先日行われたシリアとの親善試合では1-1と引き分けに終わった日本代表。さらに香川真司ら多くの中心選手が怪我を抱えることになり、万全ではない状態でワールドカップ予選に臨む。

会場は先日同時多発テロ事件が発生したイランの首都テヘラン。これまで以上に厳しい警備の中で行われるであろう試合の相手は、イラクだ。

これまで日本と数多くの対戦を繰り広げてきたことで知られるイラク。2012年からの5年間で7試合目である。しかもあの「ドーハの悲劇」の相手でもあった。

苦戦した思い出がいろいろ蘇ってくるのだが、実は2000年以降の成績はこうなっている。

2000年アジアカップ:日本 4-1 イラク 2004年親善試合:日本 2-0 イラク 2012年W杯予選:日本 1-0 イラク 2013年W杯予選:イラク 0-1 日本 2015年アジアカップ:イラク 0-1 日本 2015年親善試合:日本 4-0 イラク 2016年W杯予選:日本 2-1 イラク

「ドーハの悲劇」以降は日本が7試合全勝、そしてわずか2失点しかしていない。接戦が多いだけで、実は完全に「お得意様」だったりするのだ。

とはいえ、もちろん接戦が続いているということは、侮ればすぐにひっくり返される相手だとも言える。

まずは今回のイラクのメンバーを見てみよう。背番号は先日の韓国戦で取ったデータから。出てなかった選手はわからない…。

GK:

1-ジャラル・ハッサン / Jalal Hassan Hajim
(ナフト・アル・ワッサート)

12-ムハンマド・カーシド / Mohammed Kassid Kadhim Al-Jaberi
(アル・ザウラー)

20-ファハド・ターリブ・ラヒーム / Fahad Talib Raheem
(アル・クーワー・アル・ジャウィーヤー)

DF:

2-アハマド・イブラヒム / Ahmed Ibrahim Khalaf
(エミレーツ・クラブ/UAE)

3-アリ・バハジャート / Ali Bahjat Fadhil
(アル・クーワー・アル・ジャウィーヤー)

15-アハマド・アブドゥル・リーダー / Ahmed Abdul-Ridha
(アル・クーワー・アル・ジャウィーヤー)

22-レビン・スラカ / Rebin Sulaka
(エルヴェルム/NOR)

23-ワリード・サリーム / Waleed Salim Edwereag Al-Lami
(アル・シュルター)

アリ・アドナン・カーズム / Ali Adnan Kadhim Nassir Al-Tameemi
(ウディネーゼ/ITA)

サード・ナティーク / Saad Natiq Naji
(アル・クーワー・アル・ジャウィーヤー)

ムスタファ・ナージム / Mustafa Nadhim Jari Al-Shabbani
(アル・ミナー)

アリ・ファイズ・アッティヤー / Ali Faez Attiya
(リゼスポル/TUR)

MF:

5-アムジャード・アットワーン・カージム / Amjad Attwan Kadhim
(ナフト・アル・ワッサート)

9-アハマド・ヤーシーン / Ahmed Yasin Gheni
(AIKソルナ/SWE)

11-フマーム・タリク / Humam Tariq Faraj Na'oush
(アル・クーワー・アル・ジャウィーヤー)

13-バシャール・ラサーン / Bashar Rasan Bonyan
(アル・クーワー・アル・ジャウィーヤー)

17-ブルワ・ヌーリ / Brwa Hekmat Nouri
(エステルスンド/SWE)

19-マフディ・カーミル・シルターフ / Mahdi Kamil Shiltagh
(アル・シュルター)

21-サード・アブドゥラミール / Saad Abdulameer Luaibi Al-Zirjawi
(アル・アハリ/KSA)

アリ・ハースニ / Ali Husni Faisal
(アル・アラビ/KUW)

FW:

7-ハンマディ・アハマド / Hammadi Ahmad
(アル・クーワー・アル・ジャウィーヤー)

8-ムハンナド・アブドゥルラヒーム / Mohannad Abdul-Raheem Karrar
(アル・ザウラー)

10-アラー・アブドゥルザフラ / Alaa Abdul-Zahra Khashen Al-Azzawi
(アル・ザウラー)

18-アイマン・フサイン / Ayman Hussein
(アル・ナフト)

主なメンバーで招集されていないのは、GKムハンマド・ハミード、DFドゥルガーム・イスマイール(共に怪我)、ジャスティン・メラム(ドナルド・トランプ大統領令の影響でアメリカから出られない)、ヤースル・カーシム(招集拒否問題)らである。

その他に関してはほぼレギュラーと言える存在は揃っているといえる。

このところのイラク代表

では昨年10月に日本のホームで戦ったあとの状況を見ていこう。

数日後にホーム扱いとなったイラン開催の試合でタイ代表を4-0と下したが、11月には厳しい状況に陥る。

ヨルダンとの親善試合に引き分け、UAEに敵地で2-0と敗北。順位を落として2017年を迎えた。

予選が再開された3月には、親善試合でライバルのイランに勝利するという結果を残し、さらにオーストラリアとの試合を1-1のドローで乗り切る。

ところがその後のサウジアラビア戦で1-0と敗れてしまい、監督を務めていたラディ・シュナイシル氏が辞任を発表することに…。

指揮官不在となったイラクは元イタリア代表GKのヴァルテル・ゼンガ氏を監督に迎えようとしていたが、結局その交渉は合意に至らず。

結局アル・クーワー・アル・ジャウィヤーを率いているバシム・カーシム氏をクラブとの兼任という形で招聘し、今は急場を乗り切ろうとしている状況だ。

なお今月に入って2つの親善試合を行っており、ヨルダンには1-0と勝利、韓国には0-0とスコアレスドローに終わっている。

ただ、韓国はキ・ソンヨンをリベロに置く3バックという奇策があまり機能していなかったため、その点は割り引いて考える必要はあるだろう。

そういう点で言えば、逆にイラクもこの試合でカードを見せてくれてはいない。アリ・アドナンも起用されていないため、おそらく日本戦では違うチームになってくるはずだ。

イラクの強みは?

監督がバシム・カーシムに変わったことで大きな違いが出ているかというと、そんなことはない。システムが多少2ボランチに近づいている感はあるが、それもシュナイシル体制で見られた形だ。

唯一あるとすれば、「イラクのメッシ」ことフマム・ターリクが再び使われるようになったくらいだろうか?ただそれもジャスティン・メラムの離脱が大きな理由であるはずだ。

とはいえ、これまでと大きく違う点が戦術面以外で一つある。左サイドバックから攻撃を組み立ててきたドゥルガーム・イスマイールが不在であることだ。

イラクの攻撃の強みはサイドであり、特にドゥルガーム・イスマイールとアリ・アドナンで組まれる左は強烈だった。

しかし今回はそれが片方欠けている。サイドバックにバハジャートが入るか、アリ・アドナンが一枚下がってウイングにフマム・ターリクか。どちらにしても攻撃力がやや下がる。韓国戦でも最初はあまり前で守備を仕掛けなかった。

これが日本戦に向けての準備だとすれば、まずディフェンスから入ってくる可能性は高いのではないか?とも推測できる。

さてそうなったら怖いのは何か?

右サイドに入るであろう「イラクのクリスティアーノ・ロナウド」ことアハマド・ヤーシーンのドリブル突破、そしてアリ・アドナンの強烈フリーキックはもはやお馴染みである。

しかし、今回は少し編集部Kの「自分がイラクの監督なら…」という点で一つ予想込みで考えてみたい。

筆者ならば、今回招集されたFWアイマン・フサインを切り札として使っていくだろう。彼は190cm近い身長を持つストライカーで、父親がアルカーイダに殺されたというエピソードでも有名。空中戦に強く、日本があまり得意としていない相手である。

前半はムハンナド・アブドゥルラヒームやバシャール・ラサン、アラー・アブドゥルザフラのスピードでカウンターを見せておき、後半はアイマン・フサインで蹴る!蹴る!とにかく蹴る!

ユース年代での戦いを考えれば、日本は常にイラクの長身ストライカーに悩まされてきた。そういった歴史をバシム・カーシムは知っているだろう。

そんな展開になるのではないか?と予想し、吉田麻也と昌子源のコンビがどこまでイラクの前線を抑えられるかという点に注目してみたいところだ。

注目選手は?

DF:アリ・アドナン

今回は左のパートナーであるドゥルガームがいないとはいえ、やはりイラクで最も注目される選手はアリ・アドナンだろう。イラクを見ていなくても語れるくらいだ。

「イラクのギャレス・ベイル」とも呼ばれた彼は、長身でパワフル、スピードも豊か、そして何より強烈な左足が武器だ。サイドバックが本職だが、代表ではウイングをよく務める。セットプレーになれば、彼のキックが火を吹く。

GK:ムハンマド・カーシド

正GKを務めていたムハンマド・ハミードが不在となった今回、おそらくゴールマウスを守ることになるのは往年の守護神ムハンマド・カーシドだ。

2007年アジアカップ優勝、2009年コンフェデレーションズカップを経験した30歳のショットストッパーは、とにかく鋭い反射神経が武器。その反面やや不安定な部分もあり、それを日本は利用したいところ。

MF:サード・アブドゥラミール

「イラクのメッシ」ことフマム・ターリク、あるいは「イラクのクリスティアーノ・ロナウド」アハマド・ヤーシーンにしようかと思ったが、3人目はイラクで一番面倒くさい相手と言えるサード・アブドゥラミールを選んでみた。

かつてはトップ下だったが、今やイラクに欠かせない守備的MF。中盤の底で守備をしつつ、前線にボールを供給してくる。乗っている時のイラクは彼が機能している時だ。プレッシャーで追い込んでいきたい。