「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言がある。賢き先人たちは、古典の知恵に学び、ピンチを切り抜けてきた。雑誌「プレジデント」(2017年5月29日号)では、戦略書の古典「孫子」の特集を組んだ。今回は特集から、経営戦略コンサルタントの鈴木博毅氏による「営業成績」についての考察を紹介しよう――。

■何が得意なのかをきちんとアピールしておく

Q.人見知りで引っ込み思案。営業成績も悪いが、出世だけはしたい。ライバル潰しに動くべきか、上司に愛嬌を振りまくべきか。

A.鈴木博毅さんの回答

あなたが苦手だと感じているコミュニケーション能力というものをもう1度捉え直してみてはいかがでしょう。プレゼンなどのトークの能力だけがコミュニケーション能力ではありません。たとえば企画書などの文章力でもいいし、仕事のやり方でもいい、コミュニケーション能力の定義を広げ、あなたが得意な能力もひとつのコミュニケーション能力と、考えを変えることが大事です。

人付き合いが下手だから出世できないのではなく、あなたの持っている能力が伝わっていないのです。人と話すのが苦手ならば、わかりやすい資料を準備することを心がけるのもいいでしょう。あなたが資料をつくって上司にプレゼンしてもらうことも当然あるわけです。

『孫子』に奇正の変は勝(あ)げて窮(きわ)むべからず(音階の基本は5つにすぎないが、その組み合わせは無限である)、形は無窮に応ず(戦場の隊形は敵の態勢に応じて無限に変化する)とあります。あなたがやれることはたくさんあるはずです。

特に何かに秀でていなくても、仕事に真面目に取り組む。最後まできっちりこなす。時間に対する意識を持っているというのも仕事の流儀そのものです。時間に正確で会議の5分前には必ず会議室にいるというのもあなたの仕事のやり方、広い意味でのコミュニケーションです。

そういう意味では、あなたは何が得意なのかをきちんとアピールしておくことです。『あの人は時間に正確だから、この仕事はあの人に』というように、上司にあなたが何に使えるのかを知ってもらうことは大事です。あなたがいると部署の仕事が円滑に進み、チームの能力が最大化すると上司に思わせることです。これ見よがしにしなくても、日々の積み重ねで信頼は得られます。

■自分にできることを行動で示すべき

ただひとつ申し上げておきたいのは、自分はコミュニケーション能力が低いと自覚している方の半分はただの面倒くさがり屋です。言い方は厳しいですけれども、人間関係をつくろうとしていない。上司から仕事を頼まれたときは笑顔で応え、嫌な顔をしないというだけでも重要なコミュニケーションです。それなのに、愛想よく『わかりました』と率先してコピーを取る同僚を見て、『あいつ上司に尻尾を振りやがって』と軽蔑したりしていませんか?

笑顔が苦手なら、時間を必ず守るだとか、自分にできることを行動で示すべきです。

ただ、ステータスが上がるにつれて、対面的なコミュニケーション能力は求められます。『孫子』は勝者と敗者の境界を意識することを重視しています。2割が勝ち組、8割が負け組だとするとその違いはどこにあるのか。出世したいのなら、勝ち組がやっていて負け組がしていないことは何かを観察し、違いを自ら実践できるよう訓練をすることです。

ステップアップしても、そこにもまた上位の2割と下位の8割は存在します。うまくいっている人はどこが違うのか。常にその違いを観察することが重要です

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鈴木博毅
1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。経営戦略コンサルタント。著書に『実践版 孫子の兵法』『「超」入門 失敗の本質』ほか。
 

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(MPS Consulting代表 鈴木 博毅 構成=遠藤 成)