コンビニの会計で、本来よりも多くのお釣りを受け取ったと気づきながら、そのまま持ち去ったとして、宮城県石巻市の女性が5月下旬、詐欺の疑いで宮城県警に逮捕された。

報道によると、女性は今年3月下旬、石巻市のコンビニで携帯電話料金を支払った。その際、本来なら約3000円の釣り銭のはずが、約4万8000円を渡された。ところが女性は、金額が間違っていると気づきながら、渡された金銭を持ち去った疑いが持たれている。料金は約10万2000円で、女性は約10万5000円を支払ったが、店員は約15万円とレジに誤って打ち込んだのだという。

今のところ、女性は「気づかなかった」と容疑を否認しているようだ。ネット上では「気づかない可能性はありそう」といった同情の声も見られる。今回のようなケースの場合、もし本当に「気づかなった」としたら、どうなるのだろうか。刑事事件にくわしい西口竜司弁護士に聞いた。

●その場で「気づかない」ことも多いのでは?

「世の中には、本来よりも多くのお釣りを受け取った場合、魔が差すという人もいるのかもしれませんね・・・」

西口弁護士はこう切り出した。どうして詐欺に問われるのだろうか。

「今回のようなケースでは、まず客に『お釣りが多すぎる』と店側に告げる『信義則上の義務』が発生します。

こうした義務があるにもかかわらず、店員の勘違いに乗じて、そのままお釣りを受け取って、立ち去った場合、『詐欺』にあたります(刑法246条・10年以下の懲役)」

しかし、お釣りをきちんと確認せず、そのまま財布にしまう人もいるかもしれない。その場で、「お釣りが多すぎる」と気づかなかったとしても、詐欺罪になるのだろうか。

「その場合は、詐欺罪にはあたりません。詐欺罪が成立するには、自分が他人をあざむいて、財物をだましとっているという認識、すなわち『故意』が必要だからです。たしかに少額のお釣りなら、気づかないということもありうるでしょう」

このように西口弁護士は説明する。

「しかし、今回のケースは、お釣りとして約4万8000円も受け取ったことがポイントになるでしょう。通常、お釣りとして『1万円札』を受け取ることはありませんよね。警察も、1万円札を4枚も渡されてその場で気づかないことはあり得ないと、判断したのかもしれません」

もし、あとから「お釣りをもらいすぎた」と気づいたけど、お金を返さなかった場合は、どんな罪に問われるのだろうか。

「あとから『もらいすぎ』に気づいた場合も、すぐ店に返さないといけません。

もし、もらいすぎたお釣りを『自分のモノにしよう』としたら、その時点で『占有離脱物横領』になるでしょう。(刑法254条・1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料)。

したがって、気づいた時点で正直に申し出るべきです」

西口弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/