アニメや漫画を配信する「クランチロール(Crunchyroll)」は、コンテンツや関連商品の販売、イベント開催で収益を得てきた。そして、いまニッチな配信サービス向けのデジタルバンドルの構築の支援に乗り出そうとしている。

クランチロールは、モバイルおよびテレビ向けアプリ「VRV」の主要チャンネルだ。VRVは、ニッチだが熱烈なファンコミュニティを持つ10のストリーミングチャンネルを視聴できる。クランチロール以外では、テキサス州オースティンを拠点とするデジタルスタジオ、ルースターティース(Rooster Teeth)の「ファースト(FIRST)」、ケーブルネットワークAMCのホラーチャンネル「シャダー(Shudder)」、映画スタジオのレジェンダリー・ピクチャーズ(Legendary Pictures)の「ナーディスト(Nerdist)」と「ギーク&サンドライ(Geek & Sundry)」などがある。

また近いうちに、11番目のチャンネルとなる「キュリオシティー・ストリーム(CuriosityStream)」も配信予定。キュリオシティー・ストリームは、ディスカバリーチャンネル(Discovery Channel)の創業者であるジョン・ヘンドリックス氏が設立したサイエンス系ストリーミングサービスを行うスタートアップだ。

クランチロールが牽引役



VRVのバンドルは、月額10ドル(約1100円)の定額料金で視聴できるが、チャンネル別の支払いオプションも設けている。また、広告は入るが無料版での視聴も可能だ。無料版で配信されるコンテンツについては、コンテンツ配信側の裁量で決めている。定額サービスも広告付き無料版の視聴においても、VRVは売上の30%を受け取る。また、各チャンネルに対しては交渉で決定した固定金額を支払っている。

VRVのゼネラルマネージャーであるアーレン・マーメル氏は、有料会員数は伏せたが、150万人の登録ユーザーのうち、それなりの割合が定額サービスに移行したという。また、VRVの月間アクティブユーザー数も100万人を超えているという。

マーメル氏によると、定額サービスに加入しているユーザーの大半が、個別のファンネルではなく月額料金を支払っているという。そのなかでクランチロールはほかのどのチャンネルより定額サービスへの加入を牽引役となっているようだ。「クランチロールがいるのは幸運なことだ。クランチロールを通して、VRVプラットフォーム上のオーディエンスを獲得することができる」。

VRVとクランチロールはいずれも、オッターメディア(Otter Media)が創設したデジタルメディア会社エレーション(Ellation)の傘下にある姉妹企業だ。オッターメディアは、米通信大手AT&Tとエンターテインメントプラットフォーム企業チャーニン・グループ(Chernin Group)が5億ドル(約560億円)を投資して設立したストリーミング動画事業を運営するジョイントベンチャーとなっている。

熱狂的なファンをターゲット



クランチロールの動画配信サービスには、100万人以上の有料会員がおり、月額6.95ドル〜(約780円〜)で大量のアニメ作品や関連商品、イベントを視聴したりできる。広告付きの無料版もあり、アニメに関心の高いユーザーがもっと多くのコンテンツや特典を得るために有料会員になるよう設計されている。

クランチロールのビジネスモデルは、同様にコアで熱心なファン層がいるほかの配信サービスでも導入されている。たとえば、オッターメディアも株式の大半を保有するルースターティースは、月額料金4.99ドル(約565円)の会員サービスをはじめ、現在では25万人の会員がいる。また、オウンドサイトとYouTubeで広告付きの無料配信も行なっている。

「(どのチャンネルをVRVに追加するか決める際には)いくつかのことに目を向けるが、もっとも重要なのは、特定のブランドに対して熱狂的なファンがいるかどうかだ。ファンはこのブランドのために長蛇の列にも並ぶか、ファンコミュニティになっているのかといった点だ」と、マーメル氏は語る。

熱狂的なファンをターゲットにしているストリーミングチャンネルに限定したことが、VRVでの視聴を促すのにも繋がった。最初の1年で、合計視聴時間は10億分を超え、会員の1日の平均視聴時間は45分となっている。

また、配信チャンネルのカテゴリーが似通っていることで、個別チャンネルではなく月額の定額サービスへの加入を促しているという。クランチロールはアニメ、ルースターティースはゲーム、ナーディストとギーク&サンドライは、あらゆるオタク文化をカバーしているという具合だ。VRVが言うに、ユーザーは複数の異なるチャンネル別のアカウントや請求情報が持つのは好まない。そのため、ケーブルTVや衛星TVのように、ユーザーが好きなチャンネルをまとめて手頃な価格で提供する方が容易だという。

スキニーバンドルが人気



これは、チャンネル数は少ないが料金は安い配信サービスであるスキニーバンドルが進んでいる理由でもある。テレビ局やデジタルパブリッシャーが定額の配信チャンネルを立ち上げても、ひとつのチャンネルや局で得られる会員数には限界がある。お金を払ってでもそのチャンネルを視聴したいと想う人が大勢いるチャンネルを多く持つサービスが成功する可能性が高いのは歴然だ。

VRVにとってそれは、つまり熱心なファンのいるニッチな配信チャンネルに的を絞ることだ。それに、個々の番組や映画を大量に購入しているNetflixと違って、パートナーは大量のコンテンツにブランドが埋もれてしまう心配をする必要はないともVRVは指摘する。

「Netflixのような大量にコンテンツを持つものと、パートナーブランドがコンテンツに埋没しないものと、この両方のいいとこ取りができると考えている。残されているものがNetflixやHulu、長文記事で有名なサイトであるマター(Matter)だけなら、業界は何かを失ったことになる。クランチロールやルースターティース、シャダーのようなチャンネルにこだわりを持つ人たちもいるのだ」と、マーメル氏は言う。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)