ここ数年、幼稚園児、保育園児、小学校低学年の子どもたちに感情のコントロールができない子やキレやすい子が急激に増えている、という現象が起きています。

勉強しても台無しに!? 「スマホと学力低下の因果関係」が最新研究で明らかに

その大きな原因のひとつが、母親がスマホばかり見ながら子育てしていることなのだとか。

心理学・教育学の専門家で、『スマホ依存の親が子どもを壊す』(宝島社)の著者である諸富祥彦先生に、母親のスマホ依存が子どもに及ぼす危険な影響についてお話をお伺いしました。

とくに生後半年から3歳までが危険!母親のスマホべったりはプチ虐待と同じ

――今回の著書はとてもショッキングな内容でした。キレやすい子が増えているのは母親がスマホばかり見ているのが原因と気づかれたのは、いつ頃のことだったのですか?

諸富先生(以下、諸富):2年ほど前でしょうか。幼稚園や小学校、学童保育の先生方から、自分の感情をコントロールできない子が急激に増えてきているが、どうしたらいいかと相談を受けたんですね。

例えば、友達にからかわれた、先生に注意された、服に水がかかったという、ほんのささいなことをきっかけに、「イヤダ-! イヤダ-!」と、その場に倒れ込み、手足をジタバタさせて泣き叫び続ける。

小学校2年生になっても、まるで2〜3歳児のようにかんしゃくがとまらない。ある小学校では、1年生のクラス30人中の10人中に、こうした傾向が見られたと聞きました。

では、なぜそうしたキレやすい子が増えてきたのか。

その理由を探るため、その子たちが置かれた生活環境を見てみたら、「お母さんがスマホばかりに気を取られ、子どもをほったらかしにしている」という共通点があることに気づいたんですよ。

――日本にスマホが普及したのが、ちょうど今、小学校低学年の子どもたちが生まれた頃ですね。

母親がスマホばかりを見ているとなぜキレやすい子になるのでしょうか?

諸富:それは、子どもを無視して放置することにつながるからです。

いくら子どもが泣いてお母さんを呼んでも、お母さんがスマホの画面ばかり見つめて自分のほうを向いてくれなかったら、子どもはどんな気持ちになるでしょうか?

これは、大人の関係に置き替えて考えてみるとよくわかります。

妻が「ねえ、ねえ」と一生懸命夫に話しかけているのに、夫はスマホの画面から目を離さず、自分のほうをまったく振り向いてくれない。

ご主人にこんなことをされたら、誰でも心が折れちゃいますよね。

スマホばかりに気を取られているお母さんは、それと同じことを我が子にしていることになるわけです。

いくら泣いても放置しっぱなし。しかも、それが毎日の習慣になっている。

それは、言い方を変えればネグレクトと同じプチ虐待です。

それでも、子どもはお母さんに振り向いてほしくて、30分でも1時間でも、大声で泣き続ける。とくに、言葉で意思の疎通をするのが難しい生後6カ月から3歳までの子どもが、そうなりやすい。

その結果、自分の欲求が通るまでいつまでも泣き叫び続けるという、感情のコントロールができない子に育ってしまうのです。

幼児期に心の安全基地を築けなかった子どもは大人になっても不幸な人生を歩む

――LINEの返信に集中したり、スマホのゲームアプリに夢中になったり。誰でも自然とやっていることが、プチ虐待につながってしまうのですね。

諸富:そう、そこがスマホ依存の怖いところです。

スマホに夢中になっているお母さんたちは、自分が子どもを無視していることに気づいていない。

当然、悪いことをしているとも感じていない。我が子をプチ虐待していることにまったく無自覚なんですよ。

さらにもうひとつ、スマホ依存しやすいお母さんというのは、内心「子育てが面倒くさい」と感じ、子育てにイライラしている人が多いんですね。

だから、現実逃避ではないけれど、ついついスマホの世界に逃げ込んでしまう。

こういうお母さんは子どもへの対応も気まぐれです。

自分がスマホに夢中になっているときは子どもを無視したり、「うるさい!」「泣かないで!」と大声で怒鳴りつけたりするのに、自分の機嫌がいいときは、子どもをあやしたり、一緒に遊んでやったりもする。

――子どもへの接し方が一定していない。

諸富:そう、そうすると子どもの心はますます不安定になっていきます。

あるときは優しいけれど、あるときは無視されたり怒鳴られたりする。その結果、「自分は、無条件にお母さんに愛されている」と実感できず、自分自身に自信が持てない子になってしまう。

大人になってもずっと幸せな人生を歩んでいくためには、「自分は愛されるに値する存在だ」と感じられる心の土台が絶対に欠かせません。心の安全基地と言ってもいいでしょう。

そして、この心の安全基地は、3歳までの間にいかにお母さんと安定した関係を築くかによって造られていくものなんですね。

スマホべったりで、気まぐれ育児をしているお母さんに育てられた子どもは、この心の安全基地がきちんと造られないまま大人になってしまう。

そのせいで、「どうせ自分は幸せになる価値などない人間だ」という思考回路が定着し、なぜか人生を「悪いほうに、悪いほうに」と運んでいき、「不幸になるように、なるように」と生きていく。

これは本当に恐ろしいことですよ。

――母親のスマホ依存が子どもの将来まで不幸にするなんて……。

諸富:そう、たかがスマホとあなどれない。

幼いころに、母親から無視されたり怒鳴られたり、あるいは気まぐれな接し方で育てられると、大人になったとき、その子も他人に対して同じような接し方しか出来なくなってしまいます。

その結果、親しい友達もできず、結婚もできず、職場の人間関係もうまくいかない。

わが子にそんな不幸な人生を歩ませないためにも、お母さんたちには、一刻も早くスマホべったりの生活をあらためてほしいのです。

LINEの返信は子どもから見えない場所で。使う時間を決めること。

――お話を聞けば聞くほど怖くなってきましたが、かといってスマホをまったく使わないわけにもいきません。

諸富:えぇ、スマホ自体が悪いわけではありませんから。要は、使い方に気をつければいいのです。

理想は、子どもが起きているときはスマホを見ないこと。

とはいえ、LINEやSNSの急ぎの返信もあるでしょうから、いまどきのお母さんたちにはかなり難しい。

そこで、おすすめしたいのが使う時間を決めること。たとえば、子どもと1時間遊んだら、大事な連絡がきていないどうか、5分間だけスマホをチェックするというようにルールを決める。

その際に大切なのは、「自分が無視されている」と子どもが感じないように、子どもから見えない場所でスマホを使うこと。家の中で、いちばんいい場所はトイレです。

子どもの機嫌がいいときに、「お母さん、ちょっとトイレに行ってくるね」と声をかけ、トイレの中でLINEの返信をする。そうすれば、子どもは自分の存在を「無視されている」とは感じません。

――子どもが寝ている間は、好きなだけ使ってもいいんですよね?

諸富:もちろんです。ただ、いくらゲームやネットサーフィンにはまっていても、子どもが起きてきたり、泣き声をたてたら、すぐにスマホをやめて、子どもに関心を向けること。

乳児の場合は、たとえ泣かなくても、何も言わずにじーっとお母さんを見つめていることがよくあります。そんなときも、いちはやく子どもの視線に気づいてそばに行ってあげることが大切です。

こうしたほんのわずかな心がけで、子どもの心は安定します。

ご自分のお子さんが、すでに3歳を過ぎてしまった方、小学生になってしまった方でも決して遅くない。

気づいたときから、スマホとのつきあい方をあらためるようにしていけば、それまで不安定だった子どもの心も徐々に落ち着いていくはずです。


日ごろ、あたりまえのように使っているスマホが、子どもの心にこんなにも悪影響を及ぼしていたなんて!

母親なら、可愛いわが子に幸せな人生を歩んでもらいたいと思うのはみんな同じ。スマホべったりの育児は“プチ虐待”につながると意識して、今日からスマホの使い方を、ぜひ見直したいものですね。

今回お話を伺った諸富祥彦先生の著書『スマホ依存の親が子どもを壊す』(宝島社)には、ママたちのスマホ依存を解消する具体的な方法の数々や、小学校高学年から高校生までの子どもたちをスマホ依存にさせない方法も解説されています。

スマホが手放せないママたちの良きルールブックとなる1冊です。

●諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)

1963年、福岡県生まれ。明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、上級教育カウンセラーなどの資格も持つ。「すべての子どもはこの世に生まれてきた意味がある」というメッセージをベースに、20年以上、さまざまな子育ての悩みを抱える親に、解決法をアドバイスし続けている。『10歳までの子育てのルールブック』『男の子の育て方』『女の子の育て方』など。最新刊は『「プチ虐待」の心理』(青春新書)。