TYPE-MOONのFateシリーズをスマートフォン向けゲームとした「Fate/Grand Order(FGO)」は、日本では2015年にリリースされましたが、アメリカでは2017年6月に登場したばかりでリリースから間もなく1周年を迎えようという段階です。ソニーの決算内容から国内でかなりの売上をあげていることが明らかになっていますが、海外ゲームメディアのPolygonは「ファンを中毒にしている」と独特の表現でFGOを評しています。

A huge free-to-play game makes fun of its addicted players, and they love it - Polygon

https://www.polygon.com/2018/4/18/17247246/fate-go-free-to-play-abuse-gudako-gacho-grand-order

つい最近、ウォールストリート・ジャーナルが「ダイゴ」という男性を紹介するムービーを公開しました。この男性は日本に住むFGOプレイヤーのひとりで、ゲーム内課金に700万円以上を費やしたとして紹介されています。FGOではレア度の高い貴重なキャラクターを得るために多くの人々がガチャを行っており、ダイゴさんほどではないものの、コアなファンの中には何千ドル(何十万円)という大金をゲームに費やしている人物もいます。このような大金を投じてしまうのは、FGOにはガチャに天井(一定確率で当たりを引けるという設定)が設定されていないということも深く関わりがあると思われます。

Meet the Man Who’s Spent $70,000 Playing a Mobile Game - WSJ

ゲームをプレイしていない人からみれば開発者側のいやらしい設定に思えるかもしれませんが、実際のところ、FGOをプレイする上でプレイヤーにとってレアなキャラクターは「入手しなければならない」ものではないので、ガチャは必須ではありません。

しかし、ファンであればFateシリーズに登場する自分の好きなキャラクターと一緒にゲームのシナリオを進めたいと考えるため、自然とガチャに手を出すことになります。特にレア度の高い星5のサーヴァント(キャラクター)を入手できる可能性は非常に低いのですが、熱心なFGOプレイヤーたちは何度もガチャを回します。これをPolygonはプレイヤーの「愛ゆえ」と記しています。

以下のムービーはFGOの海外版PV。

Fate/Grand Order PV - YouTube

「ガチャの設定確率は残酷であり、価格は高く、運営から支給されるアイテムはひどいものだ」と指摘するPolygonは、FGOが行っていることを「ファンの愛を収益化している」と表現しています。プレイヤーの側にもそのことに気付いている人はいるはずですが、Polygonが書いているように「日本ではどのゲームもFGOを売上ランキングのトップから引きずり落ろせない」という現実があります。

この「愛の収益化」はFGOのアメリカでのリリースによって海を渡っており、掲示板サイト・Redditなどでも、何万円もかけて目的のキャラクターをゲットできなかったという報告が見られるようになっています。

以下のムービーでは海外のFGOプレイヤーが高レアのギルガメッシュを召喚するべくガチャに挑戦し、あえなく撃沈している様子が収められています。

The King of Heroes Gilgamesh Has Arrived -- Fate/Grand Order Let's Play (kinda) #4 - YouTube

FGOでは同じサーヴァントを使って宝具レベルを上げることができるため、冒頭に登場したダイゴさんの場合「1キャラクターで25万円ほど使っている」とのこと。PolygonはこういったFGOのシステム全体について「多くのお金を費やせるように設計されていて、実に残酷」と記しています。

ダイゴさんは株式トレーダーとして成功しているためゲームに潤沢な資金を注ぎ込めているわけですが、ほとんどのプレイヤーはそうではなく、余裕のないお金を費やし、さらに「中毒になる可能性まで秘めている」とPolygon。中にはクレジットカードの上限額までガチャを回し続けたものの結局お目当てのキャラクターをゲットすることはできなかった、という悲劇のプレイヤーもいます。

そこで効いてくるのが、Polygonが「特殊なマーケティング戦略」と考えている「悪意のある主人公のコピーの存在」です。これは公式マンガの「マンガで分かる!Fate/Grand Order」に登場する女主人公、通称「リヨぐだ子」を指しており、Polygonはリヨぐだ子を「だらしなく、スケベで、ギャンブル中毒の小さなモンスター」と評しています。

本来、ゲームのサポートマンガにはチュートリアルやゲームガイドの役割が期待されるところですが、リヨぐだ子はガチャ中毒者っぷりを披露したり、セクハラしたり、脅迫したりと、かなりやりたい放題。

マンガで分かる!Fate/Grand Order



しかし、ファンはこのマンガとリヨぐだ子のことを好意的に受け止めています。これをPolygonは「FGOがFate自体を物笑いの種にすることを恐れていない証拠であり、ファンがメタジョークを愛しているからこそだ」と記しています。「マンガで分かる!Fate/Grand Order」とリヨぐだ子の人気は、単行本化を果たし、続編や続編の続編まで登場するほど。さらには、ねんどろいど化や着ぐるみ化も果たしており、その人気っぷりにはまさに驚きの一言です。

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リヨぐだ子の着ぐるみはリアルイベントなどに登場した際にはマンガの中のリヨぐだ子の性格を忠実に再現しており、その様子をFGOファンが楽しむ、という形式が成り立っていることをPolygonは取り上げています。

ガチャで惨敗を喫してしまったプレイヤーにとって、「星5サーヴァントを引いたことがない」と語るリヨぐだ子は自分と近しい存在といえます。Polygonはリヨぐだ子のことを「モンスターだが、彼女はプレイヤーそのものだ」と評し、その存在について「プレイヤーと喜びや絶望を分かち合う存在であり、ガチャを逃れられない地獄としてうまく表現している。そして最も重要なのは、この純粋な欲求から生まれたモンスター(リヨぐだ子)が、FGOのプレイヤー自身であり、高レアのキャラクターが欲しいという止まらない欲求から成り立っているということだ」と記しています。

では「逃れられない地獄」だとわかっているのに、なぜプレイヤーはガチャを回すのでしょうか。

Polygonは理由の1つを「自分が好きなキャラクターを手に入れられない場合に『引いてあげられなくてごめん』と罪悪感などを感じたり落ち込んだりするため、回さざるをえなくなる」と推測し、ガチャを「必然的、かつ意図的に作られた絶望の穴」という言葉で表しています。

もう1つの理由として挙げられたのは「ガチャ中毒や極端なファン精神」。いずれにしても、人間の持つ弱い部分を狙ってゲームシステムが構築されているということであり「人間の脆弱性を悪用している」とPolygonは批判しています。

FGOを「無料でプレイできるゲームについて議論するのに最良の事例」と呼ぶPolygonは、ゲーム開発者がFGOのようなゲームを設計すれば多くのプレイヤーを不幸な状態にすることとなり、リヨぐだ子のようなプレイヤーが多数出現することは明らかであると批判的な論調。ただ、ガチャに嘆くリヨぐだ子を公式マンガに登場させていることから、FGO運営を「少なくとも正直者だ」と評価しました。