東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館は、“樹木”というモチーフを通して、フランス風景画の変遷をたどる展覧会「樹をめぐる物語」を4月16日から6月26日(日)まで開催。

シャルル・フランソワ・ドービニー「ヴァルモンドワの下草」1872 年 油彩、キャンヴァス 125×89 cm カミーユ・ピサロ美術館、ポントワーズ/Pontoise, Musée Camille Pissarro

本展は、フランスのパリ近郊にあるポントワーズ美術館(カミーユ・ピサロ美術館、タヴェ・ドラクール美術館)館長、クリストフ・デュヴィヴィエ氏が監修を務めた。フランスを中心に国内外の美術館、ならびに個人所蔵作品から油彩を中心に、素描や版画など、自然や樹木に対する画家たちの想いが込められた作品約110点を展示する。

■ シャルル・フランソワ・ドービニー「ヴァルモンドワの下草」

神々や人間の姿を描いた歴史画が絵画の頂点とされていた時代、自然を描いた風景画の地位は低く、風景はあくまで背景として描かれることがほとんどだった。やがて19世紀になり近代化が進むと、レジャーの発展に伴う田園生活への憧れから、徐々に風景画を描く画家が登場するようになる。

バルビゾン派を代表する画家、シャルル・フランソワ・ドービニーは、風景画家だった父から絵の手ほどきを受け、アトリエ船「ボタン号」でセーヌ河やオワーズ河流域の水辺の風景を好んで描いた。

■ カミーユ・ピサロ「マトゥランの丘にて、ポントワーズ」

自然を前にしてスケッチを描き、最終的な仕上げは屋内のアトリエで行っていたバルビゾン派に対し、刻々と変化する自然の形態を両面に留めるため、屋外で作品を仕上げるようになったのが印象派の画家たちだ。

バルビゾン派に多大な影響を受けたカミーユ・ピサロは、「マトゥランの丘にて、ポントワーズ」において、パリ近郊の穏やかな田園風景やそこで働く農民の姿を、明るく透明感のある色彩と軽やかなタッチで描いた。

■ クロード・モネ「ヴェトゥイユの河岸からの眺め、ラヴァクール(夕暮れの効果)」

同じく印象派のクロード・モネ。10代後半で外光派の画家ウジェーヌ・ブーダンと知り合い、屋外の光の下で絵を描くことを教わった。ベトゥイユは、パリの北西に位置するセーヌ河沿いの町。この作品はベトゥイユの対岸のラバクールをセーヌ河越しに描いたもので、ラバクールから対岸のベトゥイユを描いた作品も残されている。

19世紀後半から20世紀に入ると、樹木は場所や種を特定し、自然の光や動きを示唆するものではなく、描かれた形態や色彩、タッチを自律的にとらえるためのモチーフとなっていった。

ロマン派からバルビゾン派、印象派、新印象派、ポスト印象派、象徴派、フォーヴまで、フランス近代風景画が展開する過程において“樹木”というモチーフがどのような役割を果たしてきたのか。

ぜひこの機会に、フランス風景画の全貌をたどってみてはいかがだろう。【東京ウォーカー】