「こんなにも底が見えない人っているんだな」と二階堂ふみが語ると、「すごく引っ張ってもらっている」と返した吉沢 亮。クールな雰囲気を漂わせつつ、互いの印象をこう答えた。一方で撮影中は、カメラマンの「見つめ合ってください」という要求に、照れくささからか思わず吹き出してしまったふたり。20代となり、役者としても人間としても成長した今、『リバーズ・エッジ』の映画公開を前に、生きることの意味すらわからずにいた多感な10代を振り返って見えてきたものとは?

撮影/祭貴義道 取材・文/馬場英美 制作/iD inc
スタイリング/郄山エリ【二階堂】、荒木大輔【吉沢】
ヘアメイク/足立真利子【二階堂】、小林正憲[SHIMA]【吉沢】

10代の頃に抱いていた感情が、そのまま原作の中にあった

映画『リバーズ・エッジ』は、発表から20年以上経った今も、世代を超えて熱狂的支持を集めている岡崎京子さんによる同名の伝説コミックが原作です。生きることにもがく若者たちの孤独や焦り、葛藤を描いた作品ですが、二階堂さんはわりと早い段階でこの原作と出会っていたそうですね。
二階堂 初めて読んだのは、16歳のときでした。そのときに自分が日常で感じていたことや、自分の持っていた感情がそのまま描かれていて、これはすごい漫画だなと思い、衝撃を受けました。
具体的にその共感された部分とは?
二階堂 当時、私はすでに仕事をしていたので、映画の現場に行くと、そこに非日常の世界があったんです。でも、そのときは学校にも通っていて、朝から夕方まで学校に行っている時間が退屈に感じていて。常に何かが起こらないかな、何かないかなと思っていて、生きていることをないがしろにしている部分があったと思います。
なるほど。刺激を求める感じは、多くの人が10代に経験したことだと思います。二階堂さんが演じられた若草ハルナも、10代特有の心のモヤモヤを感じている少女ですね。
二階堂 とくに15〜18歳ぐらいの年齢って、多感な時期だと思います。ものすごく傷つきやすくて、繊細で。でも同時に、生きることに真剣じゃないというか、何も感じない部分もあって。
吉沢さんが演じたのは、壮絶なイジメに遭っているゲイの青年・山田一郎です。他人と少し距離を置くような独特の雰囲気を持ったキャラクターですが、この役をどう捉えましたか?
吉沢 とても難しい役でした。山田という人間の芯の部分や、周りから見た山田と本人が抱えているものとのギャップ、山田が周りをどう見ているのかなど、いろいろ考えましたが、結局は正解がわからないまま終わった気がします。
たしかに山田は深い闇を抱えているし、一筋縄ではいかないキャラクターでしたね。それでも吉沢さんなりに本作の登場人物に共感したり、自分の青春時代に重なる部分があったりはしましたか?
吉沢 彼らが抱えている“よくわからないエネルギー”みたいなものは自分にもあったと思います。それが『リバーズ・エッジ』では、暴力やセックス、ドラッグに走ってしまうんですが、その根本にあるものは若者なら誰もが持っているんじゃないかなと。だからこそ今の若者にも刺さるというか、この原作が時代を超えて愛されている理由もそこにあるんじゃないかと思います。
吉沢さんは今回の映画で、行定監督らしさを感じたところはありましたか?
吉沢 感情の表現がとてもストレートだなと思いました。というのは、今回の映画はとても「寄り」のカットが多かったんです。それによって、ひとりひとりの感情の揺れみたいなものが手に取るようにわかって、さすが行定監督だなと思いました。
今回の映画化が実際に動き出すまでに時間がかかったということですが、できるなら企画が立ち上がった当初の年齢(10代)で演じたかったという思いはありますか?
二階堂 最初は、22歳でハルナが演じられるのかなと思いました。自分が10代のときは原作をリアルに理解できていたけど、今はそうじゃない。ほんの数年しか経っていないのに、今は物事を客観的に見られるようになってきたので、本当に私にできるのかなという焦りがありました。
吉沢 僕も最初はふみちゃんと同じ気持ちだったけど、(今の年齢でも)理解できる部分はあったし、客観的に見ることができるようになったのが逆によかったのかなと。
二階堂 たしかにそれはあるかもしれないです。もし10代で演じていたら、何もわからずにやっていたと思うけど、今は頭で理解して、ちょっと距離を置くこともできたので、この年齢で演じることができてよかったなと思います。

役との共存を試された、劇中のインタビュー映像

映画を拝見して、おふたりのどこかつぶやくような演技が印象的でした。それは自然とそうなったのか、それとも監督の演出だったのでしょうか?
吉沢 僕はへんに声を作ったり、表情を作ったりすることは一切しませんでした。もちろん、現場によってはそういうことをやらないといけないときもありますが、今回に限ってはあえて作ってしまうと、山田が安っぽくなってしまう気がしたので。
それは監督からの指示ではなく、自らの意思でそうされたのですか?
吉沢 そうです。さっき、考えても答えがでなかったと言いましたが、自分の中ではわりと考え抜いた山田像があったので、それに従って演じたつもりです。
二階堂さんはいかがでしたか?
二階堂 監督が最初の本読みの段階で「僕はこの世代から遠く離れてしまっているので、逆に意見を聞かせてほしい」とおっしゃっていて。なので、監督からこういうふうにやってほしいというのはなかったです。
なるほど。どう演じるのかは役者に任されていたと?
二階堂 そうですね。全体的なトーンとして劇的な感じではないので、吉沢くんが言っていたように、私もセリフをこう言おうとか、ああ言おうというのはなかったです。それよりも、キャスト全員が現場でどう生きるかに重きを置いていた気がします。
だからなのか、劇中にインサートされる各キャラクターのインタビュー映像がとても生々しく感じました。あれはどのように撮影を?
吉沢 ある程度のセリフは用意されていましたが、監督が現場で聞いてくることに答えるという感じでした。監督は「役の山田と、それを演じている吉沢 亮の中間が見たい」とおっしゃっていて。質問にどう答えたらいいのかが難しかったです。
二階堂 たしかに、ハルナが話しているのか、ハルナを演じている自分が話しているのか、それともハルナをやっているからその言葉が出てくるのか、ちょっとよくわからなくなる感覚がありました。
吉沢 監督が聞いてこられることも、すごく深い部分からえぐり出さないと答えられない難しいものが多くて、ひとつひとつの質問と戦っている感じがしましたね。
二階堂 しかも、いつインタビューされるのか一切聞かされていなかったので、けっこうドキドキでした。でもあれがあったからこそ、自分とハルナというキャラクターが共存できた気がします。
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