厳選!2歳馬情報局(2016年版)
第9回:ソウルスターリング

 2010年から2012年にかけて、世界の競馬ファンに大きな衝撃を与えた馬がいる。イギリスで生涯14戦全勝という驚異的な成績を残したフランケルだ。

 キャリアの中で同馬が獲得したGIタイトルは10個。ほとんどのレースが楽勝で、引退するまで底を見せることがなかった。その活躍ぶりから、「史上最強馬」の1頭に挙げる関係者も少なくない。

 フランケルは引退後、そのままイギリスで種牡馬入りした。そして今年、初年度の産駒となる2歳馬が世界中でデビューする。

 もちろん、日本にもデビューを控えたフランケルの子どもたちがおり、その中には世界的な注目を集める良血馬もいる。

 その1頭が、藤沢和雄厩舎(美浦トレセン/茨城県)に所属するソウルスターリング(牝2歳)だ。

 同馬は、7月31日の2歳新馬(札幌・芝1800m)でデビュー予定。その一戦には、おそらく世界中の競馬ファンが熱い視線を送ることになるだろう。

 というのも、ソウルスターリングにはフランケル産駒ということに加えて、人々を高揚させる要素がもうひとつある。同馬の母スタセリタが、フランスとアメリカでGI6勝を挙げた名牝だからだ。

 父母合わせて、海外GI16勝。ソウルスターリングは、紛れもなく世界屈指の"超良血馬"なのである。

 そんなソウルスターリングは、6月中旬に入厩し、デビューへ向けて調整中。ここまでの過程は、極めて順調だという。関東競馬専門紙のトラックマンがその様子を伝える。

「入厩してからは、何らトラブルなく乗り込んでおり、『仕上がりに不安はなく、いい形でデビュー戦を迎えられる』とスタッフは話しています。460kgほどの馬体はいい具合にまとまっていて、『パワーのありそうな乗り味』という評価。藤沢調教師も『馬っぷりがすごい』とかなり期待している様子です」

 調教で乗っている限りでは、気難しい面を見せることもなく、状態自体も悪くないとのこと。デビュー戦の鞍上には、母とコンビを組んでいたルメール騎手を手配し、世界的な良血馬はまさに万全な態勢を整えて初陣を迎えることになる。

 それでも、調教を手がけるスタッフは一抹の不安を抱えているという。先述のトラックマンが続ける。

「スタッフが懸念しているのは、父母ともにヨーロッパで活躍した血統で、日本特有のスピード競馬に対応できるかどうか、ということ。ヨーロッパの芝は深く、パワーが優先されますから。

 現にあるスタッフは、『(ソウルスターリングには)パワーは感じるけれど、切れ味の面では不安が残る』と漏らしています。スローペースからの瞬発力勝負になると、"一瞬のスピード"で遅れをとるかもしれません。そうした心配もあって、(洋芝の)札幌競馬場でのデビューを選んだようです。比較的パワーのいるコースですから」

 これまでも、ヨーロッパで実績を残した名馬の血を引く評判馬が、勝負どころでの切れ味で劣るなど、日本のスピード競馬に対応できず、期待を裏切ったことが何度となくある。ソウルスターリングにも、その憂慮は付きまとう。

 とはいえ、父フランケルは世界の競馬史に金字塔を打ちたてた"モンスター"である。そのDNAからすれば、こうした不安など取るに足らないものかもしれない。世界中に衝撃を与える走りを、ソウルスターリングがいきなり見せてくれることを期待したい。

河合力●文 text by Kawai Chikara