ベルギー戦でやり残したことがあった西野さんは、まだミッションを終えていなかった。今回の経験を次のチャレンジで活かして初めて、仕事をやり遂げたと言える。だからアジアカップまで続投し、ワールドカップでの経験を還元したほうが、日本サッカーのためになったと思う。
 
 森保さんはA代表と五輪代表の掛け持ちという重責を担うが、先述した通り、ロシア大会をコーチとして戦い、A代表の選手たちと接点もできた。その経験は今後のチーム作りに役立つだろう。
 
 まず優先すべきは来年1月のアジアカップに向けた強化だ。長谷部(誠)や本田(圭佑)らロシア大会を機に代表引退を表明した選手もいるが、長友(佑都)や酒井宏樹、香川(真司)らを中心に、若手も起用して徐々に世代交代を図っていけばいい。ワールドカップで見せたような戦いをアジアカップでも披露できれば、日本は優勝に近づけるはずだ。
 
 アジアカップを終えた2月以降は、2年後の東京五輪への準備が主軸になる。今回は自国開催で、当然ながら周囲の期待も大きく、結果も求められる。とても大きなミッションで、準備は非常に重要だが、欧州でプレーしている若手には有望なタレントが多い。良い戦力になるはずだ。
 
 私が日本代表の監督を務めていた時は、A代表だけでなくU-19代表からU-23代表までを指導した。2002年の日韓ワールドカップへのチーム作りの一環として、若い世代を引き上げるために、それが効果的な手段だった。
 
 試合や合宿への招集にしても、海外組が中田英寿ぐらいだったので助かった。だが今は当時とは状況がすっかり変わり、A代表の主力は海外組だ。若手にも海外組が増えている。選手招集は森保さんにはむしろ悩みの種だろう。
 
 五輪代表とA代表の強化スケジュールがバッティングするのも懸念材料だ。だが、A代表と五輪代表、両方の選手を、国内組だけでも同時に招集して合同合宿を行なうのは一案だろう。私が指揮した当時も、合同で35人ほど集めた合宿を行ない、双方の選手でチームとしてのやり方を共有した。
 
 兼任監督として森保さんが両方の選手を把握できる点は、当然ながら大きなメリットだ。森保さんだけでなく、コーチングスタッフも兼任で進めても良いのではないか。
 
 私の頃に比べて代表強化の考え方や環境は変わってきたが、それでもスケジュール調整など、日本協会やJリーグ、Jクラブの協力は不可欠だ。2チームのサポート体制を築けば解決できる部分は多いはずだ。全方面からのフォローがA代表と五輪代表を成功に導くことは言うまでもない。

取材・文●木ノ原旬望(スポーツジャーナリスト)

※『サッカーダイジェスト』9月13日号より転載。