京都大学iPS細胞研究所(京大CiRA)は2月24日、脳にとって有害な物質が血中から脳内へ入るのを制限している「血液脳関門」のモデルをヒトiPS細胞から作製することに成功したと発表した。

同成果は、京大CiRA増殖分化機構研究部門 山水康平特定拠点助教、山下潤教授らの研究グループによるもので、2月23日付の米国科学誌「Stem Cell Reports」に掲載された。

血液脳関門は、脳に特異的な血管内皮細胞(脳血管内皮細胞)が、周皮細胞・ニューロン・アストロサイトに囲まれた構造をしており、 脳血管内皮細胞どうしが密着結合することで、分子が中枢神経系に拡散するのを制限するバリア機能を果たしている。また脳血管内皮細胞は、栄養分を効率的に血液から脳に取り込めるようになっているほか、毒素や病原体が脳に入るのを阻止する役割も持つ。一方で、そのバリア機能により中枢神経系疾患をターゲットとした治療候補薬までもが脳内に到達することが困難となっている。

これまでに動物由来の血液脳関門モデルは作製されていたが、ヒトの血液脳関門の特性や機能とは異なるため、同研究グループは今回、血液脳関門を構成する、血管内皮細胞・周皮細胞・ニューロン・アストロサイトという4種の細胞をヒトiPS細胞からそれぞれ分化誘導し、共培養した。

この結果、血管内皮細胞は、脳血管内皮細胞に特徴的な栄養輸送体や排泄輸送体を強く発現し、また互いに密着結合することで強いバリア機能を示した。この血管内皮細胞が脳血管内皮細胞の特性を獲得するためのメカニズムを調べたところ、ニューロンにおけるDll1遺伝子の発現によりNotchシグナル伝達系が活性化されることが必須であることがわかった。

さらに同研究グループは、iPS細胞から作製した脳血管内皮細胞を、iPS細胞由来アストロサイトと共培養することで、 体内の血液脳関門と同様の薬物の透過性を示す血液脳関門モデルを作製することに成功した。

今回作製されたモデルは、薬の開発においてその血液脳関門を透過できるかを予測するのに有用であることが考えられると、同研究グループは説明している。

(周藤瞳美)