過去数年、連結売上高で世界一の総合ガラスメーカー・旭硝子は、財務内容の改善に取り組んできた。ようやく、2015年度から業績を反転させたが、成長の継続性という点では“意外な悩み”を抱えている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

 過去の一時期、あまりに業績が良かった反動に苦しめられてきたメーカーが、旭硝子である。やっと、今期に入ってから“攻め”に転じる姿勢を明確にすることができた。

 6期前、すなわち2010年度に連結売上高1兆2889億円、営業利益2292億円と過去最高の数字をたたき出した直後に業績が悪化した。以来、14年度まで4期連続で下降を続けたが、15年度の営業利益を712億円と反転させ、純利益も積み増した(図(1))。

 10年度の営業利益2292億円をけん引したのは、「液晶ディスプレイ」という大ヒット商品だった。この部材の利益率は最盛期に40%を超えていたばかりか、04〜10年度は会社全体の営業利益の80〜90%を稼ぐ「50年に1度のお化け商品」(島村琢哉社長兼CEO)だったが、極東アジアにおける競争の激化で価格が大幅下落し、優位性が失われた。わずか数年で、天国と地獄を味わったことになる。

 旭硝子は、1兆3263億円(15年度)という連結売上高で見れば、世界一の総合ガラスメーカーだ。また、板ガラスメーカーと化学品メーカーという二つの顔を持っている。国内のガラス事業で2位の日本板硝子は長らく経営再建中で、ガラス専業であることから規模は半分以下の6292億円(15年度)。3位のセントラル硝子は、5分の1以下の2353億円(15年度)のため、横並びで比較するには開きがあり過ぎる。

 まさに業界の雄といえる存在なのだが、セグメント別の売上高の割合などをチェックすると、意外な実像が見えてくる(図(2))。

 ガラス部門、電子部門(液晶ディスプレイ事業はここに含まれる)、化学品部門の主要3分野では、1907年の創業時からある本業のガラス部門の売上高の割合が50%を超えるにもかかわらず、営業利益は3番目なのだ。現在の稼ぎ頭は、かつて傍流視された化学品部門である(ちなみに、島村社長は化学品部門の営業出身だ)。

 部門ごとに営業利益を見ると、ガラス部門のみ12〜14年度まで4期連続の赤字で、ようやく15年度に黒字転換を果たした。苦境の背景には、08年のリーマンショック、10年以降の欧州債務危機で欧州事業が低迷したこと、さらに米国事業がなかなか赤字体質から脱却できなかったことなどがある。

 もっとも、液晶ディスプレイが絶好調だった時期でも、旭硝子はある特定のヒット商品に依存する経営をよしとせず、主要3分野の収益構造をバランスさせたいと考えてはいた。だが、そう簡単には液晶ディスプレイのような「50年に1度のお化け商品」が現れない中で、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の日々が続いた。

 結果的に、欧米で不採算事業を整理することで、最大の懸案だったガラス部門の黒字化を図る。15年度のセグメント別の営業利益率を見ると、ガラス部門が1.9%、電子部門が10.1%、化学品部門が9.6%である。この三つを並べれば、ガラス部門だけが極端に低いが、「12〜14年度はマイナスだったことを考えれば、それでもましになった」(中堅幹部)。

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