先月2月14日のバレンタイン・デーに発生した、米国フロリダ州の高校で元生徒が銃を乱射し、高校生15人と教師2人が死亡した事件。3月24日には生き残った高校生たちが主導して、銃規制の厳格化を求める【March For Our Lives】が世界各地で同時開催され、私の住むワシントン州でもシアトルを含む約30都市で、合計数万人が行進に参加した。

「もういいかげんにしろ」「あとどれだけ子どもを死なせれば事態は変わるのか」「コロンバイン高校の事件以後、大人たちは何も対策をしていない」「銃規制をもっと厳格化しろ」「"thoughts and prayers"(=思いと祈り)だけでは解決しない。行動で示せ」と、団結した高校生たちがロールモデルとなったこの運動は、アメリカ人全員が銃による暴力を「仕方がない」と受け止めているわけでも、銃を野放しにしていいと思っているわけでもないことを、世界に見せることができただけでも大きな意味があったといえる。


「Guns don't kill people, people kill people.(=銃が人を殺するのではない。人が人を殺すのだ)」とは、米国憲法修正条項第2条に定められた、「武器を所持して携帯する権利」を根拠に銃規制に反対する、NRA(=全米ライフル協会)のスローガンだが、「NRAから献金を受け取っている議員を選挙に当選させないこと」が、【March For Our Lives】の次の目標のひとつとなっている。

また、銃規制に関してはこれまでもさまざまなレベルで厳格化を求める活動が行われており、その動きが今回ひとつになったかのようだ。例えば、2012年に米国コネチカット州で発生したサンディフック小学校乱射事件で、小学1年生20人と職員6人が射殺されたことをきっかけに、ひとりの主婦が始めた、母親が団結して銃規制を求める団体【Moms Demand Action for Gun Sense in America】(https://momsdemandaction.org/)も活発に活動しており、この団体も【March For Our Lives】に参加している。

「最初は何の音かわからなかった」「風船が割れるような音がした」「花火の音のようだった」といった証言が今回のフロリダの事件でも聞かれたように、銃社会のアメリカに住んでいるなら、誰もが銃の発砲音を即座に認識できるというわけではない。

米国に住む私自身だって、「今この瞬間にも撃たれるかも」と怯えながらこの20数年間を生活してきたわけではないし、銃声を聞いたことも銃を見たことも手に取ったこともないので、こうした事件が起きるたび、「やはりいつでもどこでも起こりえるのだ」と気分が暗くなる。

フロリダで事件が起きた日、息子が通う小学校のある学区の最高責任者からメールが送られてきた。児童生徒の安全が最優先であること、学校には安全と治安維持の訓練が提供されていること、学区内のすべての学校には警備とアクセス制限機能を支援するリソースがあることが書かれていた。「侵入者による銃乱射を想定した訓練を受けている」とは書かれていないが、そういうことなのだろう。

しかし、それでも銃が購入できる年齢を18歳から21歳に引き上げる法律を全米で一斉に施行することはできないのがこの国だ。21歳に引き上げれば問題は解決するわけではないが、結局、各州や企業レベルで対応を進めるしかない。

フロリダでの事件が起きて、最初に「すべての店舗で殺傷用ライフルの販売を中止し、購入できる年齢を21歳以上にする」と、スポーツ用品等を販売するDICK'S Sporting Goods社が発表したことは、大ニュースとして取り上げられた。同社の会長兼CEOは、メディアへの声明で、常識のある銃規制を制定し、殺傷用銃器などの販売禁止、総合的な身元調査(精神状態の情報を含む)の義務付け、民間の銃売買や銃器展示会での抜け穴をふさぐことなどを政治家に要請するとしている。
http://pressroom.dicks.com/press-information/media-statements.aspx

「子どもたちに、彼らの願いを我々が真剣に受け止めていることを伝える努力に参加してくれることを願う。それでもパークランドのような悲劇が二度と起こらないことは保証できないという人もいるかもしれない。彼らは正しいかもしれない。しかし、常識のある改正が行われ、ひとりでも命を救うことができれば、その価値はある。この国の最も大切な宝は子どもたちだ。彼らは我々の未来だ。彼らの安全を守らなくてはならない」

一方で、かの米国大統領は「教師に銃を持たせれば」と提案し、賛否両論を生んだ。
真っ先に声をあげたのは現場の教師たちで、「そんなことのために教師になったのではない」「銃を持ちたくない」「今からトレーニングを受けても、そんな事態に自分がうまく銃を操れるとは思えない」といった意見がSNSで拡散されたかと思うと、今度は「〜で武装させろ」といった意味の #ArmMeWith のハッシュタグを使った主張が拡散された。

#ArmMeWith で検索すると、「#ArmMeWith Books」「#ArmMeWith support」「#ArmMeWith funding」「#ArmMeWith smaller class sizes」といった意見を書いた写真を持った、たくさんの教師のツイートを見ることができる。それらを読めば、教育予算の不足で現場が苦労しており、未来を担う子どもたちに十分な教育がいきわたっていないことがわかる。そうした現状が浮き彫りになったのに、銃を買い、人を訓練し、学校を守る予算ならある、とでもいうのだろうか?

大統領の発言に対してこういうムーブメントが起きること、一人ひとりの教師がそれぞれの判断で意見を主張してSNSに登場できること、そういうところがアメリカの良さのひとつでもあるのだが、残念なことに、こうしたさまざまなレベルで銃規制を求める声が出ていても、今月審議を終えて閉会したワシントン州の州議会では、銃が購入できる年齢を18歳から21歳に引き上げることも、購入時の厳格な身元確認の義務付けも可決されなかった。

シアトル・タイムズは、有権者投票で2014年も2016年も銃規制法案が可決されながら、銃規制に積極的でない地方選出の民主党議員の賛成票が得られず、リベラルとされるワシントン州で銃規制の厳格化がまた実現しなかったとの記事を掲載している。
https://www.seattletimes.com/seattle-news/politics/why-new-gun-restrictions-failed-this-year-in-the-washington-legislature/

子どもたちが誇りにし、安心して幸せに暮らせる国であってほしい。親なら誰もがそう思っていると思うのだが、それが銃で武装して身を守る方向に行ってしまう人と、そうでない人の間にある溝は、いつか埋められる日が来るのだろうか。

大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。