前編では、広告の内容を問わず“習慣的に”動画広告をスキップする視聴者が7割を超えているというデータをご紹介しましたが、その一方で、スキップされても一定程度のブランドリフト効果が見られたことも分かりました。
後編では、プレロール広告の効果をより高めるためのクリエイティブ面での工夫と、バンパー広告の活用について、4つのポイントとしてレポート内容をご紹介していきます。
ヒント1:ストーリーの中での商品訴求
広告における商品の訴求方法としては、商品そのものを直接的にフォーカスする形と、ストーリーの中に溶け込ませる形で商品を登場させる形に大別することができます。
この両者のクリエイティブの違いによる広告効果を比較したのが下のグラフです。
ブランドの純粋想起・助成想起ともに、商品にフォーカスした方(黒)が高い数値を残しました。その一方で、商品よりもストーリーに紐付けた形でブランドが記憶されていることが一番右のグラフで分かります。
そして、ストーリー訴求の方が、ブランド好意度やレコメンド意向の向上に寄与することも明らかとなりました。
以上のことから、長期的なブランディングという目的においては、ストーリーと絡めて商品を訴求する方が効果的であることがうかがえます。
ヒント2:ココロを大きく動かすクリエイティブ
動画は一般的に、人の感情を動かすクリエイティブの方が共感やシェアをされやすいと言われていますが、動画広告の効果としてさらに深掘りしたのが次のデータです。
まず、動画の中に生身の“人”が登場したほうがより感情移入しやすくなることは皆さんも感覚的に理解できると思います。しかし本調査では、登場人物の“数”はブランドリフトには影響しないことが分かりました。
それよりも重要なのが感情の“大きさ”のようです。
「面白い」「スゴイ」「悲しい」「カワイイ」など感情を大きく動かすようなエモーショナルなクリエイティブは、感情の起伏が少ないクリエイティブと比較して、ブランド想起率が有意に高くなったとのことです。
さらに「感動的だったか?」「情報が有益だったか?」「エンゲージしたか?」といった質問においてもエモーショナルな広告の方が高い数値を残しており、ポジティブな受け取られた方をしたことが分かりました。
淡々としたクリエイティブよりも、少し大袈裟なくらいドラマティックなストーリー展開の方が広告効果としても高い結果が期待できるのかもしれません。
ヒント3:ブランド要素の表示よりもストーリーの盛り上がり
前編でご紹介したとおり、多くの視聴者が習慣的にスキップボタンをクリックしているのであれば、スキップボタンの近くにブランドのロゴマークや商品名を置いたほうが目に入りやすいのではないかという仮説のもと、スキップボタンの近くにブランド要素を置いたクリエイティブと、そうでないクリエイティブを比較したものが以下の通りです。
広告非接触グループと比較すれば、ブランド純粋想起・助成想起いずれもリフト効果が見られましたが、両者の間に有意な差はありませんでした。つまり、ブランド要素の表示についてはマストではないと言えそうです。
それでは、ストーリー展開について見てみましょう。ブランド純粋想起率と助成想起について、ストーリーの盛り上がりを動画の前半に置いたもの(黄色)と後半に置いたもの(黒)を比較したところ、下図のように、話のクライマックスを早い段階に持ってきたほうが想起率が高くなりました。
視聴時間が経過するほどスキップ率や離脱率が高まることは避けられないため、できるだけ早い段階でストーリーを盛り上げ、視聴者の関心を引き付けることが重要であることが分かります。
ヒント4:スキップできない6秒動画広告と組み合わせる
最近、プレロール広告の中でも新しいフォーマットとして注目を集めているのが、YouTubeが提供するスキップ不可の6秒短尺動画広告「バンパー広告」です。本調査ではバンパー広告の効果についても述べられています。
まず、スキッパブルなプレロール広告とバンパー広告のブランドリフト効果を比較したのが下のグラフです。6秒という短尺にも関わらず、ブランド純粋想起、ブランド好意度、購入意向いずれにおいてもバンパー広告(ピンク)の方が非常に高い結果を残しました。
また、6秒という短い時間ではメッセージや情報を十分に伝えることが難しいため、YouTube上では通常のスキッパブル広告とバンパー広告を組み合わせたキャンペーンも展開されています。
その主なパターンが以下の通りです。本レポートではそれぞれの効果も比較しています。
- 15秒のスキッパブル広告+内容がほぼ同じ6秒広告
- 6秒広告+内容がほぼ同じ15秒のスキッパブル広告
- 15秒のスキッパブル広告+違う内容の6秒広
まず、スキッパブル広告と「ほぼ同じ内容」の6秒広告を配信した場合と、スキッパブル広告と6秒広告を「違う内容」にした場合の広告想起率を示したものが下図です。両者の間に有意差は見られず、いずれの場合も高いブランド想起率を残しています。
下のグラフは、スキッパブル広告の「前」に6秒広告を配信した場合(青)と、スキッパブル広告の「後」に6秒広告を配信した場合(ピンク)を比較したものですが、こちらもブランド想起率について大きな差は見られませんでした。
ただし、もともとその商品の購入を検討していた人のみを対象にしたデータを見ると、下図の通り、6秒広告をスキッパブル広告の前に配信した場合(青)よりも、後に配信した方(ピンク)がスキッパブル広告の効果が高まることが分かりました。
つまり、もともと関心を持っている人をターゲットとする場合、もしくは誰もが知っているようなナショナルブランドの場合、通常のスキッパブル広告を配信したあとで6秒広告をリマインダーのように活用することで、最初に配信したスキッパブル広告の効果を高める可能性があることが示されたと言えるでしょう。
最後に改めて、本調査から導き出された、プレロール広告の効果を高めるためのポイントをまとめておきます。
- ストーリーに絡めて商品を訴求することでブランドリフトを期待できる
- 感情を大きく動かすクリエイティブの方がポジティブな印象を残す
- スキップされる可能性を鑑み、ストーリーの盛り上がりを早めに作る
- スキップ不可の6秒広告をリマインダーとして活用する
クリエイティブに関するポイントについては、これまでもさまざまなレポートや事例で言われてきたことと重なる部分も多く、目新しさはないかもしれません。しかし、いざ動画広告を制作する際になると、企画趣旨や“伝えたいこと”を優先してしまい、意外と抜け落ちてしまう点だったりもします。今回改めて証明されたこれらのポイントに愚直に従ってみるのも新しいチャレンジとして面白いかもしれません。
一方、バンパー広告についてはその有効性について新しい発見がありました。しかし最近話題だからといって闇雲に取り入れても、期待した効果は得られないでしょう。その特性を十分に理解した上で、マーケティング目的を達成するための有効活用を心がけたいものです。