「降りてきた」――。そう感じられる瞬間がごくたまにあるのだという。降りてくる? 何が? 「映画の神様が!」 。めったにない、でも一度味わったら忘れることができないその快感こそ、石井杏奈が女優を続ける理由である。E-girlsの一員として活躍する一方で、連続ドラマ『仰げば尊し』(TBS系)など女優としても精力的に活動を続ける18歳は試行錯誤を繰り返す。映画『四月は君の嘘』でも、主人公にほのかな恋心を抱きつつ、なかなか本心を言い出せない幼馴染という、観客の視点を代弁する等身大の女子高生役の難しさに、時に身悶えながら答えを探し求めた。

撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



強そうに見えて…実は流されやすい乙女?



――母の死をきっかけに音を失ってしまった天才ピアニスト・有馬公生(山崎賢人)が自由奔放なヴァイオリニスト・宮園かをり(広瀬すず)との出会いから、少しずつ音楽を取り戻していくさまを描いた『四月は君の嘘』。累計発行部数500万部を超える人気漫画が原作ですね。

すごく有名な原作なので、名前は知ってました。お話をいただいて、全11巻を一気に読んだんですが、普段、あまり漫画を読むほうではない私でも、すぐにのめりこみました! キラキラした青春の片隅の切なさにキュンとして、公生たちに感情移入しながら読みました。

――石井さんが演じた椿(つばき)は、渡(わたり/中川大志)とともに公生と幼馴染の熱血スポーツ少女ですね。かをりの親友でもあり、公生とかをりを繋げるのも椿です。一方で、自分でも気づかないふりをしているけど、公生に恋心を抱いていて…。

椿役を演じると聞いて、椿を意識して漫画を読んでまず感じたのは、特に女子が共感する女の子だなってこと。私自身、読みながらどんどん椿を好きになったし、応援したくなりました。



――そんな女の子を演じるということは…。

そう! そこでふと我に返って(笑)、いま私がそう感じているということは、映画を見る人に、私が演じる椿に対しても同じように感じてもらわなきゃいけないということなんだと…。そう考えるとプレッシャーと不安が襲ってきました(苦笑)。

――椿役は難しい役だと思います。すごく魅力的で、感情移入しやすい女の子ですが、セリフや行動がすごく漫画的で、それをそのまま演じても不自然ですし。

そうなんですよね(苦笑)。すごくかわいいんですけど…難しかった! 人気漫画で、読者ひとりひとりの中に、それぞれの椿像があって、それをひとつにするなんて不可能ですし。自分の思う椿をまっすぐに演じるしかないなと。公生、渡との関係性、かをちゃんとの絆を大事に表現できればと思って臨みました。



――石井さん自身は、椿と似ていると思いますか?

私自身は、遠い存在だと思ってたんです。でもこないだ、取材を受けたとき、すずが「杏奈と椿が一番近い」って言ってて。そう思われるのは嬉しいですね。私自身は、共感はできるけど、あんなにまっすぐにはなれないなぁ…と思いますけど。



――広瀬さんが言う、石井さんと椿の近い部分はどこを指してるんでしょうね? 男勝りなところですか?

すずが言うには、男勝りに見えて、実は乙女なところだと(笑)。普段はまっすぐなのに、肝心なところでは素直になれないところがあるって…すずの前ではそんな風にしてたんですかね?(笑)

――E-girlsでも活躍する石井さんに対し、明るく活発な椿のイメージを重ねるファンも多いかと思いますが?

そうですか!? 意外です! 素の私を知る周りの人からは「フワフワしてるね」と言われそうな気がするので…(笑)。

――本当は乙女な部分が強いんでしょうか? 本心を出せずに隠してたり?

まさにそっちのタイプだろうなって自分では思ってます。なかなか勇気が出なくて…ということもわりとあるし。そういうところを直したいと思いつつも、周りから言われたことに対して「うん、大丈夫」とか「いいよ」って答えちゃう(苦笑)。



――意外と流されやすい?

弟や妹がいるので、強気なところは強気なんですけど…でも「本心はどうなの?」って強く迫られたとき、強く自分を出したりできないです。いや、言葉でなら強気になれるかもしれないけど、なかなか勇気を出して一歩を踏み出せないのは、自分が一番よくわかってます。なかなか…できないんですよね(苦笑)。

――そう考えると、広瀬さんの言葉は、実はかなり本質をとらえてる?

そうなんですよね。さすが! よくわかってますね(笑)。



「グイグイ引っ張ってもらいたい」理想の恋愛



――公生、かをり、渡など、椿以外の登場人物に対してはどんな印象を持ちましたか?

公生やかをちゃんは、特別な才能を持っている人間ではあるけど、普通にそのへんにいそうだなと思いました。はたから見るとなかなか気づけないけど、そういう人たちも実は内面にいろいろ抱えているんだなと思ったり。椿の立場からすると、公生や渡という幼馴染がいるってすごく貴重なことだなとも思いました。

――異性の幼馴染ってうらやましいですよね。

なかなかいないですよね。あの年齢で、異性の意見をごく当たり前に聞けるってめったにない。すごく貴重な存在だなと思います。



――椿は、幼馴染という近すぎる距離感もあって、公生への想いをなかなか素直に伝えられませんね。そして、公生もけっこう、ニブいです(笑)。渡は、モテモテですがチャラい雰囲気もあります…。恋愛的に見て、公生と渡のふたりの男子はいかがですか?

渡って、チャラそうに見えて、実はちゃんとしてそうだなって思います。軽いけど、女友達と彼女の区別はきちんとあるのかなと。だから、特定の恋人がいないときはチャラいけど、彼女がいるときは他の女の子と遊ばない気がします。公生は不器用で、相手に引っ張られつつ、あれで実は相手を引っ張る男の子かな?

――石井さんが付き合うなら…。

渡です!

――即答ですね(笑)。

タイプとして、完全に渡ですね。しっかりしてて頼りがいはあると思うので。ふたりを比べたら、渡のほうがよりグイグイ引っ張ってくれそうですよね。




――付き合ったら男性に引っ張ってほしい?

そういう気持ちは強いですね。

――改めて、石井さんの恋愛観を教えてください。

余裕のある人がいいですね。まあ、切羽詰まることってあんまりないでしょうけど(笑)。どこに行こうか? ってなったとき、あっちが「どこでもいいよ」と言ってくれたときに、私が急に「温泉行きたい!」と言い出しても「じゃあ、群馬行こうか?」とか動じないで受け止めてくれる人がいいです。

――そういう余裕のある男性を前に、石井さんはどんな風に振る舞うんですか?

想像できないです!(笑) どうなるんだろう…? うーん、何も話さないで隣にいても落ち着いて一緒にいられたらいいですね。

――映画の中のかをりのように「パンケーキ食べに行きたい!」とか甘えたり、相手を振り回したりすることは…。

言ってみたいですね(笑)。でも叶わなくてもいいです。言うだけ言いたい。家族や友達と話しているようなノリで一緒にいたいんですよね。何より“近い存在”になりたいです。