【福田正博 フォーメーション進化論】

 日本選手団が目覚ましい活躍を見せたリオ五輪にあって、サッカー男子代表はグループリーグで敗退に終わった。初戦でナイジェリアに4−5で敗れると、次戦のコロンビア戦は2−2で引き分け。3戦目のスウェーデンには1−0で勝利したものの、勝ち点1差で決勝トーナメント進出を逃した。この結果は残念でならない。

 リオ五輪での日本代表は3試合を通じて、攻撃の形ができていた。相手陣中央でのコンビネーションやサイド攻撃から、何度もチャンスを作り出した。失点した直後にゴールを奪い返した点も評価できる。国際大会でゴールを許すとズルズルと失点を重ねがちな日本サッカーに足りないタフさを見せてくれた。

 コンディション面でも、3試合とも後半20分を過ぎても足は止まらなかった。それだけに1戦目、2戦目と、先制されて追う試合展開になったことが悔やまれてならない。もし、残り20分まで勝負を持ち越す展開にできていれば、違った結果になっていたはずだ。

 敗因として、オーバーエイジ(OA)組を起用したことによるDF陣のコンビネーション不足をあげる声もある。つまり、五輪最終予選を戦ったOA組のいないDFラインであれば、連係面で不安要素がなかったのではないか、という意見だ。しかし、私としてはこうした論調には賛同しかねる。

 なぜなら、4年前のロンドン五輪でも、DFラインにOA枠の選手を起用していたからだ。4バックのうち、センターバックと右サイドバックにOAの吉田麻也と徳永悠平を起用し、グループリーグを突破。準決勝と3位決定戦では勝利を逃したものの、4位という好成績だった。今回のリオ五輪でも同じようにOA枠の選手をDFラインに起用したわけだが、結果が良かった前回はDFラインのコンビネーションについて問題視せずに、結果が出ないからと言って、すぐにOA枠の選手起用を批判するべきではないだろう。

 また、オーバーエイジの選手に「リーダーシップ」や「国際大会での経験値」を求める意見も多いが、年上だからといって、選手の誰もがそれを持ち合わせているわけではない。

 今回オーバーエイジ枠でメンバー入りした興梠慎三、塩谷司、藤春廣輝の3選手は「リーダーシップ」や「国際大会での経験値」に特徴がある選手ではなかった。手倉森監督が3選手に望んだことは、U-23年代の選手では埋められないポジションを彼らに任せて、チームの戦力をアップすることだったはずだ。

 もちろん、弱点のポジションを埋める選手が、リーダーシップや国際経験を持ち合わせているのに越したことはない。それを望むのであれば、そうしたキャラクターや実績のある選手を招集するべきであり、リオ五輪のブラジル代表が、ネイマールというチームの中心になる選手を招集したように、日本サッカー界もA代表のレギュラークラスを招集できるようなバックアップ体制の構築を今後考えるべきだろう。

 また、今回のリオ五輪でのグループリーグ敗退の原因を考えると、日本サッカー界が抱える根深い問題点に目を向けざるをえない。

 日本サッカー界にとって長年の課題は、「選手が国際経験値をいかに高めていけるか」にある。サッカーの中心地である欧州から遠く東の果てに位置する日本にとって、体が大きく、スピードやパワーがあって、価値観の違う相手と日常的に対戦することはできない。

 そうした相手との対戦が国際大会では避けられないからこそ、日本サッカー協会は彼らと対戦ができるU-17やU-20といった年代別ワールドカップを重視してきた。だが、今回のU-23代表メンバーのように、U-20ワールドカップ出場を逃した年代は、そうした経験を積む機会が少なく、経験不足を補うには自らが海外に出なければならない。

 U-23世代で日常的に"国際経験値"を積んで伸ばしてきたのはオーストリアのザルツブルグに所属する南野拓実と、スイスのヤングボーイズに所属する久保裕也だろう(久保はクラブが招集を拒否したためメンバー入りせず)。つまり、他のメンバーはU-20ワールドカップの予選以後は、そうした経験を積むことができていなかった。

 リオ五輪前、日本はナイジェリア対策として、ガーナと南アフリカと親善試合をしたが、それだけでは"国際経験"を積んだとは言えない。真剣勝負でしか経験できないことが多いからだ。

 選手は頭ではアフリカの選手の身体能力の高さを理解していたはずだが、ピッチで戦ってみないとわからないことは多い。実際、リオ五輪のナイジェリア戦、日本はファーストコンタクトで右サイドの2選手がかわされたことから失点を喫した。

 アフリカの選手は、日本選手の予想を超えたところに足が伸びてきたり、ボールに追いついたりする。そのためJリーグやアジアでの対戦ではミスにならないプレーも、結果的にミスになってしまう。90分間しかない試合でアフリカの選手の動きに慣れてアジャストしろというのは酷というものだ。

 では、どうすればいいのか? まず、Jリーグで日常的に国際経験を養えるシステムの構築。これこそが、今後の日本サッカーの課題だろう。Jリーグではファウルの基準を海外リーグと同じように設定しているが、それだけでは限界がある。人種、体型、ものの考え方や価値観などが日本人とは異なる、さまざまな国の選手をJリーグに取り込み、そうすることで、日本人選手が国内でプレーしながら"国際経験"を積めるようにする。そうした抜本的な改革が必要ではないだろうか。

 4年後のオリンピックは東京で行なわれる。次の五輪代表世代は、バルセロナのユース育ちの久保建英など、若手の成長に期待しつつ、メキシコ五輪以来となる54年ぶりのメダル獲得を目指してほしい。

 それだけに、日本サッカー協会には「選手の国際経験」や「オーバーエイジ枠」といった問題に対して、本気で取り組む姿勢を打ち出してもらいたい。そして、東京オリンピックでは、日本サッカーが話題の中心になることを願っている。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro
津金一郎/構成