増田俊樹といえば、声優としてのイメージが強いだろうが、デビューは2.5次元舞台の走りともいわれる、ミュージカル『テニスの王子様』。役者デビュー後、自身の夢であった声優デビューを果たし、これまで、声優としてのキャリアを積んできた。そんな彼が、“逆2.5次元プロジェクト”を謳う「錆色のアーマ」で、久しぶりの舞台でW主演を果たす。長い役者人生を見据え、彼が今、ふたたび舞台に立つのには理由があるという。27歳、“ようわからん時期”を突き進む、増田の胸中を聞いた。

撮影/後藤倫人 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
企画/ライブドアニュース編集部

『テニミュ』の経験があったから、思えたこと

舞台版からスタートする、前代未聞の“逆2.5次元プロジェクト”として展開される「錆色のアーマ」の舞台が6月8日からはじまります。増田さんにとって、久しぶりの舞台出演になりますね。
僕のなかで、「舞台に出演しない」と決めていたわけではなく、ただ、いろんなことを同時にやってしまうと、お仕事の可能性が広がる半面、突きつめることが難しくなってくると思うんです。だからこそ、ここ5、6年くらいは声優としての仕事をメインにして、経験を積むことに専念していました。
そこから、今回の「錆色のアーマ」への出演を決めた理由とは?
ありがたいことに、徐々に声優として認知していただきはじめたので、今後の長い役者人生のためにも、また舞台にも出演して自分の技術向上を目指したいなと思っていました。そんなときに、主催のネルケプランニングさんから「錆色のアーマ」のお話をいただいたんです。声のお仕事をやってきたからこその引き出しだけではなく、舞台を通して学ぶ技術を自分にストックできるはずだと思って出演を決めました。
今後活躍していくためにも、舞台に出演して、新たな技術を身につけたいと。
僕はデビューがミュージカル『テニスの王子様』だったこともあって、経験はゼロではなかったので、舞台に立てるだけの何かを持っている可能性はあるなと。だったら、ほかの声優さんがあまり経験できないようなことをやって、自分なりの強みを見つけていけたらと思ったんです。
そう思うと、ミュージカル『テニスの王子様』に出演されていたことはすごく強みになっているのでは?
そうですね。『テニミュ』の経験があったからこそ、今回お声をかけていただいたとも思っています。僕が『テニミュ』に出演していたのは10代の頃なので…もうあれから8年くらい経っているんですよね。僕、「錆色のアーマ」に出演が決まってから、改めて『テニミュ』のことをよく思い返すんです。
たとえば、どういうことを?
『テニミュ』ってどういうものだったかな? って。このあいだ、雑誌『Tarzan』(マガジンハウス)を買ったんですけど……あ、お腹を割りたいなと思って(笑)。パラパラ見ていたら、青柳塁斗くん(初代・向日岳人役)が筋肉ムキムキボディを披露している写真が載っていて。塁斗とは同い年で、別の舞台で共演したことがあるんです。時期は違うんですけど、彼も『テニミュ』に出ていたので、彼の姿を見て思い出したり。
なるほど。『テニミュ』に出演していたキャストさんの姿を見たときなどに。
あと、ここ1年くらいで、声優の現場で『テニミュ』で活躍していた方と共演することも多くて。大河元気さん(初代・切原赤也役)や、代は違うけれど豊永利行さん(初代・加藤勝郎役)、加藤和樹さん(初代・跡部景吾役)とも触れ合うことが多くなって、声優が声優だけの仕事をするっていう時代ではないのかも、と思うようになってきたんですよね。僕は声優を大きな要としてやってきましたが、やっぱり“舞台もできるような人間になりたい”というのは痛感しましたし、それは『テニミュ』があったからこそ思えたなと感じます。

普段のときから、孫一と織田信長の関係性を表現できたら

「錆色のアーマ」は、戦乱の世を舞台に、天下統一を夢見る男たちの姿が描かれる、史実をもとにしたオリジナルストーリーです。本作で増田さんが演じるのは、歴史において知らない人はいない、織田信長。今作での織田信長はどういったキャラクターなのでしょう?
織田信長は史実においても、我が強くてワンマンさが目立っていたりすると思うんですけど、なんでそんなに我が強くてワンマンなのかというところは、史実とはまた違った描かれ方をされています。
今作で、一番の見どころを挙げるとするならばどこですか?
んー、やっぱり「アーマ」といわれる彼らの武器を用いたアクションは、ほかの作品では見られないものになるんじゃないかと思います。信長は刀なんですけど、殺陣も「錆色のアーマ」だからこその表現になるのかなと。
殺陣やアクションへの自信は?
ないですよ〜。それこそ、『テニミュ』でもなかなか動かないキャラクターだったので(笑)。
そうなると、本格的に殺陣も稽古されることになるんですね。
個人で殺陣の稽古も入れてもらっているので、どこまでできるのか…ちょっと怖い部分でもあります。
殺陣に限らず、今作の稽古をされるうえで増田さんが大事にしたいと思っていることはなんですか?
佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)くんが演じる孫一(まごいち)との距離感ですかね。信長と孫一は立ち位置としては相反するところにいるので、稽古のときから、佐藤くんとの距離感は大事にしていきたいと思っています。
舞台の上だけでなく、普段のときからも?
はい。僕は器用なタイプではないので、稽古やプライベートですごく仲良くしていたのに、急にステージの上では敵対する…という部分に、気持ちの切り替えが追いつかなくなる可能性があるかもと思って。普段から作中のキャラクター同士の関係性が築けていれば、舞台上で関係性がより表現できるんじゃないかと思うんですよね。
増田さんから見て、佐藤さんはどんな方ですか?
ビジュアル撮影のときが初対面だったんですけど、EXILEさんということもあって、会う前は、男が憧れる男! みたいなイメージを持っていました。「あー、僕もあんな感じで海に行けたらよかったなぁ」って思うような(笑)。
そういったイメージから、実際お会いしてみてどうでしたか?
すごく柔らかい感じでした。でも、自分のなかで大切にしているものに対してはすごく強いこだわりを持っていて。「これだけは絶対に負けない!」みたいな信念の強さを感じます。パフォーマーだけにとどまらず、いろんな映画や舞台を見て、自分に取り込もうとしている姿は本当にスゴいなと思います。

個性を再解放して、新たな自分を開拓する!

声優のお仕事が本当にお忙しいなかで、役者としてのステップアップで舞台に出演される…。増田さんがそこまで、芝居にストイックになれる理由はなんなのでしょうか?
そもそも、僕は全然ストイックなんかじゃないですよ(笑)。本当に自分の好きなことばっかりやっていますし。ただ、「真面目だね」や「ストイックだね」はよく言われるんです。でも、自分ではどこがストイックなのか、わからないんですよね。
なるほど…。
だから、役者としての評価はまだまだ。声優としても毛が生えた程度だなと思っています。……なんというか、人生において考えると、今の27歳くらいの年齢ってようわからん時期だなーと思いますね。
ようわからん時期…?
仕事もそれなりのキャリアを積んできて、大人としてもいろんなことを学んできたけど、それだけじゃつまらなくなってきて、一度、殻をやぶって初心に戻りたくなるんです。めんどくさいところに行きたくなるというか(笑)。温かくて、守られた殻のなかにいたほうが楽なんですけど、それだけじゃ自分の個性が埋もれていく気がして、「個性を出せるうちに出そう!」って思える時期。
新たな自分を開拓していくというか。
はい。だからこそ「錆色のアーマ」も、舞台の経験はあるけれど、新しいことに挑戦する気持ちでやっていきます。そこから、今後の自分が役者としてどうなっていくのかは、自分でもまだ予想がつかないですね。
今後も、役者としての仕事は続けていきたいんですよね?
もちろんです。…まぁ、もう逃げ出せませんから(笑)。
でも、継続することが一番難しいことだと思いますが…?
それはもちろんですけど…。僕は、役者を続けるって、高みへ上り続けるような半面、崖を転がり落ちているようなものだと思うんですよね。
…というと?
役者って、とても限られた仕事の仕方だなと思うんですよ。芸術のなかでも、芝居に特化した仕事しかしていない…だからこそ、今からビジネスをしてくれと言われても、そういうノウハウやマナーがまったくないので無理。…できるかもしれないけれど、大変だと思います。そういう意味では、芝居をし続けるという崖を転がり続けるしかない。それが、果たしてどこまで転がっていけるかだと思いますね。
では、改めて本作への意気込みをお聞かせください。
デビュー時から応援してくださっている方にとっては、久しぶりに舞台に立つ増田俊樹を見ていただけると思いますし、7年間での変化を感じられると思います。声優から応援してくださっている方にとっては、今まで見せられなかった僕の部分を新たに見ていただけると思っています。舞台が好きな方にとっても、アニメが好きな方にとっても失礼のないように真摯に作品と向き合っていきますので、ぜひ楽しみにしていただければうれしいです。
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