ハードコアの先駆者、長尺のドゥーム、ジャンル分け不能のサヴェージ系まで。ときにジャンルの壁を破壊し、進化を続けるメタルの”今”がここに集約。2017年のベスト・メタル・アルバム10選を紹介する。

ここ数年の記憶の中で2017年ほど理に適った怒りの絶叫を必要とした年はなかった。ボディ・カウントの政治的な破壊マシンだったり、ピーロンの制御された混乱だったり、レーガン時代(1980年代)に戻って斧を振り下ろすノスタルジックなパワー・トリップだったり、怒りの絶叫を必要とする人々にメタルはしっかりと応えた。アンセイン、オビチュアリーなどがひたすらメタル道を邁進し続ける一方で、コード・オレンジ、オックスボウ、サークルなどはジャンルの壁を見事に破壊してしまった。今年のベスト・メタル・アルバムはこれだ!

20位 クラリス『Go Be Forgotten』


19位 ミュートイド・マン『ウォー・モウンズ』


18位 エレクトリック・ウィザード『Wizard Bloody Wizard』


17位 アンセイン『ステリライズ』


16位 ボディ・カウント『Bloodlust』


15位 ピーロン『What Passes For Survival』


14位 オビチュアリー『Obituary』


13位 ベル・ウィッチ『Mirror Reaper』


12位 パラダイス・ロスト『メデューサ』


11位 パワー・トリップ『ナイトメア・ロジック』


10位 ゴッドフレッシュ『ポスト・セルフ』

インダストロ・メタルの扇動者たちによる8枚目のLPは、成功を収めた1989年の『Streetcleaner』と1992年の『Pure』の閉所恐怖症的な怒りと、フロントマン兼聴覚ファイターであるジャスティン・ブロードリックが2000年代に結成したシューゲイザーな分身イェスーのどことなく愁いを帯びた音を組み合わせている。結果として出来上がったものからは、薄気味悪い絶望感がこれまでで一番クリアに聞こえる。「No Body」で終始流れるドラムマシンは一定のリズムを刻み続け、最後の最後で制御不能な激突へと変貌を遂げて果てる。また、インスト曲「Mortality Sorrow」でのギターは空中に消えてしまうまで不吉さを煽り、「Pre Self」でのノイジーなリフが雑音混じりのノイズの層を積み重ねていき、繰り返されるブロードリックの歯ぎしりにも似た声色にさらなる怒りをまとわせている。

9位 モービッド・エンジェル『キングダムズ・ディスデインド』

2011年に四半世紀に及ぶアンダーグラウンドでの活動を記念してリリースした『狂える神々』は、彼らのシグネチャーともいえるデスメタル的虚勢に当時のインダストリアル・ビートを組み合わせたアルバムだった。今作『キングダムズ・ディスデインド』は、バンドリーダーであり唯一のオリジナル・メンバーのトレイ・アザトースの獰猛な罪深さを表しているようだ。2015年、ギタリストのトレイは、当時のフロントマンのデヴィッド・ヴィンセント(現在、彼もモービッド・エンジェル絡みのプロジェクト「I Am Morbid」を率いている)と決別し、ベーシスト兼ボーカリストのスティーヴ・タッカーと再びタッグを組んだ。タッカーは1990年代後半〜2000年代前半の最も荒れた3作品に参加している。タッカーとアザトースは当時の結束を呼び起こし、ブラストビートでドライヴする憤怒のサイクロンを発生させ、そこにアザトースの十八番のヘヴィーで突き刺すようなグルーヴと、エディー・ヴァン・ヘイレンが幻覚を見ながら弾いているようなギターソロが加わる。ヘッドバンガー御用達だった90年代初頭から半ばまでの彼らの音楽にあったダイナミックな雰囲気や、ついつい拳を振り上げてしまうコーラスは姿を消したが、逆にそれがカオスの純粋な激しさを強調している。

8位 ロイヤル・サンダー『Wick』

アトランタのロイヤル・サンダー3枚目のフルアルバムの聞き所は多数あるが、ヘヴィーな音を担っている楽器はミニー・パーソンズの声だ。荒々しく、ざらついていて、逞しさもありながら、弱さも優しさも兼ね備えている。他のメンバーはパーソンズの声を真ん中に据えつつ、それに呼応して変化し続ける音を紡ぎ出す。1曲目「Burning Tree」はうねうねしたリフと、タンバリンがアクセントのトランス風パーカッションで展開していく。「We Slipped」はジャングル風のギターのベッドの上で滑るように動いたあと、ストリングスの霞の中で蒸発する。不気味な雰囲気のタイトル曲では、フィードバックのシーツの上に気の抜けた音と歪んだパワーコードを並置している。そして、ゆっくりと燃える「Plans」では、クリーンにかき鳴らされるギター、天使のようなバックコーラスの歌声、エアリーでありつつヘヴィーに響くドラムという要素すべてが、パーソンズの情熱的な高音をサポートしている。彼らはメタルとは呼べないかもしれない。だが、ロイヤル・サンダー『の音は紛れもなくヘヴィーだ。

7位 オックスボウ『Thin Black Duke』

ほぼ10年ぶりのアルバムとなる今作で、不協和音好きのアヴァンメタル・バンド、オックスボウはインタープレイをタイトに、ディストーションをルーズにして戻ってきた。シャダー・トゥ・シンクとも、チャベスとも、初期のロリンズ・バンドとも違うタイプの、半分壊れたインディーの逆襲のような音だ。ゆらゆら揺れるグルーヴと奇妙な角度を持ったストリングスがミックスされ、その間から聞こえる緩やかな大砲は言わずと知れたユジーン・ロビンソンのヴォーカル。音の嵐の中で叫び、悲痛な声を出し、裏声で歌い、囁き、高笑いする。

6位 ポールベアラー『ハートレス』

これまでも標準的なドゥーム・バンドと一線を画してきたアーカンソーのポールベアラーは、3枚目のフルアルバムで自身のズブズブのルーツからさらに逸脱している。チラチラと地味に光るギター、切ないボーカル、プログレ風のうなだれた空気感、クラシック・ロック的な聞かせどころなどを、しっかりと習得してきたようだ。そのサウンドと同様に、アルバム全体のお楽しみポイントとなるのは、ゆっくりと開くように広がっていく長尺で壮大な7曲の楽曲だ。全曲とも素敵なメランコリアで覆われている。ギターたちは鳴り響きながら互いに絡み合い、ヴォーカルは純粋なハーモニーの中でオーバーラップし、アレンジは盛衰し、最後には途方もない大きさへと膨れ上がる。それどころか、内蔵を刺激する分厚い歪みコードは曲を安定させるためではなく、スパイス的に入れた感じすらする。

5位 エルダー『Reflections Of A Floating World』

4枚目のLPで、マサチューセッツのバンド、エルダーは荘厳なロック・コンポジションという消え行くアートを継承するマイスターだと証明した。ジャンボサイズといえる長さの楽曲、高尚な歌詞、現代版ロジャー・ディーン風のアルバムアート。彼らの最大のアピールポイントは、半世紀に渡る優れたリフの数々から玄人ならではの‟いいとこ取り”をしている点だ。それも、ニューロシス系譜の構造的なアート・ドゥームや、ジェントル・ジャイアントみたいにオブスキュアなプログレ勢のギークなプロト・マスロック風味を計算して入れるだけでなく、オールマン・ブラザーズのように味のあるメロディーを開花させ、ホークウインド的な非現実的鼓動まで入れ込んでいる。ペーシングの達人でギタリストのニコラス・ディソルヴォが歌うソウルフルなヴォーカル・フックが、11分という尺長の1曲目「Sanctuary」を今年最もキャッチーなメタルソングにしたというあり得ない状況まで生んでいる。さらに、クラウトロック風のミニマルなインスト曲「Sonntag」で演奏に没頭していても、このバンドはアルバム全体を通して人々の興味を刺激し続ける。 この2017年において、見開きジャケット時代の雄大な音楽を奏でるエルダーは向かうところ敵なしだ。

4位 マストドン『エンペラー・オブ・サンド』


躍進し続けるマストドンは『リヴァイアサン』や『クラック・ザ・スカイ』というヒットアルバムを作ってしまったばかりに、今では音楽的に微調整する余地しか残されていない。ガンに触発された語り口という野心的な枠組みは別として、バンドの7枚目のLPは新たな音楽の始まりではなく、前作『ワン・モア・ラウンド・ザ・サン』、前々作『ザ・ハンター』の延長線上にある。とはいえ、彼らを世界で最も好かれるヘヴィ・バンドたらしめる要素はすべて、確実にこのアルバムにも入っている。並外れてダイナミックなプログレ・メタル曲(「サルタンズ・カース」「エンシェント・キングダム」)から、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ的フックのあるハードロック曲(ドラマーのブラン・デイラーがしなやかな歌声を披露する「ショウ・ユアセルフ」)まで。最後は複数のパートで構成された堂々たる曲(「ジャガー・ゴッド」)で幕を閉じる。

3位 サークル『Terminal』


フィンランドのカルトヒーロー、サークルは「多作」と呼ぶには作品の数が多すぎるし(1991年の結成以来アルバムを30枚以上リリースしている)、「折衷主義」という表現では彼らの音楽を形容しきれない。サザン・ロード移籍第一弾の今作で、カタカタ音を立てるクラウトロック・グルーヴからストゥージズ・スタイルのブルドーザー系リフ、ピンク・フロイド風の奇妙な間奏曲、70年代プログレ・メタル、クイーン風の壮麗ポップまで、彼らは予告なしにコロコロ変化する。しかし、そのすべてが流動的でオーガニックだ。特に「Rakkautta Al Dente」「Sick Child」「Terminal」での3人のギタリストが厚い音のレイヤーを重ねて攻撃するように入ってくるところでは感動すら覚える。彼らは自分たちの好きなようにやっているのだが、サークルという宇宙船には何度も乗り込みたい中毒性の高いスリルがある。

2位 コンヴァージ『The Dusk In Us』

結成当初を上回るくらい、奥ゆかしく成熟していくハードコア・バンドは非常に稀だ。コンヴァージの5年ぶりの新作で通算9枚目となる『The Dusk In Us』は、全盛期だった90年代の獰猛さを強化させてはいるが、そこにこれまで以上のストーリー性が込められている。ギタリストのカート・バルーは、フロントマンのジェイコブ・バノンの声帯を切り刻むような激しい声に応えるように、メタル的凶暴性と攻撃的な空気感を併せ持つギターで空間を埋め尽くす。「I Can Tell You About Pain」では、バノンが「俺の苦痛がどんなものか、お前はわかっちゃいねえ」と悲痛な声で歌うと、バルーと他のメンバーたちはフィードバックが染み込んだパイル・ドライバーをお見舞いする。一方、ストレートなゴスロック曲「Thousands Of Miles Between Us」では、バノンが死や自分から離れた心に耐える様子を囁くように歌い、バンドが一丸となって演奏する。彼らは余計な力が抜けた大人のバンドになった。

1位 コード・オレンジ『Forever』

地獄から来たピッツバーグ出身のハードコア・バンドから届けられた最先端のヘヴィーネスを持った3枚目のフルレングスLPは、天下のメタル・レーベル、ロードランナー移籍第一弾だ。ドラマー兼ヴォーカリストのジャミ・モーガンのナイン・インチ・ネイルズ愛が溢れた『Forever』は、攻撃性と同量のアトモスフィアも備えている。いつも通りに無慈悲で精密な暴力性がテーマで、最近のWWEイベントでのアリスター・ブラックの登場場面で使われた不穏な音を上手く利用しているが、「The Mud」などで聞こえてくる不吉なアンビエント・パッセージは、このアルバムに流れる分厚い恐怖のオーラを強調するばかりだ。しかし、最も魅惑的な瞬間をもたらすのはギタリストのリーバ・メイヤーズ。彼女が歌うメロディックで薄気味悪いヴォーカル曲「Bleeding In The Blur」「Dream2」が暴力性と攻撃性の間で鳴り響く。