年末年始は飲酒の機会が増える。体質的にお酒が苦手だという人もいる一方で、「少しずつ飲んでいれば、そのうち飲めるようになる」という声も聞く。本当だろうか。「お酒に強くなりたい」と考える女性ライターが、アルコール依存症の専門家である久里浜医療センターの木村充医師に「俗説」の真偽を聞いた――。

筆者の趣味は外食で、周囲から酒飲みと思われることも多い。だが、実はかなり酒に弱い体質で、飲むと頭痛や目の痛み、吐き気、動悸(どうき)、眠気、といった症状が出る。実家の家族も全員、酒を飲まない。

それでも、いい料理を食べるときには、一緒においしい酒も楽しみたいと思う。そのため、会食の前には念入りに準備する。ウコン飲料など、事前に飲むと悪酔いが防げるとうたう市販品はひととおり試したし、「牛乳が効く」と聞いて事前に飲むこともあった。

こうした対策の効果のほどはよくわからない。なぜなら同じ対策を行っても、ワインを数口飲んだだけで吐いてしまう日もあれば、日本酒を3合くらい飲める日もあるからだ。なぜ「酒に弱い日」と「酒に強い日」があるのだろうか。

今回、酒に関する「俗説」を退け、科学的に正しい知識を学ぶため、国立病院機構久里浜医療センター・精神科診療部長の木村充医師を訪ねた。同施設は、昭和38年に日本初のアルコール依存症専門病棟を設立し、現在もアルコール依存症をはじめ、さまざまな依存症患者の治療を行っている。

■「強い」か「弱い」かの基本は遺伝で決まる

――酒に強い人と弱い人がいます。なにが違うのでしょうか。

アルコールは体内に入ると、酵素の働きでアセトアルデヒドになり、その後酢酸になって、最終的に体外に排出されます。アセトアルデヒドは有害物質なので、頭痛や吐き気、動悸が速くなるといった症状が出るんです。「酒に弱い」といわれる人は、アセトアルデヒドの分解酵素が弱く、体内にたまってしまう人ですね。

残念ながら、これは遺伝なので、途中から強くなることはありません。体内で有害なアセトアルデヒドを分解して無害の酢酸にする一番重要な酵素がALDH2(2型アルデヒド脱水酵素)です。この酵素は父親、母親から1本ずつ遺伝子をもらって1対(2本)になって作られるんです。ALDH2の働きが強いか弱いかは、次の3タイプに分けられます。

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1. 酒を数口飲んだだけですぐ顔が赤くなる下戸の人……「父から弱い+母から弱い」の遺伝子をもらっている。日本人の6%くらい。
2. ワイン1杯で顔が赤くなり、たくさんは飲めないが、ちょっとは飲める人……「父・母のどちらかから弱い+もう片方から強い」をもらっている。日本人の約40%。
3. 顔が赤くならない酒に強い人……「父から強い+母から強い」をもらっている。日本人の50%強。

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――それでは「酒に強くなった」という人は、なぜ飲めるようになったのでしょうか。

1.の「弱い+弱い」の人はどうやっても無理ですが、2.の「弱い+強い」タイプでは3つの理由が考えられます。

1つ目は、ALDH2以外の、遺伝に左右されない酵素が強くなった可能性があること。アルコールの代謝には、カタラーゼとかミクロソームエタノール酸化系(MEOS)酵素群といった分解酵素があって、その酵素の働きは遺伝に左右されないので、飲んでいくうちにそちらが多少強くなったのではないか。

2つ目は、アセトアルデヒドに慣れたということ。頭痛、吐き気、眠気といった不快感が出るアセトアルデヒドには、気分を大きくしたり幸せな気持ちにしたりする作用もあります。飲んでいくうちに体が不快に慣れ、幸福感を求めて飲むようになる人もいるでしょう。

3つ目は、アセトアルデヒドの分解よりも前の段階の要因です。最初に体内に入ったアルコールはADH(アルコール脱水素酵素)によってアセトアルデヒドに分解されます。飲んだ翌日まで酒臭い人っているでしょう? そういう人は、酒に強くてもアルコールの分解が遅い人なんです。アルコールの分解が遅いと、アルコールから産生されるアセトアルデヒドの量が少なくなり、そのことで飲めてしまう人がいる可能性も考えられます。

■酔い方を決めるもう一つの酵素

――アセトアルデヒドの分解だけではなく、アルコール分解の速い、遅いもあるんですね。こちらは飲むことで変化することもあるのですか。

残念ですが、こちらも遺伝によって生まれつき決まっています。アルコールをアセトアルデヒドにする段階で一番重要となるのはADH1B(アルコール脱水酵素1B)で、この酵素の働きも3タイプに分けられます。

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(A)「父から遅い、母から遅い」を受け継いだタイプ(日本人の約10%)
(B)「父母のどちらかから遅い+もう片方から速い」を受け継いだタイプ(日本人の約40%)
(C)「父母両方から速い+速い」を受け継いだタイプ(日本人の約50%)

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日本人の半分弱はもともと酒に弱い人たち(アセトアルデヒド分解酵素が「弱い+弱い」もしくは「弱い+強い」)なので、そもそも量をたくさん飲めないためにアルコールの分解が速い人が多いんです。またアジア系の人は遺伝的に速い代謝のADH1Bを持っている人が多い。これが欧米だと反対で、アセトアルデヒド分解酵素が「強い+強い」の人が多く、さらにアルコールの分解が遅い(A)タイプの人が約90%を占めます。

アルコールの分解が遅い(A)タイプの人は、その分血中のアセトアルデヒド濃度がゆっくり上がるため、気持ち悪さを感じにくく、酒に強いといえます。ただし、このタイプの人は、翌日まで酒が残りやすく、朝に酒の匂いが残ることがあるので、注意が必要です。

――なるほど。私はアセトアルデヒド分解酵素が「弱い+強い」で、アルコールの分解が「遅い+速い」のタイプである気がします。特にワインを飲むと翌日まで響いてしまうことが多いのですが、酒の種類によってアセトアルデヒドの濃度の上がり方や分解のされ方が違う、といったことはあるのでしょうか。

飲んだ翌日の不具合が、アセトアルデヒドに起因するとは言い切れないですよ。アルコールと違って、アセトアルデヒドの血中濃度は大抵その日のうちに下がりますから。

――つまり、他の要因が大きいと?

アルコールはたくさん飲むと低血糖になるので、脱水症状になって頭痛を引き起こしていることもあります。酒は液体なので水をたくさん飲んでいると思いがちですが、利尿作用があるため飲むほど体内の水分が失われてしまうんです。その脱水が頭痛に関係しているのではないかといわれています。

考えられる原因はほかにもあります。製造過程で使われる添加物や、微量に含まれるアセトアルデヒド以外のアルデヒドが影響することもあるようです。さらに、もともと片頭痛持ちの方の場合は、アルコールが引き金になって片頭痛が起きることもありますね。

■「悪酔い予防」の市販品は効くか?

――飲む前に摂取すると悪酔いを防ぐとうたう市販品には、効果はあるのでしょうか?

エビデンスがはっきりと出ている商品はないと思いますね。そうした市販品に頼るのはおすすめできません。例えばウコンを大量に飲むと、人によっては肝臓を傷めることもあります。

――飲む前に牛乳を飲むと、「胃に膜ができて、酔いづらくなる」と聞いたことがあります。また、飲む前になにか食べておくといいともいいますよね。こうした対策には効果はありますか。

牛乳で膜……。牛乳の効果はよくわかりませんが、先になにか食べるのはいいと思います。すきっ腹でアルコールを飲めば胃の粘膜を痛めるので、吐き気や胃のむかつきを感じやすくなります。また、胃になにか入れておけばアルコールの吸収がゆっくりになるので、何も食べないで飲むよりは酔いを感じにくくなるでしょう。

――酒と水を交互に飲むというのはどうでしょうか。

脱水予防という点では意味がありますよね。飲み過ぎ防止にもつながるでしょう。ただ、アルコールが喉を通るときにがんになりやすいので、健康面を考えると、アルコール度数の強い酒を水と別々に飲むよりは、割ったほうがいいでしょうね。

――飲んだ後に経口補水液やスポーツドリンクを飲むと、二日酔いになりづらいとも効きました。

飲んだ後は脱水だけでなく低血糖にもなるので、経口補水液やスポーツドリンクは糖分補給にもなっていいと思いますよ。

■「飲むほど酒に強くなる」は根拠なし

木村医師の話をまとめると、「飲むほど酒に強くなる」という考え方には根拠がない。ただし、食事を先に済ませたり、水を一緒に飲んだりすれば、飲み過ぎのリスクは下げられるようだ。後編では、酒に強いかどうかを見分ける方法、男女での適量の違い、アルコール依存症のリスクなどを紹介する。

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木村 充(きむら・みつる)
医学博士。専門はアルコール依存症などのアディクション医学。国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長として、アルコール依存症病棟を担当している。
 

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(干川 美奈子 写真=iStock.com)