「まだまだ自分のために生きていたいし……」子どもを持つことに二の足を踏んでいる子なしライターが、3人のキャリアママに「それでも、産んでよかったこと」を聞く座談会後編。前編では、「母性がなくても、母になれますか?」との問いかけにポジティブな発言が飛び出し、子なしライターとしては出産・育児への不安がふっと軽くなるのを感じました。後編では、さらに未知なる扉を開いていきます。

【前編はこちら】 “母性”がなくても母になれますか? 子なしライターが聞く「それでも、産んでよかったこと」

〈参加者〉※全員仮名です
・カトウさん:24歳で結婚、32歳で出産。4歳の娘がいる。
・ヤマダさん:31歳で結婚、32歳で出産。中学一年生の息子、小3の娘がいる。
・タカハシさん:23歳で結婚、31歳で出産。1歳3ヶ月の娘がいる。

「子どもを持つメリットは?」は愚問

――前編からお話を聞いていると、「子どもを持つこと」には本当にいろいろなメリットがあるとわかりました。他にはどんなメリットがあるんですか?

ヤマダ:うーん、「メリット」と言われると、ちょっと違うんですよね。もはや「メリット/デメリット」というレベルの話じゃなくなっちゃうというか……。

タカハシ:そうそう、なんか次元が変わっちゃう。たしかに、私も産む前は「子どもを持つメリットって何?」って考えてました。「育児の経験を仕事に活かせること?」「一人前と認められること?」「老後が寂しくないこと?」なんて。でも、実際に産んでみると、そんなことは無意味でしたね。メリットなんて、いちいち考えなくなっちゃう。

だいたい「子どもを持つ」って、メリットとデメリットを数え上げて合理的に判断したら、絶対に出てこない結論だと思うんですよ。特に女の人は捨てなきゃいけないものもたくさんあるし。でも、エイッと踏み出してみたら、そこには別次元は広がっていたみたいな。

――そうなんですね……。「子どもを持つメリットは?」自体が愚問だと。

「子育て」は究極的な共通の話題

タカハシさん(以下、タカハシ):あ、でも、「産んでよかったこと」なら本当にたくさんありますよ。例えば、「話が通じる人」が爆発的に増えました。出産・育児って、世代も人種も関係なくわかり合える究極的な共通の話題なんですよね。バスで乗り合わせたお婆さんとも、GAPの子ども服売り場で出会ったインド人夫婦とも自然に盛り上がれる。初対面の仕事相手とでも、子どもの話題になってスッと打ち解けられることがよくあります。

カトウさん(以下、カトウ):子なしの友人とはだんだん疎遠になってしまうけど、トータルで友だちは増えましたね。

ヤマダ:そう、3倍くらいになった! 「同年代の子どもがいるママ」という共通点だけでつながるので、出産前なら絶対に友だちになりえなかったような人たちと関われるんです。そういうママたちとコミュニケーションをとったり、家族ぐるみで付き合ったりすることで、自分の世界が広がっていくのを感じます。

「ちゃんとした人間」に育てる自信はないけれど

――子育てに自信のない身としては、一人の人間をきちんと育てられるか不安でたまらないのですが……。

ヤマダ:それが本音かもしれないですね。イヤなところも含めて、どんどん自分に似てきますし。

タカハシ:だからこそ、正しい行いをしようと努めますよね。人の悪口を言わないとか、服を脱ぐ時にちゃんと表に返して洗濯物カゴに入れようとか(笑)

ヤマダ:子育てに自信なんかないですよ。「こうなっちゃダメ!」って常々思いながら育てますから。正しく育てられるとも、ちゃんとした育児ができるとも思えない。いろんな人に助けてもらいながら、自分の限界の中で育てる。それでいいじゃないですか。世のため人のためになるような子どもを育てようと思うと、すごく息苦しいんじゃないでしょうか。

仕事を辞めないのは、子どもと「ちょうどいい距離」を保つため

カトウ:私も子どもには期待しすぎないようにしています。多分、私がヤマダさんのように専業主婦になって子どもをしっかり育てようとすると、「仕事を辞めてまで育児をしてるんだから、ちゃんとした子になってもらわなきゃ」ってプレッシャーをかけちゃうんじゃないかと。自分には自分の世界があって、子どもには子どもの世界がある。それくらいの距離感がちょうどいいと考えています。

タカハシ:そうそう。私が「自分の欲望が満たされていないと、子どもに優しくなれない」と前半で話したのも同じで、やりたいことをやってると、子どもとの間にちょうどいい距離感を作れるからなんです。

ヤマダ:餅は餅屋で、礼儀作法をきっちり教えてしつけたいなら、そういう教室を利用すればいいし、仕事のために預けたいなら預ければいい。今は自分が望む子育ての形を自由に選べる時代だから、母親が我慢せずに済む方法を選べばいいと思うんでよね。「こうしなきゃ」じゃなくて、あくまで自分が「こうしたい」を基準にやっていけばいいんです。

親との関係が改善する

――子どもを持つ自信がない理由として、自分と親の関係を肯定できないこともあると思います。つまり、自分の親が「毒親」だったから、自分も「毒親」になっちゃうんじゃないかと。

カトウ:私も親とはずっと意見が合わなくて。でも、子どもを産んだことでその関係が改善されたような気がします。心の底から子どもをかわいがってくれるのを見ると、「ああ、こんなふうに私を育ててくれたんだな」と気づく。すると、これまで心の底にわだかまっていた親への不満みたいなのが解けていく感じがするんですよね。

ヤマダ:「自分が“毒親”になったらどうしよう……」って心配している人がいるなら、「それに気づいてる時点で、子育てに“成功”してるよ」って言ってあげたいですね。毒親になりたくないのなら、そうしなければいいだけの話。自覚があるなら、対策のしようはいくらでもありますから。無自覚だと、どうしようもないけれど。

「産まない豊かさ」にも気づいた

タカハシ:でも、実際に産んでみて、「別に産まなくてもいいんじゃない?」とも思いました。妊娠・出産・育児は、女の人にとって本当に「失うもの」も「得るもの」も多いんです。「◯◯というメリットがあるから産む」「まわりが産むから産む」「年齢が年齢だから産む」という理由だけで子どもを持つと、割り切れないこともたくさんあるんじゃないかな。

ヤマダ:そうそう、私も産みたい人だけ産んだらいいと思う。

タカハシ:夫とも時々話すんです、「産まない豊かさ」ってあるよね、と。時間もエネルギーもお金も、100%自分のために使い切る。それはそれで素晴らしい人生だと今はごく自然に思えます。だから、本当に産みたい人だけ産めばいいんじゃないかと、出産を経験した今は考えています。