執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


日常生活にあふれる、ありふれた音。

たとえば、パソコンのキーボードを入力する音やヘッドフォンから漏れる音、食事中の咀嚼音や麺類をすする音などは、限度はあるにせよたいていの場合は気にもとめないでしょう。

しかし、これらの音を不快に思い、強い嫌悪感や怒りといった過剰な反応を示す「ミソフォニア(音嫌悪症)」という障害があります。

どのような障害かご説明しましょう。

ミソフォニアの特徴

特定の音に過敏に反応するミソフォニア。

音嫌悪症あるいは音嫌悪症候群とも呼ばれています。

どのような音に反応するのでしょうか。

2013年にアムステルダム大学(オランダ)がおこなった研究結果などによると、「人の身体が出す音」と「環境が生み出す音」のふたつが多いといわれています。

人の身体が出す音とは、咀嚼、息、咳払い、鼻を鳴らす、くしゃみ・げっぷ・あくび、飲み込む、などです。

また、環境が生み出す音とは、雨の降る音、パソコンのタイピングの音、ペンをカタカタ鳴らす音、時計のチクタク音、やかんのお湯が沸く音、車のアイドリング、赤ちゃんの泣き声、がやがやしている声、などが挙げられています。

これらは「繰り返される音」という共通性を持っており、この繰り返しがミソフォニアを不快にさせると考えられています。

ミソフォニアの症状

前述のようなさまざまな音に対するミソフォニアの反応は、感情・身体反応・行動の3つの側面から出現します。

過敏な否定的感情


  ・強い不安や恐怖
  ・怒り
  ・激しい嫌悪や憎しみ
  ・逃避反応

神経症的身体反応


  ・動悸
  ・心拍数の上昇
  ・手足の震え
  ・筋肉の緊張
  ・多汗
  ・過呼吸
  ・パニック発作

攻撃的行動


  ・音源となっている人への暴力
  ・自傷行為

ミソフォニアの原因

ミソフォニアに関する研究はまだ日が浅いようです。

専門的な研究は1990年代頃から始まって2000年代に盛んになり、2010年前後から知られるようになりました。

ですから、現時点において、医学的診断による正式な疾患と認知されるには至っていません。

今のところ、仮説的に聴覚過敏症、脳疾患、精神疾患といった可能性が指摘されています。

原因や治療法などの解明は、今後の研究に期待がかかる新しい病気といえるでしょう。


脳科学的にみると、2017年2月にニューカッスル大学(イギリス)がおこなった研究によると、ミソフォニアの人は、音を聞いたときに大脳皮質の中の「島皮質(とうひしつ)」が極度に活動的になると報告されています。

また、感情抑制の異常や不安障害のような身体反応などを誘発することが想定されると述べられています。

ちなみに、島皮質は、痛みや喜怒哀楽、不快感や恐怖といった、基礎的な感情の体験に重要な役割を果たす脳の器官であることが、最近の画像診断技術からわかってきています。

ミソフォニアの対処法

これまでミソフォニアは、短気でヒステリックな人やストレスが多い人に発症しやすいと考えられていました。

しかし、昨今では前述のような脳科学による解明も進み、徐々に原因が明らかになってきています。

とはいえ、まだまだ分からないことの多い病気ですから、診断・治療といった医学的対処には至っていません。

ですので、聴覚の過敏性なら耳鼻科、不安障害のような反応が気になるなら心療内科、脳の機能性に疑いがあるなら神経内科といった具合に、症状によって受診する科も違ってくるでしょう。

また、ストレスが症状を引き起こしている場合は、ストレス・コーピング(※)や生活習慣の見直しにより、できるだけリラックスできるような環境を整えてあげましょう。

そのためには、本人の症状や悩みを周囲の人がよく聴いて理解し、配慮することが大切です。


【参考】
(※)厚生労働省 e-ヘルスネットス健康用語辞典『ストレス・コーピング』(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-068.html)


<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供