北朝鮮の夏は、暑くても最高気温が30度を少し超える程度で、東海岸北部は30度にもならないのが普通だ。だが、今年に限っては、各地で40度近い最高気温を記録する猛暑となっている。(丹東=カン・ナレ記者)

多くの地域で全く雨が降っておらず、農業に深刻な影響が出始めた。当局は、その対策のために住民を総動員している。

北部山間部の慈江道(チャガンド)の情報筋によると、現地では先月20日以降ほとんど雨が降っておらず、鴨緑江沿いの満浦(マンポ)に至っては今月3日に気温が40度を超えた。

当局は先月20日から、深刻な日照りに対処するために、人民班(町内会)の扶養家族(国の機関、国営企業に勤めていない人)や中学生・高校生までを、協同農場と貯水池を結ぶ水路を作る工事に動員している。

昼間はあまりの暑さで作業ができず、午前5時から9時までと、午後4時から8時まで行っている。これは、金正恩党委員長の「午前11時から午後4時までの野外作業を中止せよ」という指示に基づくものと思われる。

(参考記事:金正恩氏の猛暑対策「昼に寝て夜に働く」でも効果なし

それでも完成にこぎつけ、平地にある田んぼは満々と水をたたえているという。しかし、現地に多い傾斜地にある畑には手が回っていない状況だ。植えられているのは、日照りに弱いトウモロコシとジャガイモだ。

また、支援を受けられるのは人口密集地から比較的近い協同農場だけで、遠く離れたところにある農場は日照りに為す術もない有様だ。

東隣の両江道(リャンガンド)では猛暑、日照りに加えて虫害も広がっている。現地の情報筋によると、トウモロコシを食べるナナフシ、ジャガイモを食べるテントウムシなどの害虫が発生し、深刻な被害が出ている。農民は協同農場への水やりで忙しく、害虫駆除に手が回らない。

「今のように雨が降らず、日照りが続けば、虫害と合わせて被害が雪だるま式に広がり、今年の収穫は期待できなくなる。中央は農薬を送ってくれず、『害虫対策を立てよ』と号令をかけるばかりだ」(情報筋)

農民は、協同農場からの作物の分配ではなく、個人耕作地で取れる作物に頼って暮らしているが、このままではそちらもダメになってしまいかねないと、情報筋は嘆いている。

困るのは農民だけでない。都市の市場に出回る作物は、個人耕作地で栽培されたものが多いことから、凶作で品薄になれば価格が高騰してしまう。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちは、食糧を協同農場からの配給に頼っているが、食べるものがなくなれば行きていくため、盗賊と化して農場を襲うしかなくなる。

深刻な日照りによる被害は、全国に広がりつつある。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、当局は日照りによる被害の調査に乗り出した。調査の様子を見守る農民も、調査を司る幹部も「今年の農業はもうダメだ」「これと言った対策はない、猛暑が一日も早く終わることを祈るしかない」と嘆いているという。