自宅を相続し年収は1200万円。それでも万年赤字なのは、毎月18万円超の食費など「払って当然」の“湯水”家計だから。どこから見直すか。

■食費18万、教育費16万、スマホ5万……湯水のように使う

●家族構成(5人家族)
会社役員のSさん(49)/妻47歳/長男(高3)、次男(高2)、3男(中3)
●手取り収入(月)
45万3000円(夫)、33万4000円(親から相続した不動産の家賃収入)計78万7000円
●ボーナス 夏冬それぞれ120万円
●貯蓄 320万円

「来春、ふたりの息子が進学するのですが、貯金があまりなくて……」と相談に来たのは、会社役員のSさん(49)と奥さん(47)。

月収にすると80万円弱もあるのですが(ボーナスを含めると年収は1200万円)、貯蓄は300万円ほどしかありません。

「家計簿はパソコンソフトできっちりつけているのですが、さっぱりたまらなくて。何に対しても払える限りは払う生活をしてきたので、そのせいだと思ってはいますが、何とかならないでしょうか」とSさんは話します。

Sさんのお子さんは高校3年生、高校2年生、中学3年生の息子さん3人です。全員が現在も私立学校に通っており、長男と3男は来春に受験の予定。それぞれ私立の学校への進学を希望しています。

「毎年、赤字というわけではないのですよ。年末には少し口座の残高が増えていますし」と言うSさん。家計簿をきっちりつけている割には、把握の仕方が大雑把なようです。

家計の現状を知るため毎月の支出状況を聞くと、「いくらくらいだったかな。年間の金額を12で割ると1カ月分の金額が出ますよね……」という感じで、月の支出を明確にわかっていません。家計表を作るには、1年分の支出額からイレギュラー支出を除き、12カ月で割って1カ月分に金額を出すというちょっとおかしな作業をしなくてはいけませんでした。

家計表を作ってみると、毎月の収支は赤字でした。

月によって波があるので毎月ではないかもしれませんが、毎月の支出の平均を出して1カ月の収支が赤字ということは、ボーナスで支出を補てんしているということになります。そして、そのボーナスは夏冬それぞれ手取り120万円ほどになるようですが、あまり残っていないので家計簿に反映されていない支出もかなりあるのだろうと推測できます。

■「住居費0円」なのに毎月81万円支出は「当たり前」

毎月の支出をみると、相続したマンションに住み、住宅ローンもない(管理費と駐車場代しかかからない)にもかかわらず、全体的にかなりの額になっていました(月81万円)。

食費は食材にとにかくこだわり、価格が高めの高級スーパーでの買い物が多く、非常にお金をかけています。教育費は息子3人を私立に通わせている関係で高額になってしまうのはしかたないにしろ、携帯電話は家族5人全員が大手キャリアのスマホで、月の使用料がかなり高額です。生命保険は18年以上見直していませんでした。洋服代も「買っていないつもりだった」そうですが、実際には、使い過ぎの状況が浮き彫りになりました。自動車は個人リースが流行った時にリース契約をしていて、解約すると損をする状況だということで毎月5万円近くも出費していました。

なんだかんだとSさんのご家庭のこだわりが強く表れた「メタボ支出」になっていました。

■「コンビニ買い食い禁止」「スマホ解約」「家計簿は手書きに」

こういった現状が分かったのですから、特に食費や通信費、生命保険料、洋服代などは支出をコントロールしたり契約を見直したりして支出を減らしていこうという気持ちになるかと思われましたが、簡単にはいきませんでした。

奥さんがお金をかけて当たり前の生活に慣れ、支出を下げる行動に変えていくことが難しかったのです。とりあえず、奥さんにも支出を下げることに関心を持ってもらおうと、今までパソコンでSさんが記録していた家計簿を手書きに変え、奥さんにも支出の記録にだけは参加してもらうことにしました。

なかなか変われない奥さんをサポートすべく、Sさんは頑張りました。

自分が昼食以外にコンビニで、チキン(からあげ)やポテト、お菓子などの買い食いを日常的にして食費を高くしてしまうことを自覚し、コンビニ通いをやめました。ほかにも、小さな事ですが、トイレのウォシュレットのコンセントを抜き、厚手の便座カバーをかけました。家族が集まる部屋の電気をLEDに変え、節水シャワーヘッドも使ってみました。

妻と子どものスマホは家電量販店で格安なものに変え、以前、加入した生命保険はいわゆる「お宝保険」ではなかったので、現状に合った保障内容のものに一部変更しました。

できれば支出の割合が大きい自動車も見直したかったのですが、リース契約がまだ2年弱残っており、解約によるマイナスがかなり大きくなるので、契約満了まで現状維持することにしました。少し元手はかかりましたが、支出削減にはつながりました。

このように「手書き」で記録をしながら、毎月の支出を把握していくと、月の収入で暮らすことができていないことを実感できますし、行動を変えるヒントも得られます。奥さんもSさんの頑張りを見て、食費を下げるために高級スーパー通いを控えるようにしました。また洋服代をかけないように気をつけ、2紙取っている新聞のうち1紙は解約するなど、少しずつ支出削減に向けた行動がとれるようになってきました。

奥さんが少しずつ変わると、毎月の支出も「見直し後」の額で落ち着くようになり、次第に安定しました。月ベースで家計をチェックできると、1年間の支出の波がつかめますし、節約のしどころもわかります。

Sさんのご家庭は、毎月14万円ほどの支出が削減できたので、赤字分を差し引くと毎月11万円以上の余剰金(黒字)が出せる家計に変えることができました。まだまだ節約を努力すべきところはありますが、まずまずといったところです。

月の収入の中で赤字を出すことなく生活ができるとボーナスの減り具合も緩やかになり、半分ほどを貯蓄に回せたとすると、今のペースでいけば1年で250万円ほど貯蓄が見込めます。そうなると学費も何とか支払っていけそうです。

■食費は、月18万から10万へ大幅コストダウン成功

【家計費コストカット額ランキング】

1位:食費 −8万1000円
高級スーパーなどでの買い物や夫の毎日の買い食いが食費アップの原因。妻が管理の中心になることで、支出はダウン。
2位:通信費 −2万4000円
夫以外の家族4人はスマホを格安SIMに変更。
3位:被服費 −1万2000円
購入していないつもりでいて、案外、服を買っていたことに気が付き、購入の仕方をよく吟味するようになった。
4位:生命保険料 −1万円
結婚当時に加入したままになっている保険ばかりだったので、見直した。
5位:水道光熱費 −7000円
ウォシュレットの電源をつけない、LEDの利用、節水グッズの利用などによって支出ダウン。
6位:その他(新聞、NHKなど) −5000円
新聞は2紙取っていたが、ほとんど読んでいなかった1紙を解約した。

* なお、「現状維持」にした項目は(額の大きい順に)……。
「教育費」(16万3000円):息子3人が通う私立校の学費
「交通費」(6万1000円):3人の子どもの通学定期代など
「自動車関連」(4万8000円):自動車の個人リース代。今手放すと損失が大きいため、期間満了まで保有予定
「住居費」(3万8000円):相続で引き継いだ夫の実家マンションに住んでいるので、管理費と駐車場代のみの負担

家計の管理法には様々なものがあります。最近は、手書き以外にも自動で支出の記録ができるシステムが増えましたが、それでも支出の把握ができていないご家庭が増えていると感じます。

家計を毎月ではなく、「1年管理」をする人も多いのですが、くくりが大きいと「浪費」が見えづらくなり、節約のポイントも探しづらくなります。ちょっとでもまずいと思うことがあったら1カ月管理に変えてみて、自分の節約すべきポイントを見つけてください。必ず見つかると思います。

(家計再生コンサルタント、マイエフピー代表取締役、ファイナンシャルプランナー 横山 光昭)