デイヴィッド・ロックフェラーという名前を聞いてピンときた人は、「陰謀論」について詳しいのではないでしょうか。というのも、「ロックフェラー氏は、世界を政治的、経済的に統合して世界統一政府を樹立しようとしている!」というのが陰謀論者の間では定説らしいのです。そのロックフェラー氏の死によって、世界はどう変わるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で、世界情勢に詳しい北野幸伯さんが大胆に推察しています。

デイヴィッド・ロックフェラーの死

ご存知の方も多いと思いますが、デイヴィッド・ロックフェラーさんが3月20日、亡くなられたそうです。

デービッド・ロックフェラー氏が死去 101歳

産経新聞 3/21(火)1:08配信

 

米国の富豪ロックフェラー家の三代目当主で銀行家のデービッド・ロックフェラー氏が20日、米ニューヨークの自宅で死去した。101歳だった。死因は心不全。ロイター通信などが伝えた。

デイヴィッド・ロックフェラーさんというと、「陰謀論」の主人公ですね。

陰謀論にもいろいろありますが。秘密結社でいえばフリーメーソン、イルミナティ。一族でいえば、ロスチャイルド、ロックフェラー。しかし、ロスチャイルドの場合、あまり「具体名」は出てきません。漠然と「ロスチャイルド【家】が世界を支配している」などと言います。

一方、ロックフェラーの方は具体名が出てきます。そう、デイヴィッド・ロックフェラーが、「世界皇帝」である! と。

デイヴィッド・ロックフェラーの経歴

デイヴィッド・ロックフェラーさん、どんな経歴なのでしょうか?

1915年6月12日生まれ。おじいさんは、スタンダード・オイル創業者で、「石油王」「世界一の金持ち」と言われたジョン・ロックフェラー。父親は、ジョン・ロックフェラー2世。デイヴィッドさんは、5男1女の末っ子でした。

1936年、ハーバード大学卒業。その後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号を取得。さらに、シカゴ大学で経済学博士号を取得。

1946年、チェース・ナショナル銀行に就職。1969年〜1981年、チェース・マンハッタン銀行・最高経営責任者(チェース・マンハッタン銀行は1955年、バンク・オブ・マンハッタンとチェース・ナショナル銀行が合併して誕生した。現在は、JPモルガン・チェース銀行)。

デイヴィッド・ロックフェラーは、銀行マンだった時代、世界中に人脈を構築していきました。また、世界の政治に深く関わってきた。たとえば、アメリカでもっとも影響力があるといわれるシンクタンク「外交問題評議会」。1949年、史上最年少34歳で、理事に選出された。1970年〜1985年、議長。その後、名誉会長。

1973年、ブレジンスキーと共に「三極委員会」を創った。世界の超エリートが年に一回集結する「ビルダーバーグ会議」に初回(1954年)から参加していた。これらは、全然秘密でも陰謀論でもなく、デイヴィッド・ロックフェラー自身が『ロックフェラー回顧録』で書いていることです。

もちろん、自分で自分の本を書けば、「美しく書く」に決まっていますが、知らない事実が後から後から出てきて、とても面白いです。是非ともご一読下さい。

本当に興味深い本ですが、もっとも面白いのは、彼が「陰謀論者」への「反論」を書いている部分でしょう。引用してみます。

なかには、わたしたちがアメリカの国益に反する秘密結社に属していると信じる者さえいる。そういう手合いの説明によると、一族とわたしは「国際主義者」であり、世界中の仲間たちとともに、より統合的でグローバルな政治経済構造を、言うなれば、ひとつの世界を構築しようとたくらんでいるという。もし、それが罪であるならば、わたしは有罪であり、それを誇りに思う。

(『ロックフェラー回顧録』下巻)

デイヴィッド・ロックフェラーは、「『一つの世界』をつくろうとしてきたし、そのことを誇りに思っている」と。

ロックフェラー陰謀論は下火になる

デイヴィッド・ロックフェラーさんが亡くなった。それで、これからは、「ロックフェラー家が世界を支配している」というような陰謀論は無くなっていくでしょう。

デイヴィッドさんが亡くなった後、ロックフェラー家でもっとも力があるのは、ジェイ・ロックフェラー(=ジョン・ロックフェラー4世)です。彼は、ウェストバージニア州の上院議員。ジェイ・ロックフェラーは、デイヴィッド・ロックフェラーのお兄さん(長男)の子供。とても影響力のある人ですが、「世界皇帝」と呼ばれたデイヴィッドさんほどの力はありません。

そして、ロックフェラー家は、「子だくさん」で、どんどん増えている。ジョン・ロックフェラー1世には5人子供がいた。デイヴィッドさんのお父さんジョン・ロックフェラー2世には、6人子供がいた。デイヴィッドさんにも、6人子供がいる。ジェイさんには、4人子供がいる。

子だくさんは、めでたいことですが、別の言葉で「パワーの源泉」である「資産」が「分散していく」ということでもあります。そして、これだけ増えると、「ロックフェラー家が一体化して○○プロジェクトを行う」ということが、難しい。

デイヴィッド・ロックフェラーと共に終わるのは…

デイヴィッド・ロックフェラーは、「回顧録」でこう書いています。

21世紀には、孤立主義者の居場所は存在しない。わたしたちはみな、国際主義者となる必要がある。

(同上)

ところが、デイヴィッドさんが亡くなった時、アメリカ大統領は、「孤立主義者」のトランプさん。デイヴィッドさん、部下のキッシンジャーをトランプさんに派遣して、トランプ大統領を「承認した」という話があります。

ホントかどうかわかりません。ホントだったとしても、「国際主義者」「グローバリスト」の彼がトランプを承認するのは、本意ではなかったことでしょう。

デイヴィッドさんは、「一つの世界」を目指し、奔走してきた。しかし、その人生の終わりに、祖国アメリカは、「ナショナリズム」「孤立主義」「保護貿易主義」の大統領を選んだ。どんな気持ちだったのでしょうか?

101年生き、「世界皇帝」とも呼ばれたデイヴィッド・ロックフェラーさんが亡くなりました。「一つの時代が彼と共に終わった」と言えるかもしれません。

彼と共に終わったのは……、アメリカの時代……?

image by: Steven Bostock / Shutterstock.com

 

 

『ロシア政治経済ジャーナル』

著者/北野幸伯(記事一覧/メルマガ)

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出典元:まぐまぐニュース!