縄で縛ったり、ロウを垂らしたりなど過激な調教のイメージがあるSM。でも、そんなSMの現役の女王様が、ちょっとほっこりするような雑貨を作っているとしたら……。

大阪有数の繁華街、十三を拠点に活動する「蜘蛛の巣 鏡華(きょうか)」女王様(以下、鏡華さん)。数多くの男女を調教する合間に、イラストを描いたり、雑貨を作ったりしている。


「子どもの頃から絵を描くのが好きでした」という鏡華さん。
作品のアイディアは人と話をしている時など、何気ない日常の瞬間に浮かぶのだそうだ。
シール、トートバッグ、ポストカード、人形などの雑貨は、笑いを誘うものから、ハードで刺激的なものまでさまざま。そして、やはり、SMをモチーフとしたものが多い。

鏡華女王様による雑貨の数々



展示即売イベントで鏡華さんが出品した手作り雑貨の一部を紹介しよう。





SMをモチーフとしたものだけではない。メデゥーサやドラゴンなどがハードなタッチで描かれたポストカードもある。


「タトゥーが好きで胸や腕にも入れてます。彫師になろうと思ったこともありました」(鏡華さん、以下同)
タトゥーの図案を自分で描くこともあり、下段、右下のものは、実際に胸元に彫ってあるそう。

女王様渾身の作品 あの3兄弟登場


そして、グッズの中で鏡華様にとって最も思い出深いのが、緊縛された3体のキューピー人形、「変態3兄弟」だという。


もともとは友達の誕生日プレゼントとして作った変態3兄弟。それぞれの名前は好きなブランドから「ジャン」「ポール」「ゴルチェ」と名付けた。この3兄弟、誕生までにはなかなかの苦労があったようだ。

例えばキューピーの肌の色に映える紫色の縄。材料はタコ糸を使っているのだが、たとえキューピー人形であっても緊縛にリアリティを持たせるために、生成りの白い糸を、粉末の染料を使い紫に染めたという。
また、ひとつひとつ縛り方も変えている。
「『ゴルチェ(右端)』は後手高手小手(うしろてたかてこて)風の縛り。ただ、人形の腕が後ろに向かないので完全な形にはなりませんでした。真ん中の『ポール』は亀甲縛り。亀の甲らの形に見える縛り方です。『ジャン(左端)』は菱縄縛りです」


そして、左端にいる「ジャン」にはお尻にバナナが刺さっているのだが、当初はキュウリの予定だったのだそう。
「道具屋筋商店街(著者注:プロ用の調理器具や、飲食店用の看板やのれんが売っている)まで自転車で探しに行きましたが、小さいサイズの食品サンプルが見つからなくて。だから、最終的には手芸ショップで見つけたバナナを刺すことにしました」
手間ひまかけた「変態3兄弟」は、鏡華さん一押しのグッズとなった。

SMとは「コミュニケーション」



どこかかわいらしさやユーモアが感じられる雑貨を作る鏡華さんにとって、SMはどのような存在かたずねると、「コミュニケーションツールのひとつ」という答えが。
「例えばこのインタビューのように話す、それから握手する。自分を表現することでもあるけど、同時に相手あってこそできることなんです」
どれだけ「女王様」としての立場があっても、一方的では成り立たない。調教の受け手がいて初めて成立することのようだ。
そして、オフの時は好きな雑貨作りだけでなく、調教の道具の手入れや、緊縛の練習にも余念がない。


「人を縛る前に自分を縛って、縛る箇所などを確認します。縄を掛けると危険なところもありますから。また、縛っている人を落下させ、打ち所が悪いと、最悪死んでしまうこともあります。人の命がかかっているので準備は欠かせません」

高飛車なイメージの女王様だが、コミュニケーションとともに安全を重んじる気持ちも強い。ストイックさやプライドとともに、調教相手に対する愛情をも感じられる。
「私は嫌だと感じた方への調教は断っているので。『もう来ないでください』って。誰に対しても分け隔てなく愛情があるわけではないんですよ。根底に愛がないと無理ですね」

今後も調教とともに雑貨作りにも力を入れ、新しいグッズの作成も挑戦したいという鏡華さん。10月に開催されるパンク、ゴシック、オカルトなどアンダーグラウンドなファッションやグッズの展示即売会「ARTiSMMARKET(アーティズムマーケット)2018大阪 秋」への出店も予定しているという。
(谷町邦子)