そんなことは竹中氏は百も承知であろうが、生産性の低迷の責任を労働者に押し付け、残業代を補助金呼ばわり。竹中氏は、「高度プロフェッショナル制度」を打ち出した産業競争力会議のメンバーの1人。まさに「これが日本の現実」という印象だ。ちなみに1997年以降の日本企業が資本ストックを低迷させたのは、当たり前である。何しろデフレではもうからない。
 というわけで、本気で政府が日本の労働者の生産性を高めたいのであれば、やることは一つ。政府の財政出動によりデフレから脱却し、企業が「投資をすればもうかる」環境を構築することだ。経済指標を細分化し、データを核にすると「真実」が見えるが、その手の作業を一般の国民はしないため、だまされる。

 2014年5月、テレビ愛知の討論番組で、竹中氏は、
 「もうデフレではない。デフレギャップが埋まったから」
 と、発言した。その際に、たまたま正面に座っていた筆者が、
 「それは平均概念の潜在GDPを使った場合である。最大概念の潜在GDPで見れば、いまだに日本はデフレギャップだ」
 と突っ込んだところ、竹中氏は沈黙した。何しろ「その通り」なので、議論になると負ける。
 とはいえ、視聴者の99.99%以上は、筆者が何を言ったのか理解できなかっただろう。逆に、竹中氏の「デフレではない」という言葉のみが印象として残る。

 潜在GDPに関する平均概念と最大概念の違いに関する解説は本稿では省くが、いずれにせよ「需給ギャップ」には2種類あるのだ。最大概念の潜在GDPで計算すれば、わが国は間違いなくデフレである。だからこそ、物価が上昇しない。実質賃金も下がり続ける。企業は投資を増やさず、資本装備率が上がらない。結果、生産性が上昇しない。
 この手の「真実」を国民が正しく共有しない限り、竹中氏に代表されるグローバリストのプロパガンダにだまされ続けることになる。国民一人一人が「正しい知識」を身に着けないかぎり、わが国の問題は解決しない。知識こそが武器であり、知識だけが武器なのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。