本日、クラブワールドカップ準決勝でバルセロナと広州恒大の試合が行われる。

アジアチャンピオンズリーグでJリーグや韓国のチーム、中東のチームなどを下してきたのが中国の広州恒大だ。今回は「中国サッカーって強いイメージないんだけど…?」という方にも分かりやすいように基礎知識をお届けする。

「爆買い」するのは観光客だけではない

まず、中国代表チームと中国の国内リーグである中国超級は全く別物と考えてほしい。

中国代表チームは、ボラ・ミルティノヴィッチ監督のもと2002年のワールドカップ出場を果たした。しかし、それから13年の月日が経ち今では最終予選進出すら危うい状況にまで落ち込んでいる。

しかし、国内リーグは中国経済の発展と共にバックボーンが強化された。今では欧州の列強以上とも言われる資金力を背景に世界の有名選手獲得を狙える状況にあるのだ。

そのため国内リーグでは、「優秀な外国人選手をいかに買ってくるか」にかかっている。得点王ランキングの上位は各クラブの“助っ人”で占められており、実際に2008年以降全員が外国人選手である。JリーグやKリーグで活躍した選手を中国のクラブが高い年俸をチラつかせてお金の力で移籍をさせる。そうしたことは今では珍しくない。

中国人と言えば「ドンキホーテ」やドラッグストア「マツモトキヨシ」で買い物をしていく観光客をイメージする人も多いだろう。彼ら1人当たりの単価は、平均で日本人の4倍ほどにもなるという。そう、中国人による経済効果はサッカーの面でもアジアを巻き込んでいるのだ。

そんな中国超級という特殊なリーグにおいて、2011年から5連覇を成し遂げるなど圧倒的な強さを見せるのが広州恒大というチームである。

毎年チーム名が変わるのも珍しくない

広州恒大の正式名称は「広州恒大淘宝足球倶楽部」となる。

中国のサッカーチームは日本のプロ野球のように親会社の名前を入れることがほとんどで、そのためにスポンサーが変わるたびにチーム名も変わる。それに伴いホームタウンまで変わることもあるので、1-2年単位で全く別の名称になることも珍しくない。広州もチーム創立時は「中南体院競技指導科足球隊白隊」と名乗っていた。今のクラブ名からは1文字もかすっていないのがお分かりだろう。

現在の親会社は中国の電子商取引最大手のアリババグループ傘下のタオバオ(淘宝)であり、2010年からの親会社である恒大集団(Evergrande Group)と合わせて広州恒大淘宝足球倶楽部となっている。

恒大集団は中国第2位の不動産会社でマンションの販売などで知られている。アリババCEOのジャック・マー氏も同社の株を所有しており関係性を持っている。

恒大集団とは?

広州は元々強いチームではなかった。そこに追い打ちをかけたのが2009年の八百長事件だ。これにより、中国甲級、つまり2部リーグへ降格してしまった。そうした状況を救ったのが、恒大集団である。

彼らは2010年2月にクラブを1億元(およそ20億円)で買収すると、中国代表クラスやブラジル人のムリキなどを次々と補強。2部とは思えない戦力のチームは1年で1部リーグ復帰を決めると、翌シーズンには中国超級優勝を決めた。

恒大集団の野望はとどまることを知らない。

アルゼンチン人MFダリオ・コンカを10億円以上とも呼ばれる年俸でフルミネンセから獲得すると、監督に名将マルチェロ・リッピを据え2013年には次なる目標であるアジアチャンピオンズリーグ優勝を達成した。

現在は、ブラジル代表歴を持つMFパウリーニョ、FWロビーニョをはじめ、エウケソン、ヒカルド・グラール、アラン、レネ・ジュニオールとブラジル人選手だけで6人が在籍している。

リーグの外国人枠は「5」+アジア枠「1」。

合わせて、ベンチ入りが4+1人、試合出場は3+1人までに限られている。登録はシーズン中に7人まで、事前に登録した外国人選手のうち最大2人を変更することができる。かつては、ACL出場チームに限って7人の出場が可能なようにシーズン中ルール事態をねじ曲げたことがあったが、今はさすがにそのようなことはしていない。そのために余剰人員であるレネ・ジュニオールは現在リザーブに落されている。

なお、ゴールキーパーは中国人を使わなくてはいけないという決まりがある。これはKリーグと同じものだ。また台湾やマカオ、香港の選手は国内の選手と同じ扱いであるが、ゴールキーパーでは外国人と同じ扱いになり登録することはできない。


毎年の投資額は100億円以上

こうした選手補強を可能にしているのが、桁外れの資金力である。

2013年、つまり初めてアジアチャンピオンズリーグを制覇した時の営業収入は6億元以上であり8590万元(およそ18億円)の黒字を獲得している。この額はどちらも中国超級でもダントツのものであり、他のチームも金満であるのだがいかに背景が違うかわかるだろう。

恒大集団は2010年にチーム買収資金以外に7000万元(およそ14億円)、2011年には6億元(およそ120億円)、2012年には7億元(およそ140億円)…と毎年100億円を超える凄まじい額の投資を行っている。

選手以外にも選手のキャンプ地の建設、レアル・マドリーなど名だたる強豪との提携など基盤を整えたことも見逃せない。上述の通り黒字経営であることも加えると、広州恒大は強いチームを作るための先駆者として良いモデルケースになったと言えるだろう。

もちろん、「これが10年後20年後と続くのか?」と言われると疑問もある。

上述したように中国超級というリーグは外国人選手が得点王ランキングの上位をほぼ独占している。つまり、外国人が怪我をしたり不振である場合リスクが非常に大きいのだ。今のところ、得点王もここ5年で4人が広州の選手であるが、それが続く保証はない。

だが、現在は最もアジアで強く最も華のあるチームである。使ったお金やスター選手の数だけ見れば他の大陸王者よりも一段上だ。

バルセロナを倒すことは難しいかもしれないが、苦しめることはできるかも知れない。アジアという大陸代表チームの力を発揮してくれるだろうか。