●脚本家・古沢良太は「本当に天才」
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の"テレビ屋"は、フジテレビで数多くのヒットドラマを監督してきた武内英樹氏。コメディの演出に定評のある同氏だが、杏と長谷川博己の共演で多くの熱狂的なファンを持つ月9ドラマ『デート〜恋とはどんなものかしら〜』の続編について、「スタッフもキャストも、みんなやりたがっている」と強い意欲を見せた――。

――当連載に前回登場した福田雄一さんが、武内さんの名前を挙げて「演出の方針が好きで、笑いを真面目にやられていると思います」とおっしゃっていました。

そうですね。コメディは「まじめにやればやるほど面白い」と考えて撮ってます。映画『テルマエ・ロマエ』では、阿部寛さんに「笑わせに行かなくていい。本気で古代ローマ人になりきって、本気で驚いてもらえれば、客観的に見たら面白いから」と伝えました。変に小技を使って、テクニックで回そうとすると、笑いを狙っていることがお客さん見えちゃうんですよね。それがバレると面白くない。それに、エキセントリックでも本人にとってはまじめという面白さの方がすべらないんです。ドラマとか映画で笑いをやるのは、すごく難しいんですよね。

――お客さんが「今日は笑いに来た」というコンディションで見ていませんからね。

そうですそうです。「こうなってこうなってこうなったら面白いでしょ?」っていう作り方は、昔はよくあったんですけど、そのお作法はもう出尽くしちゃってるんですよね。だから、あえて狙わず、笑おうとしてない時に突然、横からポーンってカウンターパンチが飛んで来るような「ここで来るのか!」という"ひざカックン"があると、そこだけが面白いっていう風に際立ってくるんです。

――武内さんが演出を手がけられた作品だと、杏さんと長谷川博己さんが共演した『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(※1)が最高に面白くてファンなのですが、確かに泣けるシーンもあったりする中で、急におかしな展開が巻き起こるドラマでした。

国家公務員で計算式に則った生き方を信じている依子(杏)と、高等遊民という生き方を全うしている巧(長谷川)という完成されたキャラクターなので、それを思い切りまっすぐ走らせ、クロスさせていけば、勝手に笑いが起きてくるんです。古沢良太さんの脚本は本当にすごく計算されているので。

(※1)…2015年1〜3月放送。恋愛力ゼロの女と男が繰り広げるラブストーリー。
――「東京ドラマアウォード2015」で『デート』が連続ドラマ部門の優秀賞を受賞した際、代表で登壇された武内さんは「10年に一度あるかないかの脚本」とまで言ってましたが、どんな部分にそれを感じましたか?

キャラクターたちが風変わりなんだけど、それぞれに矜持があって、それが最終的にとても美しいんですよね。最初はものすごく"へんてこりん"な人だと思っていたのが、ものすごくキラキラ輝いた美しいものに見えてくるっていうギャップ。それと、前半からネタをいろいろ振って、見事に最後は回収されて、それが腑に落ちて、その落ち方が感動できるっていうところかな。

――『デート』で言うと、クライマックスで互いに相手の性格を罵倒しながら、結局プロポーズしていたというシーンは、本当に伏線をワーッと回収したなぁという印象でした。

実はあのシーン、すごい大変だったんですよ(笑)。お互い違う人と付き合い始めちゃったのに、最後の1時間でどうやって回収するんだって(笑)。最終話1つ前の9話くらいまではわりと順調に脚本ができたんだけど、やっぱり風呂敷を広げすぎたんで、最後どうやってまとめようかというときに、プロデューサーと古沢さんと僕で、ああでもこうでもないと言って、パズルがうまくハマらなかったんですよ。それが、最後にうまくピースがはめ込まれ、全ての伏線が回収されて、相手のことを罵倒しながらほめるっていうアイデアが出たんです。あれは目からウロコでしたね。

――どんな形でアイデアが出てきたんですか?

水道橋のデニーズで打ち合わせしたんですけど、古沢さんは普段からあまりしゃべらない人で、急に立ち上がっては考え込みながら、満員のデニーズ中をウロウロし始めるんですよ。周りのお客さんから見ると、どう見ても不思議な人(笑)。壁に頭をカーンってぶつけたりして。そうしていると突然何かが降りてきたかのようにワーッと書き始めるんです。福山雅治さんが演じた『ガリレオ』みたいに、本当に天才ですよ。古沢さんをドラマで描いても面白いなと思うくらい、そういう"神がかった"瞬間を見ましたね。

●最初は『のだめ』の面白さが分からなかった
――ところで、『デート』は中国でリメイクされましたよね。オリジナル版のスタッフから見て、作品の印象はいかがでしたか?

先日上海に行って、公開記念のイベントに行ってきました。監修として、セットの考え方や撮影方法、キャラクターの説明などを行っていますが、向こうのスタッフがこの作品をすごくリスペクトしてくれて、完成品を見たら、ファッションからセリフから演出も音楽も、ほぼほぼ日本版と同じでした(笑)

―――恋愛をしない日本の若者が増えているという社会的な背景もある作品ですが、それは中国でも事情は一緒なのですか?

当てはまるらしいです。しかも、日本よりも中国の方が経済の格差は大きくて、それが地域によって表れているんです。中国版は、男が高等遊民なのは同じで、女の子がIT企業に勤めるエリートOLなんですが、お互いが上海の中心地を隔てる川をはさんだ地域に住んでいて、その格差の対比がとても分かりやすく描かれていたのが印象的でした。

――中国でリメイクされたと聞くと、まだ依子と巧は結婚に至っていないわけですし、ファンとしては続編に期待したいのですが…。

僕も大好きな作品で、結構ファンの目線で見ているので、ぜひやりたいです(笑)。スタッフもキャストも、みんなやりたがっているので、そういう機運が盛り上がってくるといいですね。実は『デート』は一生できる作品だと思っていて、子供が生まれて、教育費を払う払わないだ、私立に入れるだ公立に入れるだとか、何の習い事をさせるんだとか、結婚してもその後の子育てで、2人が価値観の違いでモメることってあるじゃないですか。

――『渡る世間は鬼ばかり』ばりにシリーズ化できますよね!

そうなんですよ! このドラマは、ライフワークにできると思っています(笑)

――キャストの皆さんの中では、特にHey! Say! JUMPの中島裕翔さんが、『デート』以来、著しい成長を遂げていますが、最初に起用する時は「賭け」だったと聞きました。

恋敵役の長谷川博己くんが当時38歳で、対等に渡り合うライバルの中島くんが23歳っていうのは成立するのかという不安があったんですけど、彼の前に出た作品などを見て、ものすごくピュアな部分が、演じてくれた鷲尾のキャラクターにすごくハマるなと思って起用したんです。それでやってみたら、思っていた以上にまっすぐさが出て、この人にして良かったなと思いました。やる気も人一倍あって、古沢さんの脚本は、1シーンで20何ページにもわたることがあるんですけど、そんな時も完璧にセリフが入っているし、お芝居に臨む姿勢や、パフォーマンスも素晴らしい。僕のコメディの質にはものすごく合うなと思ったので、今後他の作品でも一緒に仕事したいですね。

――『のだめカンタービレ』(※2)も楽しませていただきました。漫画作品の映像化は、原作ファンが納得するケースが難しいですが、この作品は成功例だったと思います。

ヒットした漫画は原作ファンの皆さんがすごくこだわりを持って見るので、それを絶対に裏切っちゃいけないなと思って撮りました。実は、この漫画の面白さを、音楽家の世界を全然知らなかったこともあって、最初は全然分からなかったんですよ(笑)。『電車男』のスペシャルをタヒチで撮影してたら、プロデューサーに「こういうのやりたいんですよ」って、プールサイドでコミックを渡されて読んでみたんですが、音大生のヒロインがイケメンに殴られ蹴られ…こんなの月9でやったら成立しないじゃないかって思ったんです。

(※2)…連続ドラマは2006年10〜12月放送。上野樹里演じる音大生・のだめが、玉木宏演じる先輩・千秋に才能を見出され、恋模様を繰り広げる。
――そこからどうやって成立させたんですか?

自分には面白さが分からないから、現役や卒業した音大生に集まってもらって、品川の居酒屋で6人くらいと飲んだんです。そうしたら、『のだめ』の世界はリアルな音大生の生態に近いということが分かってきて、だんだん知りだすと面白さが分かってきて、気持ちが乗れるようになってきました。僕がその世界を知らないように、ほとんどの視聴者も知らないわけですから、やっぱりこの作品にはリアルさがあるということを分かってもらえるように注意しながら撮らないといけないんです。だから、やっぱり取材が大事ですね。

――原作モノほど、取材は大事になってくるのでしょうか。

そうですね。『神様、もう少しだけ』(※3)というドラマを撮ったときは、毎日池袋や渋谷に行って、女子高生に何考えてるんだとか、お小遣いはいくらなんだとか、カバンの中にはどんなものが入っているのかとか聞いていましたから(笑)。会社に怒られましたけど、「こんなに難しい題材をやるのに、リアルな女子高生たちを知らないままでは撮れない。ある意味ドキュメンタリーじゃないと成立しませんよ!」と上司に本気でキレました(笑)。

『電車男』(※4)のときも、秋葉原へ毎日のように通って、オタクの人たちの話をメイド喫茶で聞いてました。最初は向こうも構えていて壁があったんですけど、自分も中学生の時に『宇宙戦艦ヤマト』が好きでめちゃくちゃハマっていたという話をしたら、だんだん和んできて。そうしたら「この人たちは、実はとても純粋でピュアな心を持った人たちで、僕が『ヤマト』が好きだった中2で時が止まっちゃった、ある意味ピーターパンだな」と思えて、だんだん愛おしくなってきちゃって。そういう感じを伊藤淳史くんに表現させられたらいいなとイメージしていったんです。

やっぱり、ドラマを作る時に、オタクはオタクなり、音楽家は音楽家なりの矜持の美しさを描いていこうというのは心がけようと思っていて、全くその世界を知らない人たちが「実は偏見の目で見ていたけど、この人たちにはこんな矜持があって、すばらしい」と思うことが、あらゆるジャンルで出てくると、日本にとってもいいことかなって思ったりもしています。

(※3)…1998年7〜9月放送。深田恭子演じるHIVに感染した女子高生と、金城武演じる音楽プロデューサーのラブストーリー。
(※4)…連続ドラマは2005年7〜9月放送。伊藤淳史演じるオタクがネット住民の応援を受けながら、伊東美咲演じるエルメスへの恋に奮闘する。

●若い人たちに向けて作っていかないと
――昨今はさまざまなメディアが登場する中で、連続ドラマを取り巻く環境も厳しいと言われていますが、そんな中で、武内さんは今後のテレビドラマのあるべき姿をどう考えていますか?

うちの局は常に若い人たちに向けて作っていくっていう姿勢を貫いているんですけど、現状では若い人が地上波をリアルタイムで見ないという傾向がどんどん強くなってきていて、さらに、人口比率は僕らの世代が一番多いので、その人たちが見るような作品の方が当然数字は取れる。だけど、月9も配信の再生数がすごくいいということもあるし、それを求めている若い人たちは絶対存在しているんですよね。その人たちのためのドラマが減っているので、いわゆる月9的な恋愛映画がヒットするという変な状況が生まれていると思うんです。

僕は今、映画とドラマをやっているので、両方を俯瞰(ふかん)して見ると、そこにお客がいるんだということはハッキリ分かってるし、わざわざお金を払って映画を見ている若い人たちに、誰かがドラマを作っていかないと、かわいそうですよね。だから面白いと思えるものを、自信を持って、ある意味数字はそんなに気にしないで作っていくことが大事だと思います。

――恋愛モノといえば、武内さんはバラエティ番組『痛快TVスカとジャパン』の「胸キュンスカッと」の再現ドラマも撮られたんですよね。

常に新しいことをやっていきたいと思っていて、月9を撮っていても、ああいうベタな演出がなくなってきているんで、ド正面から恋愛ドラマに向き合ってみたいなと思って撮らせてもらいました。入社以来ずっとドラマ制作で、もともとバラエティ志望だったということもあって、外の空気も吸ってみたいなという気持ちもありつつ、単純に言えば好奇心ですね。

――「数字はそんなに気にしないで」とおっしゃられましたが、『デート』は一定の成果をあげました。

やっぱり、『デート』で1つの方向性を示せたのかなと思っています。あの作品の良いところは、一見若い人たち向けに作られているようで、実は間口を広げようと思って、ザ・ピーナッツの「ふりむかないで」(1962年)をオープニング曲に使ったりしてるんです。テーマ的にもすごく普遍的で、むしろ年を取った人たちに対して、いろんな結婚観があっていいんじゃいかということを、なんとなく伝えられたんじゃないかなと思っています。

――他局で恐縮ですが、『逃げ恥』(2016年、TBS)もそうした要素があったように思えます。

幅広い層が見られるような作りができていましたよね。そういう意味ではデートと似ているニュアンスはあったと思うんですけど、うちでももっとそうした作品をやったらいいのにと個人的には思っているので、そういう意味でも続編はやりたいなと思っています。

――これまでに武内さんが影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすると、何ですか?

助監督としてついていた『ひとつ屋根の下』(※5)ですね。あれも、柏木家がまじめに熱く生きていて、きょうだいのキャラクターもそれぞれ全然違っているから、そのズレが笑いになったり、最終的には熱い涙を誘うっていうところを学びましたね。永山耕三監督が演出した、全体のリズム感とか、テンポが良ければ良いほど笑えるんだっていうのを、現場で感じることができましたし、あそこまで熱く芝居をすると、感情がグッと鷲づかみにされるんだという経験。その全体のバランスがずっと頭に刷り込まれて、『ひとつ屋根の下2』では、セカンドディレクターでやらせてもらい、結果も出て、こういう風にお客さんは面白がってくれるんだということを肌で感じることができたのが、身になってますね。

(※5)…パート1は1993年4〜6月、パート2は1997年4月〜6月放送。江口洋介演じる柏木達也(あんちゃん)らきょうだいたちが繰り広げるホームドラマ。その他、福山雅治、酒井法子、いしだ壱成、大路恵美、山本耕史らが出演。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、武内さんの気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…。

テレビ朝日さんの『池上彰のニュースそうだったのか!!』がすごく好きなんです。タブーとされているような宗教的・民族的なテーマも取り上げて、結構ギリギリのところまで攻めてる感じが良いなと思っているので、そこに踏み込んでいくバランス感覚のスタンスを聞いてみたいですね。

(中島優)