武装して335ps。攻めたセッティングの多板クラッチ式LSDはもとより、機能本位のエアロパーツ、レース仕様のスリックタイヤにサスペンション(ばねレートはジャガーXE SVプロジェクト8の主任技術者デービッド・プック本人が設定した)も装備する。

ニュルブルクリンクでこの酔狂なゴルフと競争してみて、まちがいなくここではポルシェ911GT3RSなみに速いだろうと確信した。

「11年前に2台目のゴルフではじめてニュルを2,3周走ってみてそれなりに楽しかったんですが、『ブレーキは強化した方がいいかな』とも思ったんです。それがすべての始まりでした」とピンダーは回想する。

各パーツを手作り

はじめに手をつけたうちのひとつが、手作りのフロントスプリッターだった。その威力を確かめようと勇躍シルバーストンでのサーキットイベントに参加したが、超高速コーナーのコプスで危うくスピンしそうになった。彼も「こういうパーツは前後バランスが大事だと、そのときわかりましたよ」と苦笑いする。

それから時間をかけて、自動車の空力を御する魔術を身につけていった。コプスで冷や汗をかいてからというもの、リアにもリップスポイラーをつけ、フロントのスプリッターを大型化し、サイドにはスカートもつけ、車体底面を平面パネルで覆い、そしてさらにリアウイングを大型化してディフューザーまで取りつけるに至った。

これらはすべて彼の手作りなのだ。「どのパーツも、小さなウールのふさをつけて空気の流れ方を確かめました。いまついているリアのディフューザーはグラスファイバーで作った2作目です。ボディの空力性能がよくないと、傾斜角は7度が限界だそうですね」

ピンダーはこのゴルフで英国のあらゆるサーキットをまわったが、一番走ったのはやはりニュルで、もう2300周はあとにしたという。それだけでも4万8000kmは走った計算になる。

スペック

■最高出力 335ps 
■最大トルク 44.9kg-m 
■最高速度 257km/h 
■0-97km/h加速 5.0秒 

サーキット仕様スコダ・シティゴ

フェラーリやポルシェに対抗するスコダ

「スコダ・シティゴのサーキット仕様をつくった目的はただただ単純です」と語るのは、ダークサイド・ディベロプメンツの設立者ライアン・パーキン。「走行会でフェラーリやポルシェと走って、まあひと泡ふかせたかったんですよ」

シルバーに塗られたこのかわいらしい小型ハッチ、たしかにそれをかなえるだけの速さをもっている。車重はたった1160kgだがこれは四輪駆動で、ニトロの後押しを受けたパワーとトルクはそれぞれ最大で351psと58.8kg-mだ。まあすごいのは確かだが、道から飛びだしていくのではなかろうか。

パーキンがダークサイド・ディベロプメンツを設立したのは2010年。はからずもフォルクスワーゲングループのディーゼル車のチューニングに目をつけ、パーツを新しく創りだしてはアメリカへと売りだした。バーンズリーを拠点とするこの会社、今では20名の従業員を擁し、年間の売上高の大きさたるや目の毒といってもいいくらいだ。

このシティゴ、宣伝ツールでもあり動く実験台でもあるとパーキンは言いはる。確かにそれも一理あるだろう。だが、パーキンと社員たちがこのケンカっ早いちびギャングを仕立てあげた真意が、単に「おもしろそうだから」なのは薄々想像がつくだろう。

オリジナルパーツが多数

彼はこう振りかえる。「あたらしいプロジェクトカーをつくるにあたって、まずセアトのミーにエンジンをふたつ載せようかという話が出ました。ところがそこで、未完成の四駆版シティゴを見つけたんです。まさにわれわれの求めていたものでした」

それには極小のホイールベースに収まるよう切り貼りした初代アウディTTの4WDシステムと、シーケンシャル式ギアボックスがついていた。サスペンションはゴルフのいろいろなモデルからの流用だが、前後のサブフレームは独自製作だ。車内でまず目に入るのはFIA仕様のロールケージ。そして思いきり低くセットされたレース用シートからの視界を確保するために、ダッシュボードの形も作り直された。

「エンジンについて一言でいうと、400psのパワーとできるだけキレイな排気ガスを目指しました。雲みたいなディーゼルスモークは写真に撮るにはいいですが、顔には浴びたくないでしょう?」とパーキンは説明する。ベースの2.0ℓ16バルブエンジンは内部のパーツから見直され、強化した冷却系、特製の吸排気系に仕上げはギャレットのターボがつく。

「サーキットでとことんマシンをいじめ抜いて弱点をみつけます。パーツは常に点検して、信頼性の有無を確認します」とパーキンはいう。フェラーリとポルシェのドライバーをぎゃふんと言わせつつ、なのはいうまでもない。

スペック

■最高出力 354ps 
■最大トルク 58.8kg-m 
■最高速度 257km/h 
■0-97km/h加速 4.2秒 

豆スーパーカー、ヴォグゾールVX220

入院中に注文したVX220

「頚椎を痛めて入院したときに、ベッドの上からVX220を注文したんですよ」とグレイム・ランバートは振り返って笑った。5年前、ロータス・エリーゼに乗っていた彼は、止まっているところに追突されてしまった。そんな目にあったら英国製のか弱いスポーツカーなどもうこれっきりとなりそうなものだが、彼の神経は筋金入りなのだ。

ランバートは事故の前にも、ヴォグゾールVX220ターボに乗っていた。「ちょこっとチューンして楽しみましたが、パワーの出かたがピーキーで走行会では思うように走れなかったので、次のクルマはスーパーチャージャーにしようと決めました」という。退院して何週もたたないうちに、作業に取りかかった。

「本当は、違うものが作りたかったのですが」とランバートはいい、『もっと全長が短くて、安く済むはずでした』と付け加えた。それでも、ノーマルのVX220ターボよりは速い、300psくらいのクルマにしたかったという。

とはいえ、かなりヤレのみえたベース車のエンジンでは高レベルのチューニングは無理があるとして、良いエンジンはないかと探し回った。そして2012年、根っからのサーブファンでもあるランバートは、そのサーブが破綻して負債の償却に大わらわの清算人から新品の4気筒エンジンを購入して、なじみの整備士に預けた。

各所を強化 ボディまで変更

「彼の仕事ぶりは優秀なメカニックそのものでしたし、おまけに大容量のスーパーチャージャーまでわたしの目の前に持ってきました。今は鍛造ピストンやステージ2のカムシャフト、軽量フライホイールなんかも付いてます。パワーは350psくらいはありますし、出かたも望みどおりスムーズです。サーキット仕様ですけど普通に街乗りもできますし、仕事にもこれでよく行きますよ」

ほかにも強化したところは枚挙にいとまがない。フロントのブレーキキャリパーはAPの4ポットだし、ダンパー・ホイールアライメント・フロントのスタビライザーはすべて調整可能でばねもカスタムレートだ。

果てはボディまで、もはやVX220というよりはスーパーカーの小型版といってもいいくらい、まるで似て非なるクーペタイプに変わってしまっている。だがいちばん特徴的なのは、熱を反射するための金箔がしきつめられたエンジンルーム。そう、まるでマクラーレンF1だ。

ランバートはつけ足す。「5年乗ってますが、走行会には何週か前にはじめて行きました。おなじ趣味の仲間と接するのは楽しいです。そのための集まりなんですね」

スペック

■最高出力 351ps 
■最大トルク 37.7kg-m 
■最高速度 266km/h 
■0-97km/h加速 3.8秒 

英国中古車サイト「ピストンヘッズ」で見つけたワンオフカー5選

スバル・インプレッサ・ターボ2000

このクルマは公道も走れるタイムアタックマシンで、パワーは700psにのぼる。5年と6万ポンド(およそ900万円)をかけて作り上げたと説明書きにはある。ターボにはWRカーさながらのミスファイアリングシステムもつくし、タービンは削り出しだ。

価格:2万5000ポンド(372万円)

ヴォグゾールVXR8

ノーマルで595psを発生した2017年式のVXR8 GTS-Rも、バカバカしいまでに速かった。そのVXR8を715psにしたらどうなるかは、神のみぞ知るところだろう。売り主によれば、最高速は320km/hは堅いという。また改造費は6万ポンド(およそ900万円)かかったとも。

価格:2万8950ポンド(431万円)

フォード・マスタングGT

5万ポンド(およそ750万円)以下でどれだけのパワーが手に入るだろう? まあ、マクラーレン・セナくらいならいける。このマスタングV8、ウィップル製大容量スーパーチャージャーの威力で800psをたたき出すのだ。KW製の車高調でシャシー強化も抜かりない。

価格:4万2500ポンド(633万円)

日産200SX

説明にも「これはレースマシンです。見せかけだけではありません」とあるとおり、このS15型200SXはパイクス・ピーク参加マシンも真っ青のフルエアロボディに500psちかいパワーを秘める。なのに公道も走れてしまうこのクルマ、製作はケント州にあるMnMエンジニアリングだ。

価格:1万5500ポンド(231万円)

フォルクスワーゲン・ゴルフVR6 4モーション(Mk4)

もともとは207psのVR6 4モーションだったこのゴルフ、いまやパワーは標準の倍以上にのぼる。ロトレックスのスーパーチャージャーに数々の吸排気系チューンを加えた結果は418psだ。

価格:1万3350ポンド(199万円)