元慰安婦の女性の証言を初めて報じた元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が、「週刊金曜日」を発行する「金曜日」の代表取締役社長兼発行人に就任し、2018年9月28日に都内で会見した。

植村氏は、自らの記事を「捏造」と非難した14年の週刊文春の報道をきっかけに大きな批判を浴びた。これで脅迫などの人権侵害を受けたとして、15年に版元の文藝春秋などを相手取って損害賠償や謝罪広告などを求める訴えを起こしている。産経新聞を始めとする、植村氏の慰安婦報道や訴訟に批判的なメディアについては、「闘いは継続して私がやっていかなければ」と、戦闘モードだ。

記者のひとりとして企画を提案したり出稿したりはあり得る

植村氏の就任は9月26日付。北村肇・前代表取締役社長兼発行人から打診を受け、自らへの批判に対する反論や、訴訟の経過を最も詳しく伝えたのが週刊金曜日で、「『週刊金曜日』に救われた」ことが就任を引き受ける理由のひとつになったという。「憲法を守る!『週刊金曜日』を守る!」スローガンに掲げ、支援を訴えた。

記事で取り上げた訴訟の当事者が社長に就任するのは異例だが、北村氏は「植村さん個人のものではなく、歴史的な裁判」だとして問題視しない立場だ。編集権は編集長が持つが、植村氏も記者のひとりとして企画を提案したり出稿したりすることはあり得るという。

植村氏は、

「基本的には僕の裁判は他の人が書くのは普通」

だとして、当事者として訴訟について記事を書くことには否定的だ。ただ、この発言のきっかけになる質問をしたのが産経新聞の記者だったということもあり、

「ただし、様々な、裁判だけじゃない問題がある。例えば、産経新聞との闘いは、継続して私がやっていかなければならないと思う」

とも話し、産経批判の記事執筆に含みを残した。産経新聞は、1991年12月7日土曜日付の紙面(大阪本社版)で、元慰安婦の金学順(キム・ハクスン)さん(1997年死去)の講演会の様子を報じる際、

「金さんは17歳の時、日本軍に強制的に連行され、中国の前線で、軍人の相手をする慰安婦として働かされた」

と、地の文で「強制的に連行」という文言を使っている。植村氏はこのことを指摘しながら、産経新聞の報道姿勢を非難した。

「もう産経新聞、そういうことやめましょう」

「(「強制的に連行」と)バッチリ書いてある。ところが、その産経新聞の阿比留さん(阿比留瑠比・論説委員兼政治部編集委員)たちは、『植村が強制連行説を広めた』みたいな...ふざけるな!ということをずっと言っているわけで、もう産経新聞、そういうことやめましょう。我々は事実に基づいて報道するような世の中をつくりましょうよ」

会見後に取材を申しこもうとした週刊新潮の記者に対しては、

「私を取材するということは、私があなたを取材するということでもあるんだよ。そうすると、今までの週刊新潮の報道も、全部私は聞くからね。取材をするということは、自分が取材されるということ。それはきちんと把握していただかないと。お願いします」

とけん制した。週刊新潮は16年5月5・12日号で、

「100人の弁護士を従えて法廷闘争! 慰安婦誤報に反省なし! 元朝日『植村隆』記者の被害者意識ギラギラ」

と題した記事で植村氏を批判している。この点を念頭に置いているとみられる。

「このままでは廃刊の危機もありうる」

植村氏は韓国カトリック大学の客員教授を兼務しており、韓国、自宅がある札幌、東京の3地点を行き来しながら「金曜日」の経営を担うことになる。小林和子編集長によると、ピーク時には5万人いた定期購読者は、今では1万3000人に減少。これとは別に書店で7000部ほど売れており、発行部数は2万部程度だ。経営状況は厳しく、誌面に

「いま『週刊金曜日』は経営的に極めて重大な事態を迎えております。このままでは廃刊の危機もありうるため、経費削減はもちろん、身を削ることも含めて、あらゆる手を尽くし『金曜日』の灯を守り抜く所存です」

という訴えも載るほどだ。植村氏は収支改善策について問われ、

「私は経営経験はないが、記者として32年間現場を歩いてきた。現場に出て、『金曜日を定期購読してください』という輪をどんどん広げていこうと思っている」
「広告に頼らない紙面づくり、というのが週刊金曜日の原則だが、『頼らない』ということで、載せないということではない。やはり読者のニーズに合ったような広告は載せていった方がいい。そういった広告を、社長自ら取りに行かんといかんな、と思っている」

などと話した。

植村氏による慰安婦報道をめぐっては、朝日新聞が14年8月に掲載した検証記事と14年12月の第三者委員会の報告で、「挺身隊」の用語の間違いはあったものの、「事実のねじ曲げ」はなかったと結論づけている。

さらに、朝日新聞社は、済州島で慰安婦が強制連行されたとする「吉田証言」は虚偽だったとして同証言に関連する記事18本を取り消しているが、植村氏は吉田証言に関連する記事は出稿、取材ともにタッチしていない。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)