カーギルなどの穀物メジャーにとって、全農は自分たちの利益を圧迫する敵なのだ。全農グレインを全農が売りに出せば、その日のうちにカーギルの手に落ちることになる。穀物流通の要の企業を外資系に買われ、わが国の食糧安全保障が維持できるだろうか。

 さて、11月29日。安倍政権は農林水産業・地域の活力創造本部を首相官邸で開き、全農の組織刷新などを盛り込んだ農業改革方針を決定した。最終的な提言では、全農の生産資材ビジネスについて、
 「全農は、農業者・農協の代理人として共同購入の機能を十分に発揮する。また、全農は、農業者・農協に対し、価格と諸経費を区別して請求する」
 という表現に改められた。また、農産物販売については、
 「全農は、農業者のために、自らリスクを取って農産物販売に真剣に取り組むことを明確にするため、農協改革集中推進期間内に十分な成果が出るように年次計画を立てて、安定的な取引先の確保を通じた委託販売から買い取り販売への転換に取り組むべきである」
 と、「1年以内」という期限がなくなった。

 骨抜きと言えば、そう表現できないこともないが、そもそも論として、
 「なぜ、農協が組合員であり、組合員の総会が【意思決定機関】であるはずの全国農業協同組合連合会(全農)のビジネスに、政府がくちばしを挟むのか?」
 という、根本的な疑念を拭い去ることはできない。

 全農もしくは全農グレインを、カーギルに売りに出すことが最終目的であるとしか思えない安倍政権は、わが国の「食料安全保障」について、真剣に考えているのだろうか。日本で唯一、外国資本が入っていない「食料商社」である全農がどれほど貴重か、「国民を飢えさせない」食料安全保障に少しでも頭が向けば、誰にでも理解できるはずだ。
 農協改革や全農解体を執拗に推進している以上、安倍政権は日本国民の食料安全保障について「軽視」していると断ぜざるを得ない。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。