ヘロインやコカインといった薬物には中毒性があることが知られており、その原因は薬物成分に依存性物質が含まれるからだというのが一般的な見解ですが、この見解を否定するムービー「Everything We Think We Know About Addiction Is Wrong」が、Kurzgesagtにより公開されています。

Everything We Think We Know About Addiction Is Wrong - YouTube

一般的に薬物中毒は薬物そのものに原因があると思われています。ヘロインの場合、20日間使用を続けると、体は摂取をやめた21日目以降も化学物質の作用によりヘロインを求めるようになります。これが一般的に理解されている『薬物中毒』の意味です。



Kurzgesagtは「しかし、それは間違っています。例えば、お尻を骨折して入院するとダイアモルフィンを注射されます。ダイアモルフィンはヘロインです」と続けます。



Kurzgesagtによると、ダイアモルフィンはドラッグディーラーが売っているヘロインよりも強力だそうです。ドラッグディーラーが取り扱うヘロインは、薄めた状態で流通されているとのこと。



では、病院でダイアモルフィンを打たれている人たちは薬物中毒になるのでしょうか?



答えはノーです。入院からの復帰後に薬物中毒になる人はいないということが最近の研究でわかっています。一体、なぜでしょうか?



薬物中毒の理論は、20世紀に行われた数多くの実験により確立されました。



実験とは、ケージの中に入れたマウスに「ヘロインもしくはコカイン入りの水」と「水」を与え、マウスは麻薬入りの水を好んで飲み、最後には死んでしまうというもの。



しかしながら、1970年代にスタンフォード大学のアブラム・ゴールドシュタイン教授が薬物中毒の実験に「なぜ、1匹のマウスで実験するのか?」という疑問を持ちます。ゴールドシュタイン教授はマウスが麻薬中毒になったのは、「1匹でケージに入れられたため、さみしくなったからではないか」と考えたわけです。



自身の理論を実証するべくゴールドシュタイン教授は「ラットパーク」という実験を行いました。ラットパークは複数の雄や雌のマウスをボールやトンネルがある広いケージに入れて、マウスに孤独感を与えず交尾も自由に行える環境で「麻薬入りの水」と「水」を与えるというものです。



実験でマウスは水を好んでのみ、薬物中毒になってしまったマウスは1匹もいなかったとのこと。



これはマウスだけに言えることでしょうか?その答えはノー。人間にも同様の事例があります。



Kurzgesagtが示したのは「ベトナム戦争」です。Kurzgesagtによると、ベトナム戦争では全アメリカ兵の20%がヘロインを使用したとのこと。



当然のことながら、ベトナム戦争が終わって兵士たちが戻ってくると、アメリカでは「兵士が麻薬中毒になってしまったのではないか?」という懸念が生まれたそうです。



しかしながら、ベトナム戦争後に帰国した兵士の追跡調査では、95%の兵士が帰国後に麻薬の使用をやめたことが判明したとのこと。



薬物中毒の原因が薬物にあるという古い理論ではこれを説明することはできません。



しかし、ゴールドシュタイン教授の理論を当てはめると簡単に説明がつきます。



死の恐怖におびえながらジャングルで長い時間を過ごす状況においては、ヘロインは最高の現実逃避策になります。



しかし、最悪の環境から帰国して家族の元にもどるということは、マウスが『ケージ』から『ラットパーク』へ移ったのと同じことです。



薬物中毒が起こるのは化学物質が原因ではなく、『ケージ』が原因です。私たちは薬物中毒に対する認識を変えなければいけません。



人間は人と人とのつながりが必要です。人が幸せを感じるのは、多くの人とつながっているとき。



しかし、つながりがなくなってしまうと、人は孤独を感じ別の安らぎとつながろうとします。



スマートフォンを永遠に触っていたり、ポルノを見まくったり、ゲーム・インターネットで遊び続けたり、コカインを常用したりなど。でも、これが人間の本能なのです。



不健康なつながりを断つには、健康なつながりを持つこと。



中毒というのは、『つながりの危機』が起こっていることを示す症状です。



現代のアメリカでは、一人の人が持つ友達の数は1950年以降で減少傾向にあります。その一方で、居住空間のスペースは広がり続けています。



『大きな部屋』と『友情』のどちらが大切でしょうか?



1世紀にも及ぶ麻薬戦争は、今が最悪の状況。麻薬中毒の人を助けるというより、社会から追いだそうとしている感じです。



一度でも麻薬に手を出した人は社会から遠ざけられ、就職することも困難です。



そういった人はケージに閉じ込められ、社会から罵声を浴びせられます。



麻薬中毒は長きにわたって個人の問題と考えられてきましたが、現代では社会の問題になっています。



ケージが存在しない、まさにラットパークのように人間にとって楽園になる社会を作る必要があります。



中毒の反対は正常ではなく、『つながり』なのです。



ムービーをまとめると、Kurzgesagtは薬物中毒の原因が薬物そのものにあるのではなく、生活環境や社会ににあると主張しているというわけです。ただし、ラットパークのように自由すぎる社会を作ると、薬物中毒とは違う問題が発生する懸念も捨てきれないのが現実です。