3月5日に行なわれる、びわ湖毎日マラソンの注目度が急上昇している。というのも、今夏に開催されるロンドン世界陸上選手権の「男子マラソン代表争い」が混迷しているからだ。

 男子の選考レースは4つあり、代表枠は最大3つ。各選考会で日本人1位の成績を収め、派遣設定記録(男子は2時間7分00秒)を突破すると代表内定となるが、3レースを終えた時点で内定者は出ていない。それどころか、ここまで3人いる「日本人トップ」の優劣をつけることすら難しい状況なのだ。


青学大の箱根3連覇に貢献した一色。びわ湖では「花の2区」の先輩と対決する 福岡国際マラソンは川内優輝(埼玉県庁)が日本人トップ(3位)で2時間9分11秒、別府大分毎日マラソンは中本健太郎(安川電機)が制して2時間9分32秒。東京マラソンは井上大仁(MHPS)が日本人トップ(8位)で2時間8分22秒、加えて山本浩之(コニカミノルタ)、設楽悠太(Honda)、服部勇馬(トヨタ自動車)の3人が2時間9分台でフィニッシュしている。

 東京で日本人2位に入った山本は、2時間9分12秒で中本のタイムを上回るが、福岡と別府大分は雨のレースで、東京は優勝したウィルソン・キプサング(ケニア)が日本の国内最高記録を大きく塗り替える2時間3分58秒をマークするなど条件的にはよかった。

 一方で、3人の日本人トップで最もタイムのよくなかった中本は唯一の優勝者だ。川内は優勝者と23秒差、井上はキプサングに4分24秒という大差をつけられている。マラソンは気象コンディション、一緒に走る相手、レース展開でタイムが大きく変わってくるため、記録順で選ぶわけにはいかない。

 東京マラソン後の記者会見では、「タイムだけみると、われわれも困ったなという状況になる」と日本陸連の瀬古利彦・長距離マラソン強化戦略プロジェクトリーダーも頭を悩ませていた。びわ湖に出場する選手たちは当然、他の選考レースの「タイム」を意識しており、それがメリットとなる場合もある。前年度のリオ五輪トライアルは東京が不発に終わったこともあり、びわ湖から2名の代表選手が誕生した。

 では、ロンドンへの「最終決戦」となる今回のびわ湖はどんな戦いになるのか。

 2時間4分52秒の自己ベストを持つエンデショー・ネゲセ(エチオピア)、2時間5分13秒のビンセント・キプルト(ケニア)が招待されているとはいえ、過去3年間の優勝タイムは2時間9分10秒(16年)、同8秒(15年)、同11秒(14年)と2時間9分10秒前後。ネゲセやキプルトが飛び出す可能性もあるが、大集団は2時間8分台のペースで進むとみていいだろう。

 日本勢ではリオ五輪代表の佐々木悟(旭化成)と石川末廣(Honda)が出場。ほかでは2時間8分台の記録を持つ松村康平(MHPS)、山本亮(SGHグループ)、堀端宏行(旭化成)が実績では上位だが、最も注目を集めているのは、箱根駅伝で3連覇を飾った青山学院大の絶対エース・一色恭志だ。

 昨年の東京で初マラソンに挑み、日本人3位となる2時間11分45秒で走破。今回のびわ湖が2度目のマラソンで、期待値は前回以上に高いだろう。本人は「学生記録の更新を狙っていく」と、藤原正和(中大/現・中大駅伝監督)が03年のびわ湖で樹立した2時間8分12秒の学生記録をターゲットにしている。

 一色は箱根駅伝の「花の2区」を、3年連続で1時間7分台の区間3位で走るなど、安定感が持ち味。藤原は直前の箱根駅伝2区を1時間7分31秒で走ったが、一色も昨年の2区で1時間7分35秒をマークしている(今年は1時間7分56秒)。箱根2区のタイムと、これまでの活躍などを考慮すると、2時間8分〜9分台は十分に狙えるはずだ。

 今回のびわ湖には、今年の箱根5区で区間賞を獲得した大塚祥平(駒大)もエントリーしているが、実はもうひとり一色や大塚以上に箱根路を沸かせた選手がマラソンデビューを飾る。それが、東海大出身の村澤明伸(日清食品グループ)だ。村澤は1年時から3年連続で2区に出走し、すべて区間3位以内でまとめている。2年時には区間歴代4位の1時間6分52秒で突っ走った。

 1万mの自己ベストは27分50秒59で、一色のタイム(28分23秒40)を大きく上回っている。社会人4年目の村澤は、大学時代の勢いこそないものの、ニューイヤー駅伝では3年連続で最長4区を担い、区間5位、4位、6位と好走。「外さない」という面では、一色以上のものがある。新旧の「箱根2区ヒーロー対決」はどちらに軍配が上がるのか。

 びわ湖を2時間8分台で日本人トップになれば日本代表は確実で、タイムが2時間7分台に突入すれば、日本人2位でも川内や中本との代表争いに勝利できる可能性は十分にある。2時間9分台に終わっても、代表争いは大混戦になるだろう。どう転んでも、代表争いの「困った状況」は変わらないが、少しでもハイレベルの選考になるように、びわ湖では好タイムを期待したい。

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